原題:“Jack the Giant Slayer” / 監督:ブライアン・シンガー / 原案:ダーレン・レムケ、デヴィッド・ドブキン / 脚本:ダーレン・レムケ、クリストファー・マックァリー、ダン・スタッドニー / 製作:ニール・H・モリッツ、デヴィッド・ドブキン、ブライアン・シンガー、パトリック・マコーミック、オリ・マーマー / 製作総指揮:トーマス・タル、ジョン・ジャシュニ、アレックス・ガルシア、トビー・エメリッヒ、リチャード・ブレナー、マイケル・ディスコ、ジョン・リカード / 撮影監督:ニュートン・トーマス・サイジェル,ASC / プロダクション・デザイナー:ギャヴィン・ボケット / 編集:ジョン・オットマン,A.C.E.、ボブ・ダクセイ / 衣装:ジョアンナ・ジョンストン / 音楽:ジョン・オットマン / 出演:ニコラス・ホルト、エレノア・トムリンソン、スタンリー・トゥッチ、イアン・マクシェーン、ビル・ナイ、ユアン・マクレガー、ユエン・ブレムナー、エディ・サーマン、クリストファー・シェアバンク、サイモン・ロウ、ラルフ・ブラウン、ジョイ・マクブリン、リー・ボードマン、ベン・ダニエルズ / オリジナル・フィルム/ビッグ・キッド・ピクチャーズ/バッド・ハット・ハリー製作 / 配給:Warner Bros.
2013年アメリカ作品 / 上映時間:1時間54分 / 日本語字幕:岸田恵子
2013年3月22日日本公開
公式サイト : http://www.jack-kyojin.jp/
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2013/04/06)
[粗筋]
かつて、ひと粒の不思議な豆が、国を危機に陥れたことがあった。またたく間に成長するその豆の木は、天空にあった巨人の国にまで到達し、巨人に人間の味を覚えさせてしまう。しかし、のちに国王となるエリックの機転により豆の木は切り倒され、無事に国は平穏を取り戻すことが出来た。
それは単なる伝説、お伽噺だと、既にひとびとはそう捉えていた。幼い頃、この物語を盛んに話し聞かせてくれた父を喪い、叔父のもとに引き取られて育ったジャック(ニコラス・ホルト)も同様だったが、しかしそんな父の影響により、ジャックは人一倍、冒険に憧れるようになっていた――実際は生活に追われ、愛馬さえ手放さねばならないほど窮して、それどころではないのだけれど。
城下町まで愛馬を売りに行ったジャックだったが、ちょうどその折、何らかの事件があったようで、城門が閉鎖されてしまった。戸惑っている彼に、挙動不審な修道士が、法外な高値で愛馬を引き取る、と提案してきた。しかし、現在手持ちがないので、これを後日、修道院に届けてくれれば金を渡す、と言われて預けられたのは、小さな巾着に入れられた、奇妙な種。間違いなく貴重なものだ、と保証したあと、修道士はこう念を押して、馬に跨がり去っていった。「決して水に濡らすな」と。
その晩、叔父はジャックが騙された、と言い、ずっと手をつけずにいた父の形見を売り払うために出かけていった。やがて大雨が降り始めたとき、ひとりの来客がジャックの家の玄関を叩く。急な雨に難儀しているので雨宿りさせて欲しい、と頼むその人物は、あろうことか、昼間に訪れた城下町で偶然に出逢った、国王の娘イザベル(エレノア・トムリンソン)だった。
貴族、とりわけ国王の娘と農民の子が親しく話すことなどあるはずもなく、最初は身構えた会話を交わしていたふたりだったが、どちらも幼少時に聞いた豆の木の物語のために冒険に憧れて育った共通点で意気投合する。それからイザベルが、昼間の出来事をジャックに感謝していたとき、突如として異変は起こった。
家が激しく振動し、床下が裂け、何かが家を貫いて空へと伸びていく。遂には家を巻き込んで空を目指し成長する巨大な樹からイザベルを救出しようと努力したジャックだったが、あえなく転落してしまう……
[感想]
