『怪談新耳袋殴り込み!<地獄編>【後編】』

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<p>監督:市川力夫、青木勝紀 / プロデューサー:<a class=丹羽多聞アンドリウ、山口幸彦 / ラインプロデューサー:後藤剛 / 撮影:今宮健太 / 編集:佐藤周、青木勝紀 / 音楽:スキャット後藤 / 主題歌:藤田恵名『残響ビュッフェ』 / 出演:ギンティ小林田野辺尚人、市川力夫、青木勝紀、後藤剛、今宮健太、山口幸彦、はち、わらびん、木原浩勝、中山市朗、小塩隆之 / 映像ソフト発売元:BS-TBS、KING RECORDS

2013年日本作品 / 上映時間:1時間57分

2013年7月10日映像ソフト発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://www.nagurikomi.net/

DVD Videoにて初見(2013/07/11)



[粗筋]

 前編最初のミッションでメンバー全員の署名を入れた血判状を手にした現場監督・市川力夫は、これまでの軽輩扱いの恨みを晴らすかのように壮絶なミッションを用意、自分まで含めた新耳Gメンたちを恐怖の坩堝に叩きこんだ。

 裸の女の霊が出没する、という特異な噂が広まっているロープウェイの廃墟で、初期を彷彿とさせるジゴロ風ミッションに挑んだあと、新耳Gメンたちは好評を博したニコニコ生放送を利用した殴り込み生中継に臨む。

 まだ怪談には早い春先に4回連続で心霊スポットへの殴り込みを敢行する、という無謀な試みの第1回に選ばれたのは、怪現象が連続するために空きテナントが大量に発生しているビル。ここでのミッションの数々は、ニコニコ生放送の視聴者と息の合ったやり取りが成立したことも幸いし、前回以上の好評を得た。

 これに気をよくしたGメンたちは、さらにハードコアなミッションに挑む。昭和史に残る凶悪な事件の舞台となったトンネルで現場監督・力夫が提案したのは、単純だがあまりに壮絶な“肝試し”であった……。

[感想]

 この『怪談新耳袋殴り込み!』は、未だにプロローグで用いられている通り、もともと実話怪談本『新耳袋』のなかで舞台となっている怪奇スポットを訪れたい、あわよくば怪現象に遭遇し、それを記録に留めたい、というところから始まっている。だが、回数を重ねるにつれ、訪れることの出来る場所が減っていき、次第にスタッフが自らの情報網で発見したスポットを対象にすることが増えた。

 ある意味天晴れな、しかし常識的に考えてバカバカしい気合の入れようが、ニコニコ生放送での記録的な観客数を叩き出し、今日までシリーズの命脈を繋ぐ力となっていったのは確かなのだが、その一方で、怖さをどんどん失わせていったように思える。無茶苦茶なミッションがGメンたちに与える恐怖よりも、客観的な滑稽さを膨らませる傾向に進んでいる、という点も大きいのだが、それ以上にネックとなっているのが、訪れるスポット固有のエピソードが少なくなっていることではないか、と今回不意に気づいた。

 このシリーズにおいて、怪現象を招くためにメンバーたちが行っているのは、基本的にその場にいるかも知れないものに対する“挑発”だ。旧作から引用すると、伝説的な怪奇映像が撮影されたK観光ホテルでは、撮影された女の霊に対して「もっと怪奇現象を起こせ」と要求してみたり、かつて軍隊が雪中行軍で多くの遭難者を出した八甲田山では、軍隊調の命令で霊を呼び出そうと試みた。本篇で言えば冒頭のロープウェイ廃墟、全裸の女の霊が出没する、という話が広まっているなら、その霊に対して求婚する、というかたちで挑発している。

 だが、こうした“挑発”は、それぞれのスポットに存在するエピソードや、現れると言われる霊や怪現象に明確な背景がある場合に初めて活きてくる。新耳Gメンたちが見つけてくる新しいスポットは、全般にこの背景が薄く、作中での掘り下げが少々甘いので、挑発する、という行為が導き出す具体的なものが想像出来ないので、いまひとつ怖さに結びつかないのだ。

