『ラム・ダイアリー』

ユナイテッド・シネマ豊洲、施設入口付近のポスター。

原題:“The Rum Diary” / 原作:ハンター・S・トンプソン(朝日新聞出版・刊) / 監督&脚本:ブルース・ロビンソン / 製作:ジョニー・デップ、クリスティ・デンブロウスキー、アンソニー・ルーレン、ロバート・クラヴィス、ティム・ヘディントン、グレアム・キング / 製作総指揮:パトリック・マコーミック、ジョージ・トビア、ジル・シヴリー、A・J・ディックス、グレッグ・シャピロ、コリン・ヴェインズ / 撮影監督:ダリウス・ウォルスキー,ASC / プロダクション・デザイナー:クリス・シーガーズ / 編集:キャロル・リトルトン,A.C.E. / 衣装:コリーン・アトウッド / キャスティング:デニス・チャミアン,CSA / 音楽:クリストファー・ヤング / 出演:ジョニー・デップアーロン・エッカート、マイケル・リスポリアンバー・ハードリチャード・ジェンキンスジョヴァンニ・リビシアマウリー・ノラスコ、マーシャル・ベル、ビル・スミトロヴィッチ / 配給:Showgate

2011年アメリカ作品 / 上映時間:2時間 / 日本語字幕:松浦美奈 / R15+

2012年6月30日日本公開

公式サイト : http://rum-diary.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2012/07/04)



[粗筋]

 1960年、ポール・ケンプ(ジョニー・デップ)は南米にあるプエルトリコの首都サンフアンに飛んだ。作家志望だがなかなか芽が出ず、稼ぎが必要になった彼は、大言壮語を連ねた履歴書を現地の新聞紙サンフアン・スターに送付し、記者の座を獲得する。

 だが、確かに収入は得られるが、プエルトリコは決して彼にとってパラダイスではなかった。

 政情は不安定で、印刷機の自動化が進んだことで解雇されたかつての従業員たちが、年がら年中抗議行動を繰り返している。用意された滞在先がホテルだったため、ケンプは調子に乗って冷蔵庫の酒を呑みまくっていたが、編集長のロッターマン(リチャード・ジェンキンス)からは「自費だ」と言われ、ホテル住まいを取り消されてしまった。

 着任早々親しくなったカメラマンのボブ・サーラ(マイケル・リスポリ)の紹介で入った新たな住居は、窓は開けっ放し、水道は赤錆だらけで稀に真水が出るくらい、そしてラム酒で脳味噌の崩壊した前任者モバーグ(ジョヴァンニ・リビシ)が頻繁に出入りし、サーラ共々ラム酒の密造に励んでいる。

 記者とはいうものの任されているのは占い記事で、仕事にもやり甲斐が見いだせない。そんな彼に声をかけたのは、現地で活動する実業家サンダーソン(アーロン・エッカート)であった。サンダーソンは地元の有力者とともに、沖合の島をまるごと買収し、一大リゾート地の建設を目論んでいる。そこでケンプに、好意的な記事を書くよう、協力を求めてきたのだ。

 現地に案内されたケンプは、その計画の壮大さに驚かされる一方で、契約に違法性があるのではないか、という疑念を抱く。しかし、方々で問題を起こし、サーラから借りていた車を大破させると、気安く高級車を貸し出したりと便宜を惜しまないサンダーソンを、ケンプは積極的に拒絶することは出来なかった……

[感想]

 ジョニー・デップにとって、親友でもあったハンター・S・トンプソンによる小説の映像化である本篇の製作は悲願であったらしい。長いこと製作がアナウンスされ、一時期は俳優ベニチオ・デル・トロが監督する可能性も示唆されていたが、なかなか実現せず、かなりの年月を経てようやく日本に届けられた格好である。前々から情報を追っていた私としては、待望の公開だった。

 確かに、熱意は解る。役柄としても、ジョニー・デップらしさが強烈に滲んでいて、魅力的だ。だが、正直なところ出来映えはいささか微妙である。

 この作品は終始、もっとも描きたい部分があまり明確でないか、或いはかなりずれてしまっている。主人公ポール・ケンプの、自堕落ながら理想を捜し求めているかのような人物像は目を惹くものの、作中描かれる出来事と巧く噛み合っていないので、話が盛り上がっている、という感がない。

 最終的にポールはサンダーソンたちが行う開発の問題点を告発するために尽力するが、そもそもどのあたりが問題とケンプが捉えたのか、まともな説明も伏線も乏しいので、終盤で彼が見せる使命感がいまひとつ理解しづらい。途中で登場する“運命の女”シュノー(アンバー・ハード)を巡る経緯から私怨を抱き、それが原動力になっているかのように映る――そういう側面もあるのだろうが、それだけ、に感じられてしまうので、観る側がケンプの意欲に共感しづらい。

 そもそも、本篇でケンプが見舞われるトラブルの多くは自業自得、もっと言ってしまえば、諸悪の根源はサンダーソンやプエルトリコの頽廃的な空気などではなく、友誼を結んだサーラにあるように思える。そう捉えて、序盤の出来事を巻き込まれ型のトラブル・コメディとして眺めればまだ楽しめるのだが、それが何故か終盤で使命感に結びついてしまうのが、どうも納得しづらい。

 本篇は前述したハンター・S・トンプソンが、実際に1960年代のプエルトリコに滞在していた頃の経験をベースに執筆した小説に基づいているという。ならばこうした流れは現実に即したもので、それなら主題がぶれて感じられるのも致し方ない――とも思ったが、プログラムを読むと、原作はふたりの主人公がおり、映画化に際してこのふたりの人物像や関わる出来事をポール・ケンプというひとりの主人公に集約したのだという。それなら、もっと描き方を一貫して、ストーリーなり余韻なり、もう少しまとめるべきではなかったか。いっさいを曖昧にすることを狙った文芸作品ではなく、むしろ過程の狂騒的な描写はエンタテインメント寄りなのに、意志が一貫していないことが本篇の最大の問題点だろう。

 1960年代の南米の、アメリカから山師や駄目人間が蝟集し、現地の人々と軋轢を起こしている様を、楽園的な景観の上に描き出した映像、特徴的なリズム感など、醸しだす独自のムードは悪くない。ジョニー・デップという俳優のアクを快く凝縮したポール・ケンプという人物を筆頭に、ちりばめられた個性的なキャラクターのやり取りの愉しさもなかなかの見応えだ。構図の作り方なども含め、場面場面の印象は鮮烈なのだが、トータルでは語りの拙さが色濃く、この時代、この場所のクレイジーな雰囲気を味わう、以上の楽しみ方が出来ないのが惜しまれる。ジョニー・デップの、原作者ハンター・S・トンプソンに捧げる敬意と、本篇に対する情熱がいささか暴走してしまった作品という感を受けた。

関連作品:

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