『セットアップ』

セットアップ [DVD]

原題:“Setup” / 監督:マイク・ガンサー / 脚本:マイク・ガンサー、マイク・ベルマン / 製作:カーティス・ジャクソン、ランドール・エメット、ジョージ・ファーラ / 撮影監督:スティーヴ・ゲイナー,ASC / プロダクション・デザイナー:ブルトンジョーンズ / 編集:マーク・スティーヴンス / 衣装:ミア・マドックス / キャスティング:バーバラ・フィオレンティーノ,CSA / 音楽:ザ・ニュートン・ブラザーズ / 出演:カーティス・“50 Cent”・ジャクソン、ブルース・ウィリスライアン・フィリップジェナ・ディーワンランディ・クートゥアジェームズ・レマー、ショーン・トーブ、ウィル・ユン・リー、スージー・アブロマイト、ラルフ・リスター、ブレット・グランスタッフ / 配給&映像ソフト発売元:日活

2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間25分 / 日本語字幕:小寺陽子 / PG12

2012年3月10日日本公開

2012年7月3日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://setup-eiga.com/

DVD Videoにて初見(2012/08/20)



[粗筋]

 アメリカ、デトロイト。幼い頃は神職を志していたサニー(カーティス・“50 Cent”・ジャクソン)は、しかし結局悪の道に染まってしまった。その日も、幼い頃からの親友ヴィンス(ライアン・フィリップ)とデイヴ(ブレット・グランスタッフ)とともに、宝石を輸送中の車を襲撃する計画を実行に移したが、事態はサニーの想像もしていなかった展開を迎える。ヴィンスは輸送していた男を銃殺したばかりか、逃げ切ったあとでサニーとデイヴを撃ち、宝石を独り占めして去っていったのだ。

 デイヴは死に、辛うじて軽傷で済んだサニーは、ヴィンスを追いはじめる。ヴィンスが取引をするはずだったマフィアのもとにも銃を携えて赴く大胆さは、だが別の大物によって目をつけられてしまった。その男、ビグス(ブルース・ウィリス)は、ヴィンスが彼の商売敵であるジョンR(リチャード・ゴテリ)とつるんでいたといい、サニーに協力する代わり、彼が最近奪われた金を、彼の部下ピーティ(ランディ・クートゥア)とともに取り戻してくるよう命じる。

 不承不承ながらもサニーはこの仕事を無事にこなしたが、直後、とんでもない事故が起きる。仕事が成功したことを祝って、ドラッグを求めに行った先で、ピーティが銃の暴発により死んでしまったのだ。ビグスの元に戻ることが出来なくなったサニーは、伝手を頼んでピーティの遺体を始末すると、襲撃の際の記憶を頼りに、単独でヴィンスの行方を捜し始める……

[感想]

 監督のマイク・ガンサーはスタントマン出身らしい――と説明すると、アクション盛り沢山の作品を期待してしまうが、そういう意味では決して十全に応えてはくれないだろう。途中に挟まれた追跡劇など、一部に納得の切れ味を感じさせるが、しかし決してそこに重点を置いていない。基本的には、裏の社会に足を踏み入れてしまった青年が遭遇するトラブルを描いた、クライム・ドラマを志向した作品である。

 それは解るのだが、惜しむらくは少々、芯が弱い。話が予想外の方向へと転がっていく感覚は巧みだが、しかし背景となる彼らの力関係、行動原理や、物語を支えるキャラクターの味付けが薄いので、どうも軸足が安定していない感がある。ツボは押さえているのだが、もうちょっと力を籠めても、というべきだろうか。

 映像のと演出にテンポがあり、観ていて入り込みやすい点は好感が持てる。あとあと、お話としては無駄になる要素も、話運びのリズムを生み出している、という意味では効いているようだ。このあたりは、製作と主演を兼ねたカーティス・“50 Cent”・ジャクソンがヒップホップのミュージシャンであることも奏功しているのかも知れない。

 この映画を観ていると、登場人物のユニークさとともに、間抜けさが際立っているように思う。サニーを窮地に追い込んだきっかけもそうだが、のちのち極めて重要な役回りを演じそうな雰囲気で出て来た人物の去り際も奇妙だし、もっと言えば、大物然としたブルース・ウィリスの立ち位置も微妙だ。

 しかし、そうしてどこか王道からずれたような成り行きが、作品全体に漂う“不条理”なムードを強めている。もともと神職を志していたはずが犯罪の道に走り、親友の裏切りにより危険な立ち位置に追い込まれ、力関係ゆえの理不尽な軋轢に悩まされる。クライマックスの推移にしても、有り体な結末を避けたことが、独特な哀感に繋がっている。

 恐らく、製作者たちなりの目線で、犯罪に手を染める人々の現実を、皮肉を交えてクールに描きたかったのだろう。ある程度まで成功しているのは確かだが、人物像やシチュエーションの掘り下げがいまひとつなので、どうも軽い手応えになってしまっている。ただ、その軽さを否定的に観るかどうかは、観客の考え方次第だろう。率直に言って、私はいまひとつ手応えに乏しかったのだが、エンタテインメントとしては綺麗にまとまっている作品だと思う。

 ところでこの作品、映像ソフトに収録された吹替版で、ブルース・ウィリスに声を当てているのが綿引勝彦という方になっている。聞いたことがない、というひとも多いかも知れないが、ダイハツ・ミライースのCMでブルース・ウィリスに悩まされていた宣伝部長、と説明すればピンと来るのではなかろうか。

 本稿を書いている現時点でブルース・ウィリス出演のCMは終わってしまっているが、そのいちばん最後のヴァージョンで、宣伝部長がブルースに声を当てる、というシチュエーションが描かれていた。これが意外としっくりと嵌まっている。

 日本ではブルース・ウィリスの吹替は、作品によって異なるものの、『ダイ・ハード』を中心として野沢那智が当てている、というイメージが強かった。しかし、野沢那智が亡くなった以降は、イメージが確立していない。その一方で、ブルース・ウィリスは従来のようなアクション大作で主演することもあるが、本篇のように一種箔付けのような立ち位置で重鎮を演じることが少なくない。そういうときのイメージに、綿引勝彦の声が結構合っているのだ。

 本篇で本当にブルース・ウィリスの吹替に起用されると、続く『エクスペンダブルズ2』の劇場用吹替版でも綿引氏が採用されている。そもそもの端緒がCMだったことは間違いないが、ブルース・ウィリスの新たな“声”が定められた最初の作品として、本篇の名前を覚えておくと、ちょっと映画通を気取れる――かも知れない。

関連作品:

ロシアン・ルーレット

エクスペンダブルズ2

リンカーン弁護士

ザ・タウン

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