実は私、ブライアン・シンガーという監督は、基本的にあまり上手くない、と思っている。『ユージュアル・サスペクツ』や『ワルキューレ』など、サスペンス色の強い作品には合っているが、それ以外のジャンルでは全般に生真面目な硬さが邪魔をして、突き抜けきれない傾向にある、と感じている。それが比較的うまく噛み合った『X−MEN』はともかく、『スーパーマン・リターンズ』はこの傾向が邪魔をして、堅実には作られているが弾けきれず失敗に終わってしまったのではなかろうか。だから、シンガー監督が初めてファンタジー、それも3D方式を採用した作品に臨む、と聞いたとき、私はどちらかと言うと不安を覚えていた。
観てみると、これが思っていた以上に出来がいい。少なくとも、私が心配していたような、監督の持つ生真面目さが、作品の仕上がりに悪い影響を及ぼす、という結果にはならず、むしろいい効果を上げていたようだ。
もともと、この作品のベースとなった『ジャックと豆の木』は、長篇映画の題材にするにはあっさりした内容だ。実際にはもっと細々と描写されているのかも知れないが、大筋はシンプルで起伏に乏しい。同じ話を長篇映画にすると、よほど多くの潤色や別要素を加えねばならず、かなり歪な代物になってしまう危険もある。
そこを本篇は、オリジナルを世界観の土台にするに留め、“ひと晩で空高くまで伸びる樹の種子”、“天空に存在する巨人の国”といった部分を敷衍して、独自に、長尺の冒険物語として成立するように細かな工夫を施している。
巧いのは、過剰に子供向けに特化することなく、大人でも納得できるだけの整合性や伏線を用意していることだ。農民であるジャックと王女であるイザベルのあいだに芽生えたほのかな感情と、ふたりの階級差が生み出すドラマを、決して過剰に盛り込みすぎることなく丁寧に処理し、そのなかに後半で鍵を握る要素をきちんとちりばめる。モチーフそのものはありがちだが、終盤に幾度も展開をひねり、ハラハラドキドキに繋げていく手管はなかなかに洗練されている。
気になることと言えば、空にあれだけ巨大な陸地が、どうやらまったく動くことなく居座っているのに、下界では陽の射さない一画があったり、といった問題が生じていないことが不思議だし、そもそもどうやって宙に浮いているのか、という点に言及していないことが挙げられるが、これはむしろあえて触れていないほうが正解だろう。理由を突き詰めてしまうのは無粋だし、却って焦点がぶれる。そこに至る過程と、有機的に繋がる冒険の盛り上げ方が堂に入っているので、この点を批判するのは見当違いだ。
また、ただ単に冒険を描くだけでなく、適度なユーモアを随所に盛り込んでいるのも好感が持てる。ジャックとイザベルが出逢うくだりもちょっとコミカルだし、天空で消息を断ったイザベルを捜すため樹を登り始めた精鋭に、志願したジャックが随行するのだが、序盤の頼りなさをいい匙加減で笑いにして、緊張を孕みつつも愉しさを演出している。
クライマックスは少々綺麗に収まりすぎている気がするが、しかしそれは、大人ならではの穿ちすぎた見方だろう。伏線からすれば決して無理のない着地であるし、エピローグとして添えられる後日談もつけすぎの手前で留まっている。3Dの効果を活かす巨人や天空の国、豆の木のヴィジュアルの完成度も高く、現実にはあり得ない空想的な世界での冒険を存分に体感できる仕上がりだ。
それでもやはり、ある意味教科書的な端整さのある本篇は、ブライアン・シンガーという監督が非常に真面目なひとだ、という点を改めて確信したのだけれど、それがプラスになるのもマイナスになるのも、素材と料理の仕方次第、ということもいまさらながら確信した――一方で、そういう端整さが、どうやら興収に直結しないらしいことも。
関連作品:
『X-MEN2』
『ワルキューレ』
『スノーホワイト』
『マージン・コール』
『タイタンの戦い』
『タイタンの逆襲』
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