『るろうに剣心』

TOHOシネマズ川崎、上映スクリーン前のチラシ。

原作:和月伸宏(集英社・刊) / 監督:大友啓史 / 脚本:藤井清美、大友啓史 / 製作:久松猛朗、畠中達郎、茨木政彦、高橋誠、内藤修、喜多埜裕明 / 製作総指揮:ウィリアム・アイアトン / プロデューサー:久保田修 / エグゼクティヴプロデューサー:小岩井宏悦 / アクション監督:谷垣健治 / 脚本協力:黒崎薫 / 撮影:石坂拓郎 / 照明:平野勝利 / キャラクター&衣裳デザイン:澤田石和寛 / 美術プロデューサー:竹村寧人 / 美術:橋本創 / 装飾:渡辺大智 / VFXスーパーヴァイザー:小阪一順 / 編集:今井剛 / 音楽:佐藤直樹 / 主題歌:ONE OK ROCK『The Beginning』 / 出演:佐藤健武井咲、吉川晃司、蒼井優青木崇高綾野剛須藤元気、田中偉登、斎藤洋介、平田薫永野芽郁、平山祐介、深水元基奥田瑛二江口洋介香川照之 / 制作:C&Iエンタテインメント / 配給:Warner Bros.

2012年日本作品 / 上映時間:2時間14分

2012年8月25日日本公開

2012年12月26日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:通常版(amazon)、豪華版(amazon)|Blu-ray Disc:通常版(amazon)、豪華版(amazon)]

公式サイト : http://www.rurouni-kenshin.jp/

TOHOシネマズ川崎にて初見(2012/09/14)



[粗筋]

 1868年1月。鳥羽伏見の戦いで、新政府軍は幕府軍に勝利、時代は大きな転換期を迎えた。そしてこの日を境に、伝説となっていた男が姿を消す。“人斬り抜刀斎”と通称された男は、鬼神の如き強さで長州藩の暗殺者を務めていた男は、斎藤一(江口洋介)と対峙しているさなかに鬨の声を聞くと、携えていた刀を地面に打ち立て、そのまま立ち去ってしまった。

 それから10年。緋村剣心(佐藤健)と名を変え、ひとりの“るろうに”として日本中を旅する暮らしを送っていた男は、辿り着いた東京で、驚くべきものを目にする。殺人犯の手配書に、“人斬り抜刀斎”の名前があったのだ。剣心が呆然としていると、ひとりの女性がにわかに突っかかってきた。どうやら、佩刀している剣心が手配書にある人斬りではないか、と勘繰ったようだが、剣心が差しているのが、刃を峰の側に作った“逆刃刀”であるのを知って矛を収める。

 その女性、神谷薫(武井咲)は神谷活心流を教える神谷道場の跡継であるという。いま巷を騒がせる殺人犯“人斬り抜刀斎”が神谷活心流の名を騙っており、その汚名を雪ぐために抜刀斎を探していた。

 抜刀斎を名乗っている男は、鵜堂刃衛(吉川晃司)。実業家を標榜しながら、その実、アヘンの密輸を筆頭にあくどく稼いでいる武田観柳(香川照之)は、ちょうど神谷道場のある一帯を密輸のための港にしようと地上げをしており、居座る薫を追い出すために、鵜堂を使って神谷道場の汚名を広めていたのだ。しかし、なかなかめげない薫に業を煮やし、観柳は道場を打ち壊して更に彼女を追い込もうと目論む。

 このとき、神谷道場には薫と、ただひとり、年若い門弟の明神弥彦(田中偉登)がいるだけだった。暴漢達の振る舞いになすすべもなかった薫たちだが、そこへふらり、と剣心が現れる。飄然としながらも、剣心は凄まじい強さを見せ、暴漢達を圧倒する。やがて駆けつけた警察は、暴漢達とともに、剣心まで検挙していった。

