原題:“報應 Punished” / 監督:ロー・ウィンチョン / 脚本:フォン・チーキョン、ラム・フォン / 製作:ジョニー・トー / アクション監督:ジャック・ウォン / 撮影監督:コー・チュラム / 美術:レイモンド・チャン / 編集:デイヴィッド・リチャードソン、パン・チンヘイ / 衣装:スティーヴン・ファン / 音楽:ガイ・ゼラファ、デイヴ・クロッツ / 出演:アンソニー・ウォン、リッチー・レン、ジャニス・マン、マギー・チョン、キャンディ・ロー、ラム・レイ、チャーリー・ツァオ、エレナ・コン / 配給:PHANTOM FILM
2011年中国、香港合作 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:鈴木真理子 / PG12
2012年8月11日日本公開
公式サイト : http://www.3hknoirfes.net/
[粗筋]
大企業の経営者ウォン(アンソニー・ウォン)にとって、娘デイジー(キャンディ・ロー)は悩みの種になっていた。ウォンが娶った後妻(マギー・チョン)との関係は思わしくなく、悪い仲間たちとつるんでは、薬物に手を出している。
そのメールが届いたときも、金をたかるための自作自演だと思っていた。添付された動画で、デイジーは椅子に縛られ、誘拐されたことを告げた。“誘拐犯”の指示だから、というより、狂言を疑っているから、ウォンは警察に通報せず、要求された5000万ドルを用意する。指示された受け渡しの現場にも、ウォンは自ら赴いた。
だが、ウォンの予測に反し、“誘拐犯”の手際は鮮やかだった。巧みに追跡不可能な状況を作りだし、一瞬油断した隙に身代金を奪われてしまう。
それでもデイジーはウォンの元に戻ってこなかった。ウォンは信頼の出来る右腕であり、裏の社会に精通しているイウ(リッチー・レン)に誘拐犯の正体を探らせる。イウにとって、この調査は決して困難なものではなかった。すぐにデイジーを拉致した者を特定すると、その口から“失踪”直後の事情を吐かせる。
デイジーは本当に誘拐されたのだ。男は拉致したデイジーを生きたまま手渡し、そのあとの行方は知らない、と言ったが、連れ去っていった男の素性を知っていたため、イウはその足取りを辿る。そしてそこで、変わり果てた姿のデイジーを発見した……
[感想]
題名にあるとおり、本篇の本筋は“復讐”にある。だが序盤、その面白さは“復讐”に至る事態の推移にあると言えそうだ。
粗筋では事件の少し前から語ったが、実際には主人公ウォンの娘デイジーの屍体が発見され、ウォンが取り乱す部分から描かれている。そのあとに、生前のデイジーの振るまい、親子の軋轢を描き出し、ついで誘拐事件と、それに対するウォンの反応を綴っていく。
決して入り組んだものではないが、本篇の誘拐事件は極めて現実的に練り込まれていて、それを警察という専門家の手を借りずに探り出していく、という趣向自体に見応えがあるのだ。誘拐事件で犯人側が最も危険を冒す瞬間である身代金引き渡しの場面でのアイディアは、単純ながら非常に効果を上げているし、そこにわざわざカメラを仕掛けたり、かつての仲間たちを頼って、犯罪者の線から犯人の痕跡を探り出す過程はハードボイルドめいた面白さがある。
そして、その過程に埋め込まれた復讐劇と、因果応報を思わせる出来事が印象的だ。題名からするとウォン自らが手を下しそうなものだが、ウォンは基本的に自らは動かない。闇の部分を共有するかのような右腕、イウに託している。そのさまは、序盤からウォンが部下を駆り立てている土地買収の顛末とどこか重なり合っている――仕事も、家族のための報復も、同じように冷徹に接しているのだ。
本篇終盤の展開は、思慮に満ちた中盤までの展開と比較するといささか唐突に思える。だが、だからこそ、冷徹を極めるウォンという男に衝動的な反応を促している。あの瞬間があるからこそ、ウォンは自らの振る舞いを見なおさざるを得なくなった。
この衝動的なひと幕があるがゆえに、最後の描写が濃密な余韻を帯びてくる。一見、行動的で有能なウォンとイウだが、実はあえて避けていた局面がある。そこにあえて一歩踏み込むことで、彼らは初めて自らの“罪”と直面する。そして、それでも逃れられないということが、どうしようもなく痛烈な余韻をもたらすのだ。
ボリビアにある塩水湖、通称“天空の鏡”が、本篇においては非常に象徴的に用いられている。観ているとき、CGなのでは、と疑いたくなるほどに清澄なその光景が、尚更に物語の悲劇性を強調している。原題“報應”も、日本にはない単語ながら字面からしっくりくるタイトルだと察しがつくが、邦題もまた絶妙だ。観客を牽引する魅力は“復讐劇”そのものではないが、しかし決着してみればまさしく、復讐者の物語なのである。
関連作品:
『スリ』
『エグザイル/絆』
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