ネズミ……ではなかった。

 このあいだから、窓の外から変な音がしていました。
 チュ、チュ、という小さな音の響きは、齧歯類の鳴き方に似ている――気がする。
 実は我が家では2年ほど前、ネズミの侵入を許している。近所の建物が建て替えとなり、そのあたりに潜んでいたネズミが出てきてしまったことと、周辺の地域猫が減少したことで、我が家の周辺に出没していたらしい。
 幸い、そのときはまだ先代猫のメイが健在でした。非常に鈍感かつ臆病な子でしたが、それでもネズミに対しては脅威です。あちらが警戒して行動しているのを発見し、私と母でギャーギャー言いつつ、段ボールでバリケードを作り、最終的に窓から追い出すことに成功しました……位置関係がよかったのです。
 ただ、状況は変わり、最近は近所に少なくとも4匹は地域猫がうろついていることを認識している。うち2匹は、我が家の庭でときどき格闘を繰り広げて騒がしいものの、お陰でネズミの気配はなくなっていた。
 未だに地域猫がいることは確認が取れているので、ネズミが居つく可能性は低い。だから、チュ、チュ、という鳴き声に似たものは、別の原因があるのだろう、と察しはついたけれど、それでも、正体が不明のままでは落ち着かない。

 音の聞こえた状況を検証しているうちに、何となく原因は解ってきた。
 夜に聞こえることが多い、と思ってましたが、どうやら違う。正確には、
“風の強いときに聞こえる”
 だったのです。
 この時点で概ね想像はつきましたが、確証はない。何より、解ったとはいえ、妙に気になる音がし続けているのは事実で、放っておくのは落ち着かない。
 本日、陽が傾き始めた頃合い、部屋にいると、またしてもあの音が聞こえた。それも、だいぶ位置のはっきり確認出来るあたりで。
 猫がくつろいでいる箱をまたいでベランダに出て、音の出所を確かめる。風が強く吹いたタイミングで、音の出所を探す。
 ようやく解りました。

 伸びすぎた庭木の一部が、ベランダの屋根に引っかかって、擦れてました。

 そろそろ少し切らなきゃ、と母も言っていましたが、まさかこんな露骨に擦れているとは思いませんでした。
 枝の重みでしなりが大きく、一部の枝がベランダの屋根に潜ってしまっていたのです。これが、屋根と擦れ合って、軋むような音を立てていた。
 なにせけっこうな高さになっていて、素人が迂闊に手を出すのは危険ではある。ただ、しっかりベランダに潜り込むくらいになっているので、全体に枝がベランダから手を伸ばせば届くところに来ていた。
 そこで、剪定ばさみを持ち出すと、届く枝を引っ張り、引き寄せて、邪魔になっている部分を引っ張ってみた――庭木に「ごめんね、ごめんね」と囁きつつ、ついでに茂りすぎて葉の見当たらない細い枝も落とす。
 そうこうするうちに、引っかかっている箇所に近い枝が手許まで来た。もはや結構立派に育ってしまったこの庭木とはいえ、伸びた先なので、まだ充分に剪定ばさみで切り落とせる。ついでに、ちょっと邪魔になりそうな枝も落として、手を放す。
 無事に、枝はベランダの屋根の外へと離れました。

 相変わらず外は強く風が吹き抜けていますが、ネズミの鳴き声めいた音は聞こえません。
 ……ようやく、ネズミの気配に怯えずに済む夜が訪れそうです。なにせ、クルーズ船内のハンタウイルス集団感染の報があってからというもの、ネズミへの警戒心が強まっているので、それっぽい気配にどうしても神経質になってまうのです。

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