 運び込まれた警察署では、剣心を思わぬ人物が待ち構えていた。10年前、最後に彼が対峙した男――斎藤一である……

[感想]

 人気漫画の実写映画化はハードルが高い。恋愛をテーマにした少女漫画ならばまだしも、アクションを売りにする少年漫画の場合、たとえそれが現代物でも猛烈な批判に晒されがちだ。

 本篇の場合、製作が発表された時点で揶揄され、主役である緋村剣心佐藤健が決定した、と報じられたときに否定的意見が頂点に達した感があった。アニメ版では一貫して女性が声を当てているこのキャラクターに、色気のある俳優とはいえ、男性を配することに違和感を覚えるファンも少なくなかったのだろう。

 だが、やはりこういうものは完成品に触れてみないことには正しく評価できないものらしい。公開前から次第に好意的な声が聞こえ始め、一般上映されたのちには、かなりの好評をもって迎えられている。

 もとより、現実の俳優を漫画の絵そっくりに描くことは出来ないが、イメージを可能な限り再現することは出来る。本篇はほとんどの登場人物が、原作のイメージにかなり迫っているのだ。発表当時は危惧された佐藤健による剣心は、アニメ版のような柔らかさは少々足りないが、しかし如何にも頼りない優男、という雰囲気を平素は醸しつつ、アクション・シーンでは鬼気を宿す。彼なりに“緋村剣心”というキャラクターを消化し、自分のものとして演じているのが窺える。他のキャラクターも同様で、恐らくよほどの原理主義的思考をしたがる人でもない限り、ファンも納得のいく人物像に仕上がっているはずだ。武井咲演じる薫の健気さや蒼井優演じる の意外なほどの妖艶さと儚さは無論のこと、青木崇高の憎めない乱暴者っぷりや、江口洋介の貫禄も捨てがたい。いつも以上にキレキレな香川照之は言わずもがな、である。

 他方、アクション・シーンそのもののクオリティの高さも賞賛に値する。現代マーシャル・アーツ俳優のトップと言っていいドニー・イェンのスタント・チームにも名前を連ねる谷垣健治が指揮したスピード感と重量に富んだアクションは、単純にアクション映画として鑑賞しても本邦最高のレベルと断言できるが、原作に登場する技の数々を、出来る範囲で再現していることも好感が持てる。技の名前こそ示していないが、原作読者ならニヤリとするようなシーンが幾つもあるはずだ。必殺技の存在を誇示したりするような、悪い意味で漫画的にする愚を犯さず、しかし映画的な激しさ、テンポをわきまえた構成にすることで、特殊な技の数々をアクション・シークエンスのなかで巧みに取り込んでいる。

 そして、ストーリー自体も優秀だ。2時間程度という劇場用映画の尺に収めるため、原作と同じ構成にするのは当然不可能なのだが、巧みに原作のエピソードを抽出しつつ、クライマックスに向かって説得力のある構成にしており、原作を知っているか否かに関わらず楽しめる内容となっている。刀を完全に捨てることが出来ず、峰の側に刃を入れた“逆刃刀”というアイテムが物語る剣心の煩悶を軸に、未だ変化の続く明治初頭の世の中で、自らの生き方を模索する人々のドラマがきちんと醸成されている。原作が少年漫画であるだけに若干の青臭さもあるのだが、それが臭みにまで至らず、程良い匙加減で成熟しているのも巧い。

 惜しむらくは、明治初期ならではの風俗や、剣心に薫、他の仲間たちが生活を共にしているあいだに絆を結んでいくさまがあまり描かれていないことだが、その程度は大した疵ではない。日本の少年漫画をベースにした映画化作品としては間違いなく最高水準の仕上がりであり、まったく原作について知識がなくとも楽しめる、時代アクション映画の秀作と言っていい。ここで終わるのも粋だが、これほどの質を実現してくれたのだから、もし同じスタッフ・キャストで続篇が製作されるのなら、かなり期待してもよさそうだ。

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