原題:“打擂台 Gallants” / 監督:デレク・クォック、クレメント・チェン / 脚本:デレク・クォック、クレメント・チェン、フランキー・タム / アクション監督:ユエン・タク / 製作:ラム・カートン / 製作総指揮:アンディ・ラウ、ソン・ダイ、ユー・トン / 撮影監督:オー・シンプイ,HKSC / プロダクション・デザイナー:シルヴァー・チャン / 編集:ホイ・ワイキッ / 音楽:テディ・ロビン、トミー・ワイ / 主題歌:MCジン、ジョニー・イップ、ジア・シャオチェン『Fight to Win』 / 出演:ウォン・ヤンナム、チェン・クァンタイ、ブルース・リャン、テディ・ロビン、ジア・シャオチェン、シウ・ヤムヤム、チャーリー・チャン、MCジン、リー・ハイタオ、ロー・マン、ロー・ウィンチョン / 配給:オルスタックソフト販売
2010年中国、香港合作 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:鮑智行
2013年1月5日日本公開
シネマート六本木にて初見(2013/01/05)
[粗筋]
かつては近所の少年ハナタレを相手に一方的な暴君ぶりを示していたリョン(ウォン・ヤンナム)だがそれも昔、いまでは喘息持ちのひ弱な青年に成長していた。勤務先の不動産会社でもろくな働きが出来ず、雑用ばかり任され四六時中上司から罵られている。
あるときリョンが命じられたのは、開発が予定されている辺鄙な村の、地権者による用地回収を手伝うこと。だが、訪れるなりヤクザな男(ロー・ウィンチョン)に絡まれ、ボコボコに伸されてしまう。しかし、そこへ飄然と現れた、脚の悪い老人が、驚くほどの功夫でヤクザな男とその仲間を打ち倒していった。
ひ弱な自分を克服しなくては、という想いに駆られていたリョンは、たまたま訪れた“羅記茶館”という店でくだんの老人が働いているのに気づき、弟子入りを懇願する。しかし、その老人――ソン(ブルース・リャン)はにべもなく断るのだった。
実はこの“羅記茶館”はかつて、“羅新門”という武館であった。無敵を誇ったロー師父(テディ・ロビン)のもと、多くの弟子が集っていたが、ある男との試合のさなかに師父は意識を失い、以来30年にわたって眠りつづけている。ほとんどの弟子は武館を離れ、いまや残っているのは最強と言われたふたりの内弟子、ソンとセン(チェン・クァンタイ)のみ。生活のために武館も茶館に改装され、その建物も、もともとはロー師父に恩義のある人物が永久に提供したものだったが、開発のために権利書を狙われている状況だった。
ゴタゴタのうちに茶館を追い出され落胆するリョンに追い打ちをかけたのが、会社の取引相手である地権者が、よりによってかつて彼がいじめていたハナタレことマン(MCジン)だったことである。アメリカに渡ったのち、体育会で武術を学び逞しくなったマンはかつての鬱憤を晴らすようにリョンを痛めつけると、権利書を奪うために、義兄弟ともどもリャンを連れ、茶館へと乗り込む。
侵入に気づいたソンとセンは果敢に戦うが多勢に無勢、ふたりとも古傷を負う老体ということもあって、袋叩きの目に遭う。だがそのとき、思いも寄らない事態が起きる――ロー師父が目醒めたのだ。
[感想]
私程度の深さでは全員を把握するのは難しいが、マイナーな作品まで含め、往年のカンフー映画を丹念に鑑賞してきたマニアにとって、本篇のクレジットは興奮を誘うものだろう。
中心人物となるソンを演じたブルース・リャンは『カンフーハッスル』で衝撃的な復活を遂げたことで近年はアクション映画への露出も増えているが、最近は脇役として存在感を示すチェン・クァンタイが相棒のセンに扮してアクションに加わると、『ドラゴンロード』『プロジェクトA2/史上最大の標的』でジャッキー・チェンと拳を交えたチャーリー・チャンは、ビジネスマンとして武術の振興を目指すチン社長として、アクションに絡まないまでもストーリーに味を添える。主人公的位置づけとして、実質的な視点人物として活躍するのはウォン・ヤンナムだし、敵方においてアクション面で最もクローズアップされるのはリー・ハイタオという比較的若く、現役でアクション映画に携わる俳優だが、しかしそういう若手に往年のアクション俳優たちが怯まず挑んでいく姿は、マニアにはたまらないはずだ。ワイヤーワークに頼らない、技と力強さで魅せるアクションにも痺れさせられる。
しかしこの作品のポイントは、そうしたヴェテランたちが闇雲に強さを示し、若者たちを圧倒する、といった内容にはなっていないことだ。
邦題の雄々しさ、随所で見せるアクションの切れとは裏腹に、本篇の主題は、武術しか知らず、姉弟の関係に囚われ身動きの出来ないかつての達人たちの姿を、ペーソスとユーモアとを巧みに混ぜて描き出すことにある。
未だ頑強だが古傷に悩まされ、大勢を相手にしては膝を屈するしかない序盤の姿もさりながら、いちばんのキモは、さほど戦う場面の出て来ない、ロー師父覚醒後の表現だろう。目醒めはしたが、30年も眠っていたことが認識できないも当然で、自分が年老いたことも含めまわりの状況が飲み込めない師父は終始とんちんかんな言動を繰り返してセンやソンを悩ませる。いまさら過酷な修行を強いられたり、ロー師父がよく訪れていたクラブに引き連れられる場面の、時代の流れを痛感させつつも笑いを誘うくだりは、お話としては脱線のように映るが、しかし何とも切ない味わいに満ちている。
クライマックスにしても同様だ。幾つもの出来事を経て心情に変化は起きるものの、短期間の物語であるため、結果として話を動かす青年リョンはまだまだ弱く、センとソンが年老いてしまったことは変わりない。本篇はそういう事実を、曲げることなくしっかりと描いている――それ故に、終盤の顛末は、シンプルなカンフー映画の面白さを期待しているとただただ腑に落ちないものになっているが、しかし一連の描写が意図するものをしっかり汲み取っていると、妙に快く、そして沁みてくる。
かつては若く意気軒昂だったものも年老いる。若く壮健なままではいられない。だが、かつての良質な、武術に求められる精神をきっちりと織りこんだカンフー映画は、それでも前を向いて立ち向かうべきだ、と訴えていた。本篇はその精神性を、時間の経過も含めて蘇らせている、と捉えられる――だからこそ快いし、結果に拘わらず、胸に沁みるのだ。
どこか無茶で支離滅裂なところはあるし、最後になって、かなり悪さをしてきた人物も簡単に許されてしまっている、それどころか善人に映ってしまうのが気にならないわけではない。しかし、そんな細部の雑さ、大らかさも含めて、1970年代から隆盛を誇ったカンフー映画、香港映画の匂いを嗅ぎ取れる。そういうところまで含め、ユーモラスながらも敬意に溢れた作品である。背景に頓着しないひとにとってはたぶん珍妙な映画に感じられるだろうが、考証していくと、香港にて映画賞を獲得するほどに評価されたのも頷けるのだ。
関連作品:
『飛龍神拳』
『ドラゴンロード』
『カンフーハッスル』
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