『ザ・レイド』

角川シネマズ有楽町のロビーでガメラに無為な攻撃を仕掛けるラマさんの図。。

原題:“The Raid : Redemption” / 監督&脚本:ギャレス・エヴァンス / 製作:アリオ・サガントロ / 撮影監督:マット・フラネリー / 音楽:マイク・シノダ、ジョセフ・トラバニーズ / 出演:イコ・ウワイス、ヤヤン・ルヒアン、ジョー・タスリム、ドニ・アラムシャ、レイ・サヘタピー、ピエール・グルノ、テガール・サトリヤ / 配給:角川映画

2011年インドネシア作品 / 上映時間:1時間42分 / 日本語字幕:高内朝子 / R15+

2012年10月27日日本公開

公式サイト : http://theraid.jp/

角川シネマズ有楽町にて初見(2012/11/15)



[粗筋]

 インドネシアジャカルタの一画に、暗い影を落とすビルが佇んでいる。ここを支配するのは、麻薬王と称されるタマ・リヤディ(レイ・サヘタピー)――彼はギャングや麻薬の売人、ジャンキーらに部屋を貸し、ビルをまさに悪の巣窟に変えていた。それでいてなかなか尻尾を出さず、警察は10年も彼に手出し出来ずにいる。

 そんななか、警察のジャカ(ジョー・タスリム)率いる特殊部隊に、警部補ワヒュ(ピエール・グルノ)からの命令が下った。ビルに突入し、リヤディを確保せよ――新人とは言い条、鍛えられた血気盛んな若者ばかりである隊員たちは、この使命に意気軒昂としていた。ただひとり、ラマ(イコ・ウワイス)を除いては。

 見張りを始末し、着実に制圧をしていったはずだったが、事態は数階昇った時点でにわかに急変する。偶然出逢った幼い見張り番が、上階に異変を伝えてしまったのである。分断された部隊は各所で手練れに急襲されて絶命し、リヤディの工作により通信は遮断され、ジャカたちは孤立無援の状態に陥る。

 悪いことに、この襲撃はワヒュの独断によって行われたものだった。上層部はこのことを知らず、いくら時間が経とうとも、救援が来る可能性はない。気づけば部隊は散り散りとなり、ジャカの周囲にはラマをはじめ、数名しか残されていなかった。

 負傷したボウオ(テガール・サトリヤ)を安全な場所に避難させようとする途中で、ラマもまたジャカとはぐれ、手助けする者はひとりもいなくなった。しかしそれでも、ラマは上階を目指そうとする。彼にはどうしても、果たさなければいけない使命があったからだった……

[感想]

 日本での公開が決定するより以前から本篇は、一部の好事家のあいだで噂になっていた。インドネシアという、国際的にはあまり注目されているとは言い難い国で製作された、10年に1本の重量級アクション――そんな評判が早いうちからアクション映画愛好家のあいだで立ち、公開を待ち望む人は少なくなかった。かくいう私も、その評判と、言葉が解らなくとも迫力が伝わる予告篇を観て、一刻も早く本篇が観たい、と待ち焦がれていたひとりである。

 あまりに期待が膨らみすぎると、出来映えとのギャップに戸惑うことも少なくない。実際、本篇の仕上がりは決して期待通りではなかったのだが、しかし、それでも本篇には感服させられる。こちらの期待が圧倒されるくらいに、アクションの密度が高いのだ。

 冒頭からラストまでほとんど、息をつく間もなくアクションだらけ、と言ってもいい。プロローグ部分こそ様子見のような描写があるが、ビルに突入したあとは、まさにノンストップだ。勢いが途切れるのはいわば次の壮絶な戦いへの伏線であり、そこでたっぷりと緊張を高めたあと、爆発的な応酬が繰り広げられる。物語の大半がその繰り返しで、登場人物もそうだが、観客も休む暇がない。体力に自信のないひとなら、観ているだけで疲れ果ててしまいそうだ。

 しかも、ただ闇雲に戦っているわけではない。敵味方問わず、随所でアクションの超絶技巧が披露される。あまりに素速く、畳みかけてくるために、観ているあいだはほとんど意識しないが、細かい技術の凄まじさにはあとで唸らされる。撮影するまでにどれほど緻密な計算、訓練が行われたのか。それ自体は他の傑作と呼ばれるアクション映画と同様だろうが、しかしこの密度を実現するための意欲と努力は並大抵ではなかっただろう。敬意に値する。

 基本的には壮絶なアクションを積み重ねていくことに割かれるが、しかしそのアクションの緊迫感を高めるために、物語としての骨組みも用意している。単純ながら、それが随所で微かな不審や緊張感を生み、クライマックス手前では意外性をも演出、そして単なるアクションのみでは成立しないカタルシスに繋げている。何が求められているのか、を熟知した巧みな構成であり、それもまた本篇が往年の名作アクションと並べて語られる所以だろう。

 実のところ、プロットそのもの、アクションの趣向自体にさほど新味はない。終盤手前のサプライズは、基本の発想は有り体のものだし、ややひねった結末にしても、途上国の犯罪組織ならありがちな状況を語っているに過ぎない。だが本篇は、それらが単独では成し得ないほどの効果を、精緻な構成で発揮させているのだ。

 激しく荒々しく、それでいて実に堅実で繊細な傑作。意志が透徹するあまり、よほどアクション映画に慣れているか心酔しているひとでないと、観ていて疲弊したり、辟易しそうなほどだ。だが、それほど徹底しているからこそ、国際的には注目を集めにくい国で製作されながら、熱狂的な賞賛を集めたのだろう。アクション映画史に、間違いなくその名が長く刻まれる逸品である。

関連作品:

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