原題:“Dead of Winter” / 監督:アーサー・ペン / 脚本:マーク・シュミューガー、マーク・マローン / 製作:ジョン・ブルームガーデン / 撮影監督:ジャン・ウェインク / 美術:ビル・ブロディ / 編集:リック・シャイン / 衣装:アーサー・ローセル / キャスティング:マリア・アームストロング、ロス・クライズデール / 音楽:リチャード・エインホーン / 出演:メアリー・スティーンバージェン、ロディ・マクドウォール、ヤン・ルーブス、ウィリアム・ラス、ケン・ポーグ、マーク・マローン / 配給:UIP / 映像ソフト発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント
1987年アメリカ作品 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:森みさ
1987年10月31日日本公開
2012年6月6日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2012/08/05)
[粗筋]
ニューヨークに暮らす売れない女優のケイティ・マクガバン(メアリー・スティーンバージェン)は、新聞に載っていた女優募集の広告に誘われ、オーディションに赴く。審査員であるマーレイ(ロディ・マクドウォール)は彼女を見るなり表情を輝かせ、即決で採用を宣言した。
マーレイ曰く、今回の募集は、ある映画の主演女優が突然神経衰弱を起こし、出演が難しくなったことに起因するのだという。現在、監督以下スタッフはカナダで主演女優を必要としないシーンの撮影を継続しているが、くだんの主演女優とケイティは生き写しであり、監督が彼女を気に入ることは間違いない、と太鼓判を捺す。ケイティは骨折して仕事が出来ない状況に悶々とする夫ロブ(ウィリアム・ラス)の反対を押し切り、浮かれ気分でマーレイの運転する車に乗って出かけていった。
雪の降りしきるハイウェイを疾走すること数時間、ケイティが送り届けられたのは映画のプロデューサーであるという医師・ルイス博士(ヤン・ルーブス)の邸宅であった。ここでまずケイティは、主演女優と同じ髪型、メイク、衣裳を整え、テストとしてビデオ撮影を行う、という説明を受ける。
はじめは嬉々としてルイス博士とマーレイの指示に従っていたケイティだが、次第に違和感を抱きはじめる。到着したとき、電話は不通で繋がらず、翌日、街に出かけて夫に連絡しようとしたが車が寒さのせいか動かない。膠着状態にも拘わらず、ルイス博士たちが撮影スタッフに連絡を取ろうともせず、焦る気配もないことに不審を覚えた。
身の危険が迫っている予感を抱いたケイティは、吹雪の中脱出を試みるが、呆気なく捕らえられ、気持ちを落ち着けるために、と飲み物を与えられたあと、部屋の入口にバリケードを作って眠りに就く。
翌る朝、ケイティは痛みとともに目醒めた。己の左手を見て、ケイティは驚愕する。きつく巻き付けられていた包帯を解いたそこには、あるべき薬指が失われていたのだ――
[感想]
粗筋の最後に記したシチュエーションがあまりに魅力的で、作品について詳しく知らないにも拘わらず――また、TSUTAYAの発掘良品シリーズの1本として選ばれていたこともあり、衝動的に借りて鑑賞した作品である。
なるほど、特異な状況をうまく活かし、先読みがしにくい、という点では非常に優れたサスペンスに仕上がっている。全般に芝居がかった雰囲気ながら、そもそもヒロインが女優という設定であり、中盤でも“演技”というものが大きく関わってくるため、さほど違和感がない。1980年代にしては古めかしい印象だが、それが鼻につかないのも、題材の妙と言えよう。
ただ、全体を眺めると、“何故こんなややこしい手段を用いたのか?”という疑問を抱かされてしまう。状況を先に作りあげ、あとづけでなるべく納得のいく動機を設定しようとした結果、物語はひねりを効かせた形になったが、背景が歪になってしまった、と感じる。面白いことは面白いのだが、冷静に考えると腑に落ちないのである。
しかし、観終わってそういう欠点が目についても、過程の面白さは否定出来ない。予め用意した条件がきちんと結びついて緊迫感を高めていく中盤、関係者が集まり、極限状態のなかで目まぐるしく事態が変わっていく終盤と、目が離せない。ありがちな仕掛けもあるが、それを巧く用いて、終始観客を引っ張り回す手管は賞賛するべきだろう。本当に、最後の最後まで気が抜けない。
本篇で何よりも評価したいのは、やはりヒロインを演じたメアリー・スティーンバージェンである。この1篇の中で、驚くほど多彩な表情を見せている。決して飛び抜けた美人、というわけではないが、それ故に物語に説得力をもたらし、演技によって更に強固なものにしている。ロディ・マクドウォールの異様な存在感も忘れがたいが、この俳優は『猿の惑星』を観てしまったら最後、特殊メイクをしていなくとも猿のように思えてしまうのが少々悩ましい。それでも滑稽になりすぎないのは貫禄を感じさせるが、本篇においてはスティーンバージェンの名演をサポートしているに留まっている。
辛いことを書いたが、ひねりの効いた、見応えのあるサスペンス映画であることは間違いない。最後まで不安とスリルに浸ることが出来る。
関連作品:
『猿の惑星』
『ヘルハウス』
『レベッカ』
『エスター』
『スウィッチ』
『ゴーストライター』
コメント