『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』スペシャルトークショー付上映 at グランドシネマサンシャイン。

 月曜日にあんなこと書きましたが、色々考えた末、今日は映画鑑賞の予定を立ててしまいました。なにせ、他の日では代えが効かない内容なので。
 鑑賞を決めたのには、そもそも予定として決めてあった墓参りのあとでも間に合いそうだったから、というのもあったりする。墓参りそのものも、いつもよりちょっと早い時間に家を出かけることにしました。
 墓参の移動で渋滞に巻き込まれると仮眠の時間がなくなる恐れが、という若干の不安も杞憂で済み、終始スムーズ。お決まりである行きつけの蕎麦屋への訪問もいつもより1時間は早かったのではなかろうか。蕎麦屋近くのホームセンターで探し物をしたあとでも、明らかに早く帰宅できました。
 無事に仮眠を取って疲れを抜き、夕方から電車を使って池袋へ。
 劇場はグランドシネマサンシャイン。何度か行ってるから迷わない……かと思いきや、ここのところ池袋は西口で映画を観る方が多かったからか、位置を取り違えて、明後日のほうに進んでしまった。まあまあ余裕のある時間帯に出たはずなのに、列のやや長かったパンフレットは後回しにせざるを得ませんでした。帰りがちょっと遅くなるので、軽食のほうが大事。
 鑑賞したのは、TXQ FICTION『イシナガキクエを探しています』『飯沼一家に謝罪します』に演出として携わった近藤亮太監督が第2回日本ホラー映画大賞を受賞した自らの短篇を長篇映画化、13年前に弟が失踪するときを記録したビデオテープが恐怖を招くホラーミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(KADOKAWA配給)
 これは大変に良いホラー。いわゆるホラー映画にありがちな、突然の音や出現で驚かせる趣向はおろか、CGや特殊撮影もしてない。ひたすら事実の積み重ねと、雰囲気だけで醸成する恐怖のまとわりつく感覚が秀逸。
 一種の“呪い”にまつわる作品ですが、事象のきっかけ、仕掛けが定石を押さえつつもひねりが効いていて、微妙にズレて観客を揺さぶってくる手際が巧い。最近のホラー作品に多い、というか近藤監督が手がけた『イシナガキクエ~』や『飯沼一家~』も同様なんですが、大きな闇があって、それ自体にはどうしても抗いようがなく、ただ波及したところで起きる怪異、という、主要登場人物にはどうしようもない次元にある怖さを的確に描いてます。原因はなんとなく解るし結果は明瞭であるけれど、大元が決して全容を見せない。
 なにせ、お化け屋敷的なギミックや、視覚的に解りやすい不気味さ、おぞましさに頼らず、ひたすらに感性と想像力に訴えかける恐怖の描き方なので、怖くない、特に興味を惹かれない、という人もいるでしょう。けれど、そこに気配を感じ取ったときから、しんしんと滲んでくる恐怖がある。上質のホラー映画です。

