原題:“The African Queen” / 原作:C・S・フォレスター / 監督:ジョン・ヒューストン / 脚本:ジョン・ヒューストン、ジェームズ・アギー / 製作:S・P・イーグル / 撮影監督:ジャック・カーディフ,A.S.C. / 美術:ウィルフレッド・シングルトン / 編集:ラルフ・ケンプレン / 視覚効果:クリフ・リチャードソン / 録音:ジョン・W・ミッチェル / 音楽:アラン・グレイ / 演奏:ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ / 出演:ハンフリー・ボガート、キャサリン・ヘプバーン、ロバート・モーレイ、ピーター・ブル、セオドア・バイケル、ウォルター・ゴテル、ジェラルド・オン、ピーター・スワンウィック、リチャード・マーナー / ロミュラス−ホライゾン製作 / 配給:BCFC=NCC / 映像ソフト発売元:Art Station、JVCなど
1951年イギリス作品 / 上映時間:1時間45分 / 日本語字幕:?
1952年8月12日日本公開
第三回新・午前十時の映画祭(2015/04/〜2016/03/開催)上映作品
2011年10月21日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|[DVD Video廉価版:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
DVD Videoにて初見(2013/02/22)
[粗筋]
1914年、ドイツ領となっていた東アフリカのコンゴ。
この地に宣教師として赴任していたサミュエル・セイヤー(バート・モーレイ)だったが、折しも第一次世界大戦が始まり、ドイツ軍は物資や労働力を徴発するため、サミュエルの暮らす集落を襲撃する。無惨な光景にサミュエルはショックを受け、間もなく死亡した。
サミュエルに同行していた妹のローズ(キャサリン・ヘプバーン)は、郵便物などを届けに定期的にこの地を訪れており、様子を見に来たチャーリー・オルナット(ハンフリー・ボガート)の船“アフリカの女王”に乗せてもらい、この地を離れる。早急に安全な場所に赴くつもりだったチャーリーに対し、しかしローズはとんでもないことを提案した。
川を下った先に、ドイツ軍の砲艦“ルイザ”が碇泊しているという。イギリス人のひとりとして、そして兄の敵を討つために、ローズは“アフリカの女王”を魚雷として用い、“ルイザ”を沈める、というのだ。
はじめは難色を示していたものの、ローズの強気な態度に根負けして、チャーリーはこの提案を呑む。かくて、ひとりの貴婦人と、武骨な船乗りとの、奇妙な旅路が始まった――
[感想]
ハンフリー・ボガートがアカデミー賞主演男優賞に輝いた冒険映画である……が、いまこのフレーズから想像されるものとはちょっと味わいが違う。
舞台はアフリカ、いちおうは現地での撮影も行われているようだが、ほとんどが小さな船の上でのやり取りということもあってか、どうやらかなりの場面がスタジオで撮影の上合成されている。その、作り物故の空間の狭さが、昨今の膨大な制作費と優れた技術によって再現された壮大な映像、物語と比較すると、どうにも寂しく感じられる。
また、普通に考えてかなり過酷な状況にも拘わらず、主演ふたりのやり取りが全般に暢気なくらい洒落ているのも気になる。当初、メイン2人の主張の違いを考慮しても、いま同じ物語を描いたとしたら、恐らくもっと緊迫したシーンが多くなったことだろう。そして、その緊迫感を維持することで、結末のカタルシスを演出する工夫をするのではなかろうか。
だが、こういう写実性をあまり意識せず、しかし紆余曲折はしっかり取り込んでいるあたりに、如何にも古典的なエンタテインメントの匂いが感じられる。
リアリティには乏しいが、メイン2人のやり取りは終始洒脱だ。最初の、体面こそ繕っているが住む世界が違っているのは明らかなぎこちない会話。一緒に旅を始めてからの、ローズの現実離れした提案に翻弄されるチャーリーの戸惑い。それでも基本的に芯の通った言動をする彼女と、度重なる困難をともに乗り越えることで結ばれていく、という、ロマンスの定石を踏まえた展開もまた、人物像が堅固だからこそ心地好い。
まともに口を聞く人物も少なく、ほとんど船の上の模様だけ描かれているのに、きちんと話に起伏が豊富なのも見事だ。両者の会話や、名前のわりにやたらオンボロな船の動き、そして川を下るごとに現れる変化や障害。いまの眼で鑑賞すると写実性の面でかなり物足りないとは言い条、話を追うごとにどんどん薄汚れていくふたりの姿や打ち解けていく会話に説得力が備わる。
そして、結末もなかなかに効いている。こんなにうまくことが運ぶか、という気もするが、しかしあり得ないように思えるからこそカタルシスも大きい。絵に描いたような大団円は、それこそエンタテインメントの王道の証と言えよう。
昨今の優れた映像、洗練された物語にばかり接していると、どうにも幼稚に見えてしまうのは否めないが、しかし往時のエンタテインメントの方程式をきちんと押さえ、その魅力を存分に活かした良作であるのはいまでもはっきりと伝わる。
関連作品:
『カサブランカ』
『麗しのサブリナ』
『レッド・バロン』
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