原題:“Goldfinger” / 原作:イアン・フレミング / 監督:ガイ・ハミルトン / 脚本:リチャード・メイボーム、ポール・デーン / 製作:ハリー・サルツマン、アルバート・R・ブロッコリ / 撮影監督:テッド・ムーア / プロダクション・デザイナー:ケン・アダム / 編集:ピーター・ハント / 音楽:ジョン・バリー / 作詞:レスリー・ブリッカス / テーマ曲:レスリー・ブリッカス、モンティ・ノーマン / 主題歌:シャーリー・バッシー / 出演:ショーン・コネリー、ゲルト・フレーベ、オナー・ブラックマン、シャーリー・イートン、セク・リンダー、タニア・マレット、バーナード・リー、ロイス・マクスウェル、デスモンド・リュウェリン、ハロルド坂田 / イオン製作 / 配給:日本ユナイテッド・アーティスツ
1964年イギリス作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:保田道子
1965年4月1日日本公開
2012年11月23日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|DVD Video(TV放送版吹替収録):amazon]
TOHOシネマズ日劇にて初見(2012/12/16) ※『007/スカイフォール』公開記念上映
[粗筋]
メキシコでの任務を完了させたジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)がマイアミで休暇を過ごしていると、新たな命令を与えられた。同じホテルに滞在している実業家オーリック・ゴールドフィンガー(ゲルト・フレーベ)を監視しろ、というものである。
ホテルでゴールドフィンガーは、さる富豪と連日カードゲームに興じ、イカサマによって大金を巻き上げていた。ボンドはそのイカサマを見抜き、ゴールドフィンガーに協力していたジル・マスターソン(シャーリー・イートン)を寝取って一泡吹かせるが、しかしその晩、自室でくつろいでいるところを襲撃され昏倒する。目醒めたとき、ジルは全身に金粉を塗られ、窒息死していた。
ボンドの所属するMI6は、ゴールドフィンガーが大量に集めている金塊をどのように密輸しているのか調査するために、旧ナチスが海に沈めた金塊、という餌を用意した。ボンドはゴルフ場でゴールドフィンガーに接触、回収した金塊の一部と称した延べ棒をそっと見せつけて相手の関心を惹くと、駐車場で仕掛けた発信器でゴールドフィンガーの行方を追った。
辿り着いた場所はスイス、ジュネーヴ。ボンドは途中、ゴールドフィンガーを狙撃して失敗した女ティリー・ソームズ(タニア・マレット)とともにゴールドフィンガーの追跡を続け、とある工場に辿り着く。
そこでボンドは、ゴールドフィンガーが金塊をロールスロイスのボディに造り替えて密輸していたことを嗅ぎつけるが、どうやら他にも何か大きな計画を動かしているらしいことを感知する。だが、更に探りを入れようとしているとき、ティリーが再びゴールドフィンガーを狙撃しようとした。彼女を止めようとしたボンドだったが、ティリーはゴールドフィンガーの側近オッド・ジョブ(ハロルド坂田)によって殺害され、ボンドは囚われの身となってしまう……
[感想]
代替わりを繰り返し、未だに継続するスパイ・アクション映画シリーズ『007』の基本は、本篇で完成した、と言われている。私は今回初めてきちんと通して鑑賞したが、確かに、このシリーズに求められる面白さ、魅力はほぼすべて詰まっていた。
リアル志向に転じた現在のダニエル・クレイグによるシリーズでも踏襲されているプロローグのインパクトに美しいオープニング、登場しては儚く散っていく美女たち、空想科学的なアイディアによるスパイ道具の数々に、派手なクライマックス。
まだまだボンド作品に未見の残る私には意外だったのだが、こうして観ると、より武骨で生々しくなった、と感じていたダニエル・クレイグが、本篇辺りのショーン・コネリーが演じるボンドの面影をきちんと留めているのだ。伊達男の振るまいや、マニーペニーとの洒落た会話、随所の佇まいに至るまで、ダニエル・クレイグ独自のムードを織りこみつつも踏襲すべきところは受け継いでいる。そこまでしたいくらいに、ショーン・コネリー演じるボンドは確かに魅力的なのだ。
しかし、この作品が未だ最高傑作として挙げられることが多いのは、やはり本当のタイトル・ロールたるゴールドフィンガーの突出した個性ゆえだろう。切れ味のあるアクションを披露するわけでもなく、直接対決で圧倒的な知力をひけらかすわけでもないのに、終始物語をコントロールしている、と思わせてしまう存在感は驚異的だ。
その後、一連の『007』シリーズの影響を受けた作品が多く製作され、発展を遂げてきたからこそ、いまでは随所に粗が認められるのも事実だ。復讐者ティリーの急激すぎる登場もそうだし、3人も“ボンド・ガール”が入れ替わり立ち替わりしてしまうせいで、各個の活躍が乏しいのも気になる。クライマックスの経緯にしても、あまりに運に頼りすぎているせいで少々引っかかるものを感じる。
本篇には有名なミスがひとつある。序盤、ゴールドフィンガーのイカサマを手伝っていたがボンドにほだされ裏切りを犯したジルが、ユニークな手段で処刑される。全身に金粉を塗ると皮膚呼吸が出来ず窒息死する、という趣向だが、実際には皮膚で補う呼吸量はごく僅かで、死に至ることはない。ただ、スタッフ自身がこの殺害方法を信じ切っており、撮影現場に医師を同席させた、というエピソードがあるし、未だに都市伝説的に語られる現象であるため、これを以て欠点とするのはいささか酷であろう。この噂が強固に信じられている一因に本篇が挙げられる、というのも、見方を変えれば、それほどの影響力を備えた作品だったことの証左に他ならない。
かなり運任せであるとは言い条、だからこそ瀬戸際の攻防が繰り返されるクライマックスの興奮は半端ではない。敵方の大胆不敵な作戦に対して、ギリギリで行われる反撃。剣呑なシチュエーションでの決死の攻防がエンディング間際まで続き、気を抜く暇もない。
頭から尻尾までみっちりと実の詰まった、真の娯楽映画である。いつまでも色褪せない、というのはさすがに言い過ぎなのだが、古くなっても魅力そのものに衰えはない。
関連作品:
『薔薇の名前』
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