原題:“Star Wars episode I : Phantom Menace 3D” / 監督、脚本&製作総指揮:ジョージ・ルーカス / 製作:リック・マッカラム / 撮影監督:デヴィッド・タッターサル / 視覚効果監修:ジョン・ノール、デニス・ミューレン / プロダクション・デザイナー:ギャヴィン・ボケット / 編集:ポール・マーティン・スミス、ベン・バート / 衣装:トリシャ・ビガー / 音楽:ジョン・ウィリアムズ / 出演:リーアム・ニーソン、ユアン・マクレガー、ナタリー・ポートマン、ジェイク・ロイド、イアン・マクディアミッド、ペルニラ・アウグスト、ヒュー・クァーシー、アーメッド・ベスト、アンソニー・ダニエルズ、ケニー・ベイカー、テレンス・スタンプ、レイ・パーク、サミュエル・L・ジャクソン、オリヴァー・フォード・デイヴィス、ワーウィック・デイヴィス、フランク・オズ、ソフィア・コッポラ、キーラ・ナイトレイ、ブライアン・ブレッスド、アンドリュー・セコンブ / 配給:20世紀フォックス
2012年アメリカ作品(オリジナル版・1999年) / 上映時間:2時間17分 / 日本語字幕:戸田奈津子
1999年7月10日オリジナル版日本公開
2012年3月16日3D版日本公開
公式サイト : http://www.youtube.com/starwars
TOHOシネマズ日劇にて初見(3D版)(2012/03/16)
[粗筋]
遠い昔、遥か彼方の銀河系の物語――
小さな惑星ナブーは、貪欲な通商連合によって航路を封鎖され、孤立状態に立たされていた。元老院は交渉役として、ジェダイの騎士クワイ=ガン・ジン(リーアム・ニーソン)とその弟子オビ=ワン・ケノービ(ユアン・マクレガー)を送りこむ。
だが、ナブー航路の封鎖は、通商連合を支配するシスの暗黒卿ダース・シディアスの深遠な企みの一貫でしかなかった。クワイ=ガンらを迎え入れたニモーディアンにジェダイのふたりの暗殺と、ナブーへの侵攻を指示する。
船と乗員を失ったものの、ニモーディアンの旗艦から脱したクワイ=ガンとオビ=ワンはナブーに上陸、偶然に知り合ったお調子者のグンガ人ジャー・ジャー・ビンクスの助けを得て、ナブーの首都シードに潜入する。折しも通商連合のドロイド兵によって捕らえられるところだったアミダラ女王(ナタリー・ポートマン)とその側近たちを助け出すと、切迫した事態について協議する。
ナブーは通信設備まで破壊され、完璧な孤立状態に陥っていた。調停役である元老院に救いを求めるには、元首である自らが赴き、窮状を訴えるしかない、と判断したアミダラ女王は、ジェダイの騎士たちとともにナブーを離れることを決意する。
船を奪い、辛うじて包囲網をくぐり抜け宇宙に脱した一同だが、しかし船に武装はなく、機体も重大な損傷を負ってしまった。クワイ=ガンは、通商連合が目もつけない小さな惑星タトゥイーンに着陸し、部品の調達を試みる。
タトゥイーンは、共和国の法が届かない社会を構築していた。共和国の通貨は現地の商人には受け入れられず、クワイ=ガンたちは困じ果てる。そんな彼らに手を差し伸べたのは、商人の奴隷として使われていた、アナキン・スカイウォーカー(ジェイク・ロイド)という少年だった……
[感想]
最初の3部作が完結したのちに、最新技術でプリクエルが製作され、過去に遡って修正・改変を行っていることなど、様々なかたちで話題や物議を醸し続けているが、何だかんだ言いつつも、間違いなく映画史において特異な地位を占める作品である、と思う。欠点も多々あるが、未来と過去、2対の3部作を完成させ、それが年齢を問わず支持されていることは、奇跡に等しい。
2009年に公開された『アバター』をきっかけに、長いこと模索が繰り返されていた3D方式の映画は爆発的に普及、一般客が足を運びやすい土壌が育ったことを受けて、サーガの最初のエピソードである本篇を皮切りに3D化が施されることになったという。恐らく往年のファンのなかには、ファースト・シリーズではないこの作品にふたたび手を入れることについても異存があるひともいるのではないか、と思われる。
きちんと全作観ているが、さほど熱心なファン、というわけではない私だが、正直なところ、本篇を観て感じたのは、3D映像ならではの醍醐味には乏しい、というものだった。
3D映画は、撮影時から専用のカメラを用いていれば優れた臨場感を表現出来るが、2D方式で撮影されたものをあとづけで加工すると、どうしても不自然さが出てしまう。それ以前に、立体感を観客に伝えることを意図して作られたものでない映像は、3D化すると想像以上に無理が出るものだ。
ただ、本篇の3D映画としての完成度は決して低くない。前述した『アバター』が日の目を見る以前に、3D映像のテストとして本篇の一部が用いられており、つまり本篇に携わっているのは現代の3D映画の技術を育てたスタッフなのである。それ故に、後付けとは言い条、非常に繊細な配慮が施されているようで、予想するよりも遥かに自然な仕上がりだ。著しく立体感が味わえる、というほどではないが、映像の生々しさは増している。
とりわけ、中盤のハイライトであるポッド・レースのシーンは、3D化することで格段に迫力が増した。もともと現実では経験できない疾走感を見事に表現したこの場面は、立体感を強調することで説得力が向上している。実際にあるものをより身近に体感させるのがこの3D撮影の利点だが、映像の精度が高ければ、完全なる虚構にリアリティを付与できるのもまた利点だ。本篇はそれを完璧に我が物とし、見事に活かしている。
プロット自体には随所に無理が目立つ作品なのだが、しかし世界観の完成度はもともと優れている。緻密な作り込みもあって、観れば観るほどに発見があり、魅せられるとなかなか抜け出せない。3D上映という技術を組み込んだことで、観客を取り込んでしまう包容力が更に増した感がある。そう考えてみると、むしろ3D技術が洗練されたいまだからこそ、3Dに発展させる必然性のあった作品なのかも知れない。
興味深いのは、かつてのファンが本篇をどう捉えるかよりも、ここから作品世界に入っていく若い観客の印象だ。本篇は今後、オリジナルが公開された順ではなく、エピソード番号の順に添って、3D版が製作、公開される予定となっている。本篇が最初に公開された時点では、先に未来の物語があり、このあとどうなるのかをある程度察したうえで臨むものだったが、この3D版で触れるひとにとっては違う。最初に過去の悲劇を知り、それから未来の“希望”に触れることになるのだ。本来あるべき順序でこのサーガに触れた観客が、いったい何を感じるのか。そんなふうに、世代によって大きく異なった認識をもって迎えられる作品など、恐らく空前絶後だろう。
だから、出来ればこの作品は、『スター・ウォーズ』という作品名しか知らなかったような人に、リアルタイムで体感していただきたい。その魅力に取りつかれるにせよ、さほど関心を抱かず単純に知識としてのみ臨むにせよ、きっとそこから、この壮大なサーガに新たな“意味”が与えられるはずだから。
関連作品:
『アバター』
『ベン・ハー』
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