『ドライヴ』

『ドライヴ』

原題:“Drive” / 原作:ジェイムズ・サリス(ハヤカワ文庫・刊) / 監督:ニコラス・ウィンディング・レフン / 脚本:ホセイン・アミニ / 製作:マーク・プラット、アダム・シーゲル、ジジ・プリッツカー、ミシェル・リトヴァク、ジョン・パレルモ / 製作総指揮:デヴィッド・ランカスター、ゲイリー・マイケル・ウォルターズ、ビル・リシャック、リンダ・マクドナフ、ジェフリー・ストット、ピーター・シュレッセル / 撮影監督:ニュートン・トーマス・サイジェル,A.S.C. / プロダクション・デザイナー:ベス・マイクル / 編集:マシュー・ニューマン / 衣装:エリン・ベナッチ / スタント・コーディネーター:ダリン・プレスコット / 音楽:クリフ・マルティネス / 出演:ライアン・ゴズリングキャリー・マリガンブライアン・クランストンクリスティナ・ヘンドリックスロン・パールマンオスカー・アイザックアルバート・ブルックス / マーク・プラット/モーテル・ムーヴィーズ製作 / 配給:KLOCKWORX

2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:岡田壯平 / R-15+

2012年3月31日日本公開

公式サイト : http://drive-movie.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2012/04/06)



[粗筋]

 襲撃する時間と場所を知らせれば、そこで5分だけ待つ。遅れた場合、身の保証はしない。だが、無事に乗り込めば、必ず逃がしてやる――

 その“ドライバー”(ライアン・ゴズリング)は、普段は自動車修理工として、ときおり映画のカースタントを含む運転手として働きながら、夜は求めに応じて、犯罪者の逃走を手伝う、裏の稼業をしている。

 昼夜双方で“ドライバー”のコーディネーターを務めているシャノン(ブライアン・クランストン)には夢があった。“ドライバー”の傑出した運転技術を活かし、レースで一花咲かせようと考えていたのだ。シャノンは自費で購入した車で出場するべく、かつては映画のプロデューサーとしてシャノンを雇い、いまはマフィアの幹部として鳴らしているバーニー・ローズ(アルバート・ブルックス)に出資を求める。バーニーは“ドライバー”の腕を確かめると、多少値切りはしたが、この申し出を受けた。

 同じ頃、“ドライバー”は最近知り合ったばかりの隣人、アイリーン(キャリー・マリガン)に心惹かれつつあった。スーパーでエンジントラブルを起こしているところを助けて知り合い、少しずつ親しくなっていく。

 しかしアイリーンには、刑務所入りしている夫スタンダード(オスカー・アイザック)がいた。“ドライバー”と知り合って間もなく出所してきた彼は、再出発に意欲を燃やしていたが、刑務所で背負った借金がもとで、危ない仕事を強要される。仲間にリンチされた直後のスタンダードを見つけてしまった“ドライバー”は、スタンダードに請われ、彼らの仕事を手助けすることになったのだが――

[感想]

 映画の魅力を決めるのは、ストーリーのオリジナリティや、前例のない派手さではない。定番の要素であっても、構図の組み立て、間の取り方、照明の扱いや色使い、音響の工夫など、いくらでも特徴づけ、魅力を増すポイントはある。

 この作品のプロットそのものは非常に単純だ。途中、僅かな意外性はあるが、決して観客を驚かそうとしたものではなく、あくまで物語の“波”のひとつとして組み込まれているに過ぎない。

 にも拘わらず終始惹きつけられてしまうのは、まさにそうした細部の工夫が丁寧だからだ。

 例えば、間の取り方の巧さがある。プロローグとして描かれる、“ドライバー”の夜の仕事のくだりは、カーチェイスではあるが、ただ単純なスピード勝負に終始していない。警察無線を傍受して相手の動きを伺い、あえてパトカーの後ろを走ったり、路地や高架の陰に隠れて機を窺ったり、と非常に静かな緊張感を織りこんでくる。題名からど迫力のカーチェイスなどを期待した人にはお生憎、だが序盤の静かだが弛みのない見せ方には痺れるものがあるはずだ。題名に反し、車を運転するシーンはさほど多くないが、それぞれに趣向を変えており、印象は鮮烈である。

 こうした緩急自在の緊迫感の演出は、運転の場面以外でも組み込まれ、本格的にトラブルが始まる前から常に独特の張り詰めた空気を生み出している。ヒロイン格であるアイリーンと偶然スーパーではち合わせたときの動きでさえ妙な緊張を漂わせ、やがて出所したアイリーンの夫を交えての食事の席でさえも、切なさと同時に剣呑さを感じさせる。

 本篇のこの終始漲る緊張感は、主人公である“ドライバー”の徹底した寡黙さにも因るところが大きい。ナレーションは一切組み込まず、他の人物ともさほど具体的な会話を交わさない彼の真意は観客にも今ひとつ窺えず、それが先を読むことの出来ない物語と、今にも何かが起こりそうな予感を作品に終始もたらしている。

 しかも、それでいて“ドライバー”の感情がまったく解らないわけではなく、微かに滲み出ているのが巧い。基本的に表情に乏しいが、アイリーンやベニシオと接するときに見せる純情そうな笑顔に、彼がこの関係からもたらされる幸福感を滲ませ、随所で見せる、拳を握りしめる仕草に、激情の迸りが垣間見える。なまじ、具体的な背景を一切描かず、真意をすべて語らせていないからこそ、彼のそうした振る舞いに奥行きが生まれ、キャラクターの魅力を増幅している。

 本篇はそうした、特徴的な表現の選び方が、すべて見事に噛み合っている。間接的な表現を多用することで感情の奥行きだけでなく容赦のないヴァイオレンス描写をほどよく和らげ、純愛物語めいたプロットと巧みに調和を保っていることもそうだし、背景を描き込まないがゆえに出来事が作中で描かれることに集中し、結果としてクライマックスの切なくも快い余韻をクリアなものにしている。映像のセンスも音楽の使い方も出色であり、それだけでも充分に個性が窺えるが、決してどれひとつ悪目立ちせず、互いに支え合い、補強し合っている。

 個々の手法だけをあげつらえば前例は思いつくが、それらが隙なく結びついている作品はそうそう現れない。映画だからこそ刺激出来る官能を巧みに押さえてくるから、本篇はどうしようもなく魅力的なのだ。いっそ、憎たらしいくらいに。

関連作品:

16歳の合衆国

スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜

17歳の肖像

ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー

タクシードライバー

トランスポーター3 アンリミテッド

シャンハイ

コメント

タイトルとURLをコピーしました