原題:“In the Electric Mist” / 原作:ジェームズ・リー・バーク / 監督:ベルトラン・タヴェルニエ / 脚本:イエジー・クロモロウスキ、メアリー・オルソン=クロモロウスキ / 製作:マイケル・フィッツジェラルド、フレデリック・ブールボロン / 製作総指揮:グルサラ・サルセノーヴァ、ペネロピー・グラス / 撮影監督:ブリュノ・ド・ケイゼル / プロダクション・デザイナー:メリディス・ボズウェル / 編集:ティエリー・デロクレス、ロベルト・シルヴィ、ラリー・マダラス / 衣装:キャシー・キアッタ / キャスティング:ジャンヌ・マッカーシー,CSA、リサ・メー・フィンキャノン / 音楽:マルコ・ベルトラミ / 出演:トミー・リー・ジョーンズ、ジョン・グッドマン、ピーター・サースガード、メアリー・スティーンバージェン、ケリー・マクドナルド、ジャスティナ・マシャド、ネッド・ビーティ、ジェームス・ギャモン、プルイット・テイラー・ヴィンス、レヴォン・ヘルム、バディ・ガイ、フリオ・セサール・セディージョ、ジョン・セイルズ / 映像ソフト発売元:FINE FILMS
2009年アメリカ、フランス合作 / 上映時間:1時間57分 / 日本語字幕:?
日本劇場未公開
2011年10月7日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2012/01/01)
[粗筋]
ルイジアナ州ニュー・イベリアの森の中で、めった刺しにされた少女の屍体が発見された。被害者であるチェリー・ルブランはまともな教育を受けないまま、売春をさせられていたらしいが、捜査を担当したデイヴ・ロビショー(トミー・リー・ジョーンズ)は状況から、客ではなくビジネスの関係者が噛んでいる、と判断する。
ロビショーが目をつけたのは、ジュリー・バルボーニ(ジョン・グッドマン)。地元のマフィアを束ねる彼は被害者のことなど知らない、と言いながらも、自分が地元に投資していることを誇り強気に出ている。折しもニュー・イベリアで撮影の行われている、南北戦争を題材にした映画に出資していることもあって、バルボーニは得意の絶頂にいた。
ロビショーはひょんなことから、その映画に主演する俳優エルロッド・サイクス(ピーター・サースガード)と恋人ケリー・ドラモンド(ケリー・マクドナルド)と知己を得る。飲酒運転していたところをロビショーに逮捕されそうになったエルロッドが、代わりに提供した情報に、ロビショーは耳目を惹かれた。彼らが撮影に用いた沼で、鎖で縛られた古い屍体が浮かんでいた、というのである。
遺体を捜し出したロビショーは、その遺体に見覚えがあった。まだ彼が若かった頃、鎖で縛られながら逃亡する黒人少年を、狙撃する2人組を目撃したことがある。当時は目撃証言自体が信用されずに事件とならなかったが、遺体の発見場所もその状態も、ロビショーが目撃したものと食い違っていなかったのだ。
一方で、現代の事件で、新たな被害者が発見される。ドラム缶に詰められ、ほとんど原形を留めない状態だったが、チェリー同様に売春をさせられていた可能性がある少女が犠牲になっていた。誰かが己の快楽のために、易々と人を殺している――ロビショーは現代と過去、ふたつの事件に通じるものを感じ、捜査に執念を燃やし始めた……
[感想]
正統派かつ重厚なハードボイルド映画――と言いたいところだが、本篇には一風変わったポイントがある。
粗筋では省いたが、主人公である捜査官ロビショーは、最近までアルコール依存症で休職していた、という背景がある。序盤ではモノローグでさらっと触れるだけだが、そのことが結構物語と強く関わってくる。話全体にちらほらと窺えるブランクの痕跡もそうだが、家族や映画俳優エルロッド・サイクスとの関係、そして彼との交流のなかで登場する、南北戦争で活躍した南軍の将軍の幻覚、という形で、随所で影響してくるのだ。
これら一連の描写はいずれも、本筋である(と感じられる)連続殺人とは直接関わることはない。それだけに困惑を覚えるのだが、話が進むごとに、双方が緩やかに干渉しあい、独特のムードを醸しだす。理路整然とした謎解き、というより直感的なロビショーの捜査の、どこか不明瞭な印象とも相俟って、状況はシリアスなのに、一種幻想的な雰囲気を漂わせているのだ。
いちおう終盤には、連続殺人の犯人に辿り着くことは辿り着くのだが、犯罪を巡る状況ゆえに、最後まで深いところには踏み込みきれなかった印象を齎す。しかも、やむを得ないとはいえ、ロビショー自身も捜査の過程で、違法行為をごまかしている描写もある。そうして悪徳も正義も、溶けあい曖昧模糊としたものに感じさせる。それこそ恐らくは本篇の意図するところだろう。南部らしく晴れ渡った光景ばかりでなく、湖沼を覆う霧や激しい雨によって暈けた映像を織りこみ、そしてラストシーンは幻覚と現実との境さえ曖昧にする場面を添えていることからもその意志は窺える。
だから、製作者の意図はかなりしっかりと貫かれているのは間違いない作品なのだが、生憎、表面的な要素から観客が望むものとずれてしまっているので、満足するかどうかはかなり微妙なところだろう。明快な解決の存在するミステリ、解かれた上で重い余韻を留めるようなものを求めている人には、物足りなく感じられることは間違いないように思う。
また、そうした主題がある、と理解したうえでも、描写の配置、配分にもたつきがあって、まとまりが悪くなっていることは否めない。たとえば、ロビショーの同僚ルー(プルイット・テイラー・ヴィンス)は終盤である悲劇に見舞われるが、作中ではいささか唐突に感じられる。その悲劇の場面で、ロビショー以外の人物が下す判断の材料がほとんど直前になっていきなり示されているので、観る側の気構えが出来ていないためだ。この唐突さに、これといった狙いがあったようにも思えず、物語のなかでも悪い意味で浮いてしまっている。これほど極端ではないにせよ、全般に整理の甘さが窺えるのが残念なところだ。
地方社会での犯罪のあり方や、人間の現在と過去とを巡る感覚を生々しく剔出しており、そう捉えれば成功なのだが、惜しむらくは、だからと言ってこのモチーフに対して観客が求める内容、出来映えではないことだ。トミー・リー・ジョーンズは彼に最もしっくり来る人物像で、充分に役者としての色気を発揮しているし、脇役もそれぞれに印象的な演技を示しており、犯罪捜査を描いたハードボイルド映画としての満足度は決して低くはないのだが、似たような主題を扱い完璧に近い仕上がりを成し遂げた『ウィンターズ・ボーン』などと比べると、やはりいまひとつ、と言わざるを得ない。。
関連作品:
『告発のとき』
『プレッジ』
『狼の死刑宣告』
『ナイト&デイ』
『ノーカントリー』
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