原題:“A Good Day to Die Hard” / 監督:ジョン・ムーア / 脚本:スキップ・ウッズ、ジェイソン・ケラー / 製作:アレックス・ヤング、ウィク・ゴッドフリー / 製作総指揮:トム・カーノウスキー、ジェイソン・ケラー、スキップ・ウッズ / 撮影監督:ジョナサン・セラ / プロダクション・デザイナー:ダニエル・T・ドランス / 編集:ダン・ジマーマン,A.C.E. / 衣装:ボヤナ・ニキトヴィッチ / 音楽:マルコ・ベルトラミ / 出演:ブルース・ウィリス、ジェイ・コートニー、セバスチャン・コッホ、ラシャ・ブコヴィッチ、コール・ハウザー、ユーリヤ・スニギル、メアリー・エリザベス・ウィンステッド / 配給:20世紀フォックス
2012年アメリカ作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2013年2月14日日本公開
公式サイト : http://www.foxmovies.jp/diehard-lastday/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2013/02/14)
[粗筋]
ジョン・マクレーン(ブルース・ウィリス)は、同僚に頼んでいた調査の結果に衝撃を受ける。この3年ほど音信不通だった息子ジャック(ジェイ・コートニー)は現在、ロシアで殺人犯として捕らわれ、裁判を待つ身なのだという。
事情が解らず、救い出すための方策などまったくあてがなかったが、それでもマクレーンはロシアへと飛んだ。先んじて政治犯として逮捕され、ジャックの起訴された事件にも関わっているとみられるコマロフ(セバスチャン・コッホ)とともに裁判所に連行される我が子の姿を、マクレーンは遠巻きに見守るしかなかった。
裁判が始まって間もなく、非常事態が発生する。法廷の外で乗用車が爆発、その影響で法廷内部は大混乱に陥る。そんななか、ジャックがコマロフを伴い、裁判所から脱出した。近くにあった車を奪い、すぐさまその場を離れようとしたが、その車を遮るように、ひとりの男が飛び出してきた――マクレーンである。
何をしていたんだ、どういうつもりだ、と問い詰めるマクレーンに、息子は銃を突きつけた。やがて、現れた装甲車から逃げるために、マクレーンを置き去りにジャックは車を発進させる。
黙って見送るほど、この親父は殊勝ではない。自分も車を強奪すると、カーチェイスに飛び入りした――!
[感想]
アクション映画史にその名を轟かせるシリーズも、誕生から随分と経過した。久々の登場となった前作では娘にスポットライトが当てられ、今回は遂に息子の登板、しかも舞台はロシアに移った。アメリカ全土をも巻き込んだマクレーン刑事の不運が、とうとう国外にまで飛び火した、という趣である。
もともとシリーズ化を想定していなかった作品の続篇、というのは得てして評価が下がりがちだ。このシリーズも御多分に漏れず、1作目の緊張感を凌駕することは出来ていない、というのが定評で、前作はアクション部分の不整合まで槍玉に挙げられていた。
ただ、こういうヒットがある程度確約された大作、というのは、もちろんストーリーの質が高ければ言うことはないが、それ以上に、大きな予算をかけやすく、それだけ派手なアクションが期待できる、という魅力こそ優先されるべきだ、と個人的には思う。本物の車が宙を舞い、建物が銃撃で蜂の巣に変貌し、間近でヘリが爆発するヴィジュアルなど、生ではもちろん、実写でそうそう拝むことの出来ない絵を見せてこそ、の大作で、小綺麗にまとまってしまえばそれはそれで批判を免れ得まい。
であるからして、お披露目された映像の迫力が充分だった本篇に、私としては満足……なのだけど、しかしそれにしてもストーリーについて、もっと推敲は出来なかったのか、とさすがに苦言を呈したくなる。
アウトラインが安易なのはまあいいとしよう。変に思想を絡めたり、複雑なドンデン返しが仕掛けられていると、どれほどド派手なアクションを盛り込まれても虚心に楽しめない、という弊害を背負い込む危険もあるので、匙加減として間違ってはいない。
だが、如何せん本篇で描かれる計画には、あまりに無理がありすぎる。力押しなのは致し方ないとしても、それで想定通りに事態をコントロール出来る、という保証がまったくないような計画を揃いも揃って遂行しているのはさすがに不自然だろう。百歩譲って、誰もがとことん力任せで押し進めようとしていたのを許容したとしても、重要な人物が任務遂行のために隠さねばならない情報をああも安易に露呈しているのはまずすぎる。もしかしたら意味があったのかも知れないが、そうなら説明のひとつもあって然るべきだ。終盤で明かされるサプライズも、流れから想像出来る一方で、あそこまで凝った手段を用いる必然性がなく、その時点では驚かされても、あとあと釈然としなくなる。いくらアクション映画にとって、複雑なプロットが足を引っ張る要因になりかねない、とは言っても、本篇の匙加減は全般にマイナスに働いている。
……と、突っこむとキリがないのだが、しかし前述した通り、私自身は言うほどに不満を抱いていない。プロットは雑であっても、その分、アクションの迫力や描き方は優秀だ。渋滞する道路を、車の上を利用して走り抜け破壊しまくるかと思えば、弾幕に晒されるビルの窓を突き破って脱出を試みる。乱暴すぎて現実にはうまく行くとは思えないが、だからこそ興奮させられる。
そして、そういう強引極まるアクションを、「こいつならやりかねない」と思わせてしまうジョン・マクレーン刑事の力強いキャラクター性は健在だ。あちこちで自らの境遇を愚痴り、同時に苦境であえて軽口を放って見事に事態を好転させてしまうタフさ。シリーズを通して変わることのないこの主人公の魅力を、本篇はきっちり押さえている。完全に“似た者親子”であるジャックの存在が、いっそうこの人物像の面白さを引き出していることも確かだ。
監督のジョン・ムーアは長篇映画デビューとなる『エネミー・ライン』で、墜落のシークエンスを大量のカット割りでスピード感充分に描き出し、いきなり存在感を示した人物だが、本篇においてもその冴えは窺える。秀逸なのは序盤のカーチェイスと、やはりクライマックスのあの場面であろう。流れとしては強引ながら、いちど観たら忘れがたい。
第1作の備えていた、驚異的な語り口の巧さまで求めるひとには、今回も応えられていない、というのが正直なところだ。しかし、大作映画ならではの醍醐味と、マクレーン刑事という、たぶん映画史にずっとその名を刻むであろう名キャラクターの魅力は存分に堪能させてくれたのだから、やっぱり私には満足のいく1本だった。似たようなスタンスでいるかたなら、きっと劇場に足を運んで損はしないはずである。
関連作品:
『エネミー・ライン』
『オーメン』
『マックス・ペイン』
『アウトロー』
『アンノウン』
『地獄の変異』
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