原題:“機動部隊−同袍−” / 監督&編集:ロー・ウィンチョン / 脚本:ヤウ・ナイホイ、オー・キンイー / 製作:ジョニー・トー / 撮影監督:チェン・シウキョン / 美術&衣裳:トニー・ユー / 音楽:チュン・チーウィン / 出演:サイモン・ヤム、マギー・シュー、ラム・シュー、ウォン・チーイン、サミュエル・パン、ヴィンセント・ツェ / 配給&映像ソフト発売元:ACCESS-A
2009年香港作品 / 上映時間:1時間31分 / 日本語字幕:? / PG12
2012年2月25日シネマート六本木にて2週間限定特別公開
2012年4月4日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]
公式サイト : http://www.cinemart.co.jp/theater/special/tactical-unit/
シネマート六本木にて初見(2012/03/08)
[粗筋]
香港警察機動部隊の、ホー警部(ウォン・チーイン)が指揮するふたつの小隊は、最近対立が耐えなかった。隣接する地区を巡回しながら、互いに目を光らせ、相手の揚げ足を取ろうと躍起になっている。
この泥沼の争いに、いったん終止符が打たれることになった。ヴェテランのサム隊長(サイモン・ヤム)に先駆けて、女性のメイ隊長(マギー・シュー)が警部補に、彼女の部下であるロイ(サミュエル・パン)が隊長に昇進することとなったのだ。メイと部下たちは浮かれるが、サム隊長と彼の部下の心境は当然穏やかではない。
明日には配置換えが行われる、という日に、4人組の武装強盗が銀行を襲撃、警備員に重傷を負わせて、山中に逃走する、という事件が起きた。ホー警部の指揮する機動部隊は総員で現場に赴き、“山狩り”を開始する。
ホー警部たちが拠点に留まり、幾つかの部隊に分かれて捜索が行われた。ホー警部はメイを指揮官にした小隊にサム隊長らを組み込むが、当然のように隊員たちのあいだで耐えず摩擦が生じ、うまく統率が取れない。
そんななか、昼食が届くのを待機していた隊員たちは、山中に何者かが生活していた痕跡を発見する。サム隊長らが様子を探っていると、頭上から男が転落してきた――
[感想]
この作品は、ジョニー・トー監督とスタッフが約2年を費やして撮影、高く評価された警察ドラマの異色作『PTU』の続篇である。本国・香港ではシリーズ化され、この前に3作品がテレビ放映用として製作され、本篇はその掉尾を飾るかたちで劇場公開された。
ご覧になった方なら解るだろうが、この『PTU』という作品、いわゆる警察官を中心としたドラマとしてはかなり異色だ。事件捜査の醍醐味を扱っているのとは異なるが、しかし警察官の汚職をハードに描き出したものでもない。あくまで普通の人間である警察官が、他の部署と対抗意識を燃やし、ほどほどに職業倫理を破りつつ、ギリギリで警察官としての任務を果たす。ジョニー・トー監督らしいスリリングな描写とユニークさ、人間関係の熱さを盛り込みながら、一風変わった後味を残す作品に仕上がっていた。
その世界観を引き継いだ本篇も、かなり趣が変わっている。序盤、隣接する地区を巡回するふたつのチームが実にみみっちいところで対抗意識を燃やし、配置換えの際にやたらと大きな差をつけられ、仲間内で悶着を起こす。その状態のまま大きな任務に就くのだから、現場で軋轢を起こし、統率が取れなくなるのも当然で、話が進むほどに状況は掌握困難となっていく。このモジュラー形式を思わせる構成がもたらす独特の緊張感、先読みの難しさは、作品のサスペンスを醸成する一方で、決してまったく別々の事件を扱っているわけではないから、シュールな味わいにも繋がっていく。
それにしても、次第に散り散りになっていく警官達の振る舞いは、ほとんどコメディのようでさえある。散り散りになったあとでのサム隊長の振る舞いは笑いよりも戦慄を覚えるが、警部補となったメイが見せる“醜態”はかなり滑稽だ。警察ものを観ているはずが、ここばかりはホラー映画のパロディじみた面白さがある。
笑えない部分も含め、本篇で機動部隊の面々が示す行動には、ブラック・ユーモアじみた味わいがあるのだ。特に象徴的なのは、ラム・シューが演じるトンである。冒頭から最もみじめな立ち位置にいるトンは、もはや職務に情熱を燃やすこともなく、終始サボることばかり考えている。それが途中で、思わぬ事態を引き寄せる。
緊迫した展開ながら、笑いとも虚脱ともつかない奇妙な感覚をもたらすのが本篇の持ち味だが、それがクライマックスに至って、けっきょくは綺麗にまとまってしまうのがなおさらにシュールだ。それまでの摩擦、軋轢が嘘のように一致団結するくだりは、「本当にアリなのか」と唖然とする一方で、階級や部署内での扱いはさておき、間違いなく彼らが“警官”であることを実感させて快くもある。
ジョニー・トー監督とそのチームの特徴は、凝ったシナリオとテンポのいい編集のみならず、常に映像的な見せ場があることだ。監督が違う、と言っても『PTU』で編集を担当したロー・ウィンチョンが請け負っており、他のスタッフはほとんど共通しているので、こういう見せ場も欠かしていない。前述した、メイたちが遭遇する状況でのヴィジュアルで、巧みにホラー的な空気を醸成する手管もさることながら、圧巻はトー組らしさの炸裂するクライマックスだ。この見せ方の巧さ、映像的なインパクトの強さは、堂々たるものだ。
如何せん、あまりにも独特なので、普通の刑事物、警察ドラマを期待している人が確実に満足するとはちょっと言い難い。しかし、いったん魅せられたらなかなか忘れがたい、強い印象を残す作品である。間違いなく言えるのは、『PTU』を愉しんだ人であれば、きっと今回も愉しめる。
関連作品:
『PTU』
『マッスルモンク』
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