 無論、何も背景がない、ただ怖そうなスポットを訪れているわけではないから、それぞれに背景はあるのだが、体験談から怪のエッセンスを抽出する達人である『新耳袋』の著者らのフィルターを通していないから、背景がぼんやりとしていたり、都市伝説の域を出ないものが増えてしまい、結果として挑発行為とのリンクも曖昧になってしまった。やっちゃいけないことだろう、というイメージが充分に湧かないので、観ている側がGメンたちと恐怖をいまひとつ共有しにくく、怖さが伝わりにくくなってきた。いい年をしたおっさんたちが、子供じみた馬鹿げた行為に大真面目で挑むさまはそれ自体、観ていて笑えるのだが、『新耳袋』という、国産ホラー映画にも影響を与えた書籍に端を発しているのだから、もうひと匙、恐怖を添えて欲しい、というのが正直なところなのである。

 その意味ではこの<地獄編>もいまひとつ食い足りない、と言えるのだが――しかしその一方で、本篇はしかし、レベルが上がっている、と感じる。ここまでに述べたような、背景があるからこそ有効と感じ、やっていることに恐怖を覚える挑発にはなっていないのだが、しかし選んでいるミッションがそれ自体、かなりえげつないものになっているので、怖さを共有できるかはともかく、出演者たちが恐怖を味わっていることは理解できる。特にこの『<地獄編>【後編】』のトンネルでの試みは、トンネルに存在する曰くとは離れたところで、やっていること自体がおぞましい――最終的に悪ふざけに帰結してしまうとはいえ、“洒落になっていない”感はいままで以上だ。その中でもトリに持ってきた廃病院のエピソードが怖いのは、『新耳袋』のパターンに収まらない異様な背景と、新耳Gメンたちの試みた挑発とが完璧に噛み合い、しかもミッション自体が洒落にならない代物なので、とことん笑えて、しかも怖い。

 映像というかたちでの怪異がほとんど見いだせず、相変わらず音声ばかりなのが残念だが、遊女の霊が留まるといわれる淵で発生したような不可解な現象を収めることが出来たのは収穫と呼ぶべきだろう――ただ、この淵での現象については、個人的に半分ほどは論理的な解釈が可能だ、と思ったのだが、それでも珍しい状況を記録できたのは疑いない。

 このところ、毎年のように監督がバトンタッチして、態勢がいまひとつ定まらないのが心配だったのだが、いままでずっとこの企画に関わってきた市川力夫&青木勝紀というふたりが指揮に就いたことで、彼らが築きあげてきた魅力……というより“芸風”といったほうが相応しい気もするが、それが先鋭化するかたちで完成度を高めている。あいにく本篇では、ニコニコ生放送で好評を博しながらも、どちらかと言えば怖さよりもクレイジーな笑いばかりが際立ち怖さを抽出できなかったパートがあったりするが(こやこれはこれで面白いんだけど)、このスタイルを突き詰めていけば、恐怖と笑いが渾然となった作品に昇華するか、そもそもの目的であった、とびっきりの怪奇映像の収穫にいずれは成功してくれそうな期待が持てる。まだ本篇ではその境地に達していないものの、本篇のラストで予告され、スタッフが強い手応えを感じたらしい、次なる劇場版<魔界編>では、よりクレイジーなものを見せてくれるのではなかろうか。

 ――と過剰なプレッシャーを今のうちにかけて、もし<魔界編>が物足りない出来だった場合、さらに酷い目に遭っていただくべく仕向けるのが、たぶん初期から彼らの活動を見守ってきた者の使命だと思うので少々気合を入れて書いてしまった次第。基本的にバカバカしい代物であることは従来通りなので、旧作が肌に合わなかった、そもそも純粋に恐怖を求め、刻まれた悲劇や歴史に敬意を払うべきだ、と考える生真面目な方には相変わらず向かない作品ゆえ、避けていただくよう申し添えておきたい。

関連作品:

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