 上映後はお楽しみのトークショーです。監督の近藤亮太、総合プロデューサーとして携わった『呪怨』シリーズの清水崇、そして司会として小林剛プロデューサーが登壇。
 清水氏がプロデューサーとして就いたのは、日本ホラー映画大賞に審査員として携わっていたからなのですが、実は近藤監督が映画の世界に脚を踏み入れたのは、清水氏の『劇場版 呪怨』を鑑賞したことがきっかけだったとのこと。その凄みに圧倒され、映画美学校出身であることを知って、入学したのだとか。その話に、『呪怨』撮影時はまだまだ若手だった清水氏が年齢を実感されていた。
 ちなみにその『劇場版 呪怨』、そもそもはオリジナルビデオ版の好評を受けて製作されたのですが、発売元だった東映ビデオは売れることなど予想せず、当時主流だったレンタルビデオ店に流通する数が少なかったという。近藤監督自身も、『劇場版~』のあとでビデオ版を鑑賞しようとするも、地元ではずっと貸出中で、隣町まで借りに行った。そして清水氏曰く、2ちゃんねるでは「ジュディ・オングの怖いビデオがあるらしい」という書き込みを目撃して、何だろう、と思ってたら自分の作品だった、なんてエピソードもあったそう。ちなみに私も鑑賞したのは、『劇場版~』の公開後に発売されたDVD版までかかりました。
 それ故に近藤監督も、『呪怨』シリーズからの強い影響を認めている。それもやはり、直接的な描写よりも、カメラのポジションなどが表現する雰囲気の怖さに影響が出ている、と語る。とはいえ、一方の清水氏は、自身が更に先行する『リング』や『ほんとうにあった怖い話』、そして80年代に流行した心霊写真(ここで清水氏は別の名前を出されていたけど、たぶん中岡俊哉ではなかろうか)の影響を受けて自然にしていた恐怖の表現だったため、近藤監督はそちらにも影響があった、という第1回日本ホラー映画大賞の応募作も、自分からの影響とは思わなかったのだとか。むしろ清水氏は、雰囲気を描写したうえで、何かしてしまう自身や黒沢清監督と異なり、そこで抑える近藤監督のセンスを評価されていた――なんか互いに褒め合ってる、と笑いつつ。ちなみにここで触れた日本ホラー映画大賞に応募した近藤監督の2作品は、Amazon Prime Videoで鑑賞可能だそうです。あとで観る。
 ここで、だいぶ時間が迫ってきたため、観客からの質問を受け付けるくだりへ。
 まずは、私が“お化け屋敷的”と表現する、いわゆる“ジャンプスケア”の手法を使わなかった理由。これは、近藤監督自身が、この“ジャンプスケア”よりも、それがない時間の怖さに惹かれていたからという話。また、大きい音を出して怖さを演出するより、よりリアリティのあるもの、と考えると、こちらに落ち着いたのだとか。
 次の質問は、本篇の内容にだいぶ抵触するのでぼかして記します。要は、中盤で強い印象を残す“怪談”を挿入した理由への質問です。しかしこれは、監督自身というより、脚本を担当した金子鈴幸のアイディアなのだとか。依頼する際、監督のプロットに、ここで何らかの因縁の話を、という指定はあったものの、具体的な指示はなく、上がってきた脚本にこのエピソードがあった。ある意味、本筋とは関係がなく、入れるか悩みつつも、編集で削ることは可能だから、と残しておいた結果、完成品にも残ったそうな。壇上のプロデューサーも「これは必要か?」とだいぶ悩んでいたそうですが、それを敢えて残す感性を賞賛していた。観客としても、そしてだいぶ病んだ怪談好きとしても、このくだりは素晴らしいと思う。
 次の質問はロケーションについて。オリジナルの短篇ではトンネル、そして本篇では廃墟となった心霊スポットは実在するのか、という質問。どちらもあのまんま実在するそうです。トンネルはとある公園に残り、映画で使われた廃墟はかつて精神病院だったらしい。撮影隊にとっても、なかなか不気味な廃墟だったそうな。
 続く質問は、いずれも本篇に窺える『呪怨』からの影響について。シチュエーションが明らかに『呪怨』のそれなので、脚本にはなかったけれど、現場で「『呪怨』出来んじゃん!」と思いついて実行したそうです。たぶんホラー好きならみんなやる。実は劇中のある人物が、『オリジナルビデオ版 呪怨2』に出ていた方がイメージそのままなので、清水氏を通して依頼したのだとか。ここでは詳しく書かないので、現物で確かめてみてください。
 最後の質問は、2人がこれまでに怖さを感じた瞬間について。清水氏は、次回作の準備で脚本執筆に忙しく、徹夜しているような状況でも、それが楽しくて特に怖いとも感じないという。むしろ、一段落して家に帰ったら、家族に「いたんだ」と言われた時の方が怖かったとか。一方で近藤監督は、趣味が(違法侵入ではない)心霊スポット巡りだそうで、以前、かつて処刑場だった土地まであと20mというところにある橋の近く出、同行していた友人に腕を引かれ「これ以上行かない方がいい」と引き留められたとき、自分もそれ以上踏み込むことに恐怖を感じたことがあったそう。
 清水氏は他でもない、この公開記念イベントでも怖いことがあったそうです。先行する回では、満席にも拘わらず、前列の一画だけ何故か客が現れず、司会のプロデューサーに「怖い」とメッセージを送って、無視されていたそうな。そしてこの回はこの回で、必死にメモしているひとがいて怖かったとか……ってそりゃ私だ
 最後に、観客のためにフォトセッションを実施し、締めくくりの挨拶を挟んで終了。
 今回のイベントは参加者限定で、パンフレットを購入した先着150名を対象にサイン会も実施されました。私は到着が遅れたため、上映後にパンフレットを購入せざるを得ませんでしたが、無事にサインを頂戴できました。清水氏に「お騒がせしました」と謝罪しつつ。

 ちなみに、このイベントのためにシネマサンシャインの会員になったぞ。鑑賞ポイントの制度があるからですが、年間4回くらい来ないと元が取れない。午前十時の映画祭はここでもかかってるし、ちょうど年4回くらいは池袋に来る用事があるので、なるべく積極的に利用しようと思います。
 ……かるかやに代わるひいきのお店を探さないとなあ。ここはラーメン激戦地だけど、それ故に人気店には列が出来やすく、時間に制限があると利用しづらいのです。スムーズに入れて、価格がお手頃で……と考えると、結局、駅構内の立ち食いそばとかを利用するのが確実な気もする。次の機会までに考えておこう。

『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』トークショー最後のフォトセッションにて撮影。左が近藤亮太監督、右が清水崇総合プロデューサー。
『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』トークショー最後のフォトセッションにて撮影。左が近藤亮太監督、右が清水崇総合プロデューサー。

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