『ムカデ人間2』

新宿武蔵野館、劇場奥に展示されていた、ムカデ人間なりきりスタンド。

原題:“The Human Sentipede II (Full Sequence)” / 監督&脚本:トム・シックス / 製作:イローナ・シックス、トム・シックス / 撮影監督:デヴィッド・メドウズ / 美術:トーマス・ステファン / 特殊メイク:ジョン・シューンラード / 編集:ナイジェル・デ・ボンド / 録音:ヘンリー・ミリナー / 音響効果:エリアム・ホフマン / 音楽:ジェームズ・エドワード・バーカー / 出演: ローレンス・R・ハーヴィー、アシュリン・イェニー、マディ・ブラック、ドミニク・ボレリ / シックス・エンタテインメント製作 / 配給:Transformer

2011年オランダ、イギリス合作 / 上映時間:1時間31分 / 日本語字幕:岩辺いずみ / P18+

2012年7月14日日本公開

公式サイト : http://www.mukade-ningen.com/

新宿武蔵野館にて初見(2012/08/18)



[粗筋]

 ロンドンの駐車場。ひと組の男女が、警備員を務める男性に殴打され、乗用車で拉致された。

 警備員の名はマーティン(ローレンス・R・ハーヴィー)――低所得者世帯に、母とふたりきりで暮らしている。発達障害のある彼は友人もなく、いつしかある妄想に取り憑かれるようになっていた。その妄想の源は、世界中でカルト的な支持を集めた映画『ムカデ人間』である。暇があればラップトップ・パソコンでDVDを鑑賞し、作中で提示される図面を書き写したスクラップ・ブックを恍惚とした面持ちで眺めている。

 マーティンは拉致した男女を、街外れにある貸倉庫へと運んだ。閉じ込めておいた貸倉庫の管理人もろとも放り込んでおくと、ふたたび職場に戻り、新たな獲物を探す。

 マーティンの脳裏に描かれていたのは、憧れである『ムカデ人間』を、自らの手で作りだすことだった。しかも、あの映画よりも多く人間を使って……

[感想]

 1作目でさえ充分にヒドかったのに、続篇がここまでヒドくなると、予想していたひとはいないだろう、きっと。

 と、書いてはみたものの、個人的に1作目がそこまでヒドい作品だとは思っていない。確かに、人間を複数繋いでムカデ状にする、という発想は悪趣味だし、その発想が必然的に引き起こす醜悪な現象を描いている、という部分をヒドい、と表現してしまうのは簡単だが、しかしその部分に説得力を持たせるための工夫は繊細であったし、それ以外の、物語として成り立たせるための骨格はむしろホラーの王道であり、トータルでは“行儀がいい”作りだった。

 前作が公開されたのち、あちこちで響き渡る阿鼻叫喚に混ざって、私が感じたのと似たような感想が監督の耳に届いていたらしい。本篇はそれに対する反省、或いは反発、反動で出来ている、と捉えてよさそうだ――だから、前作以上にヒドい。

 いちおうは集結している物語の続きを描く、というのはなかなかに厄介だし、たいていは批判を浴びるものだが、本篇のアイディアはその点、絶妙と言っていい。前作の映画を観て影響された人間が、同じことを実行する。この一点だけでも、前作をパワーアップさせるのに充分と言えそうだが、その“模倣犯”に、発達障害を抱えた中年の男、という人物像を用意したのが、炯眼、という言葉を用いるのに躊躇するほど凶悪だ。

 前作では、3人の人間を繋げる人物に医者を設定、しかも施術の様子をあえて直接は描いていない。ゆえに、設定から想像するほど凄惨な描写はなく、想像出来る醜悪な出来事も、登場人物の芝居で補う形としているから、表現はマイルドだ。

 しかし本篇は、容赦がない。施術の様子をしっかりと織りこんでいる。しかも手懸ける人物マーティンには、前作のハイター博士のような医学的知識はいっさい、ない。まともな医療品はなく、まして麻酔などあろうはずもない。そんな状態で施す“手術”がどんなものなのか、想像するだけで慄然とする。

 それは、その後も同様だ。『ムカデ人間』における、手術よりも醜悪な出来事が何かは、観た人は無論、ちょっと想像力があれば察しはつくだろうが、これも前作では控えめに描いていたものが、まったく遠慮がなくなっている。“行儀がいい”といった論調で語られたことがよほど不本意だったのか、意地を掻き立てられたのか、過剰なほどの振り切れっぷりである。

 あまりにグロテスクに過ぎて、間違いなく前作以上に一般人向けでない作品に進化したことは疑いないが、だがしかし、それでも私はこの監督、非常に“行儀がいい”と考える。これほど醜悪な発想にも拘わらず、表現するための手管は洗練されているのだ。

 まず、構成である。前作自体、『悪魔のはらわた』系統の、人里離れた場所で繰り広げられるホラーをベースに緻密に組み立てられていたが、その路線を逸脱した本篇では、尚更に構成、語りの巧さが際立っている。表情も言動も異様なマーティンの姿を単純に追っているだけ、に見せかけて、物語を転がすための布石、観客を飽きさせないためのくすぐりを巧妙に仕掛けている。一見本筋とは無関係そうだったマーティンの身辺の様子も、彼が後半で迸らせる狂気を際立たせる効果を上げている点、非常に唸らされる。

 もうひとつ、これも一目瞭然のことではあるが、映像をモノトーンにしたことも本篇の優れた着眼だ。残酷描写を程良く和らげていることもそうだが、これがクライマックスのある描写を却って強烈にしているのである――もっとも、問題のシーンについては、色味が色味なのであまり見分けがつかず、監督が企図していたほどには効果を上げていない、と言わざるを得ないのが残念だが、アイディア自体は評価されて然るべきだ。

 醜悪な着想をとことん活かして、最後まで観客を翻弄する一方で、映画作りとしては非常に真っ当、という内容は、どういうひとなら喜んでもらえるのか、お薦めする相手に悩むところである。しかし、その徹底ぶりと完成度のみを純粋に評価するなら、私は躊躇なく本篇に太鼓判を捺す。1作目を観ておいたほうが深く楽しめるのは間違いないが、これ単独でも充分なインパクトをもたらしてくれるはずだ――観たあとで被る影響について、私のほうでは補償しかねるけれど。

 なお本篇は、既に第3作の製作に着手しているという。前作のハイター博士を演じたディーター・ラーザーが諸事情から不参加になりそうだ、という残念なニュースもあったが、舞台をアメリカに移し、更に頭数が増えるとか、今度は政治的な作品になる、とかどこまでが本気かよく解らないコメントを監督が繰り出し、いちいち好事家を騒然とさせているが、本篇の出来映えからして、更に“ヒドい”代物に仕上げてくれる、と信じていいように思う。完成はまだ先、そしてきっと陽の目を見た際にはまた公開規模について議論が起きるだろうが、同志が何らかの形で日本に送り届けてくれることを期待したい。

関連作品:

ムカデ人間

オテサーネク

シン・シティ

ホステル

ホステル2

私が、生きる肌

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