原題:“Raiders of the Lost Ark” / 監督:スティーヴン・スピルバーグ / 原案:ジョージ・ルーカス、フィリップ・カウフマン / 脚本:ローレンス・カスダン / 製作:フランク・マーシャル / 製作総指揮:ジョージ・ルーカス、ハワード・カザンジャン / 撮影監督:ダグラス・スローカム / プロダクション・デザイナー:ノーマン・レイノルズ / 特撮:リチャード・エドランド、キット・ウェスト、ILM / 編集:マイケル・カーン / 音楽:ジョン・ウィリアムズ / 出演:ハリソン・フォード、カレン・アレン、ウォルフ・カーラー、ポール・フリーマン、ロナルド・レイシー、ジョン・リス=デイヴィス、デンホルム・エリオット、アルフレッド・モリーナ、アンソニー・ヒギンズ / 配給:パラマウント×CIC / 映像ソフト発売元:Paramount Japan
1981年アメリカ作品 / 上映時間:1時間55分 / 日本語字幕:戸田奈津子
1981年12月5日日本公開
2013年12月20日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
第1回新・午前十時の映画祭(2013/04/06〜2014/03/21開催)上映作品
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2014/01/03)
[粗筋]
時は1936年。大学で教鞭を執る傍ら、各地の移籍に赴き、隠された財宝を蒐集しているインディ・ジョーンズ博士(ハリソン・フォード)のもとを、政府の関係者が訪れた。アメリカ軍がナチスの台頭するドイツの通信を探っていたところ、“合衆国 レイヴンウッド”という語が見つかり、ジョーンズ博士の師匠であるレイヴンウッドとの関連が疑われたのだ。ジョーンズ博士は、その通信文の内容から、どうやらナチスは聖書に綴られている、神秘の力を宿した石碑を封印した“聖櫃”の行方を捜している、と察したジョーンズは、ナチスの陰謀を阻止するため、自ら調査に赴くことにした。
向かったのはネパール。レイヴンウッド博士の娘で、かつてジョーンズ博士と恋仲だったこともあるマリオン(カレン・アレン)が、発掘旅行で訪れたこの地に居を構えていたのだ。そこで初めて、レイヴンウッド博士が既に亡くなっていたことを知る。“聖櫃”の在処を探る手がかりとなるメダルはマリオンのもとにあったが、ジョーンズ博士のあとを追跡していたナチスの使者に襲撃され、危うく奪われそうになる。
ジョーンズ博士の機転により、辛うじてマリオンは危機を脱した。ジョーンズ博士は彼女をパートナーとして、“聖櫃”が埋もれていると考えられるエジプトへと飛ぶ……
[感想]
2003年に『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズが始まったことで若干新風が吹きこんだが、それ以前は冒険映画といえばこれ、というくらい、唯一無二の代名詞に等しい存在だったのが、本篇に始まる“インディ・ジョーンズ”シリーズである。1980年代に3作が発表されたのち沈黙していたが、2008年に久々に最新作が公開されている。
このシリーズがここまで定番に成長したのは、冒険映画としての定石を完成させたことが大きいように思われる。秘められた超古代文明の遺跡を探索する、というロマンに、そこに仕掛けられた罠を乗り越え、同じ秘宝を求めるライヴァルたちとの争奪戦といったサスペンスを巧みに組み込む。これらも決して本篇から始まったものではないが、絶妙な匙加減に加え、スティーヴン・スピルバーグとジョージ・ルーカスという、この頃注目されていた才能ふたりが王道の作品に取り組み、この完成度に高めたことで、一気に定番となったのだろう。
それでもいまの基準で眺めると、登場人物の配置や動きに物足りなさがあるのは否めない。なかなか印象的な登場のわりに、終始謎の立ち位置だったヒロイン・マリオンもそうだが、怪しげで危険な雰囲気を漂わせるくせに実は最後まで何もしていないキャラがいたりする。他方で、こういう展開をするなら、あの人物が裏切っているか、その点を疑う人がいるべきでは、というポイントをまったく無視していたりする。インディ・ジョーンズという主人公が最初から切れ者として描かれているので、この程度のことが見抜けないのか、と感じる場面が多いのは少々問題だろう。
しかし、本篇が冒険映画として、格別の地位を与えられた理由は、むしろそのアクションや流血表現の斬新さにこそあったのではないか、と私は感じた。
今でこそ、かなりえげつない表現も、高いレーティングの許に行われるのが珍しくなくなったが、本篇のように大胆に採り入れた作品はまだそうは多くなかったはずだ。慣れた目で鑑賞しても、罠にかかった犠牲者たちの骸の生々しさや、クライマックスで披露されるヴィジュアルには衝撃がある。
アクションパートの趣向も、突飛ではあるが見た目のインパクトは強烈だ。操縦者を失ってゆっくりと旋回する戦闘機の周囲で繰り広げられる格闘に、走行するトラックを舞台とした駆け引き、このふた幕の奇想天外、かつ容赦のないアクション描写は、近年でも似たような趣向が繰り返し用いられているほどだ。そして、それほど模倣されているにも拘わらず、いま観ても決して見劣りがしない。
前述したストーリーの不自然さにしても、本篇は観客が予測するであろうポイントを意識的に避けているからこそ生じている、と考えられる。こういう立場で出て来た人物は裏切るだろう、これほど魅力的な立ち回りをするなら、何らかの重要な役割を担うはずだ。そして主人公はこういうかたちで目覚ましく活躍するに違いない――そんな有り体な想像は、ほぼすべて覆される。それ故、若干の失望も味わう可能性はあるが、しかし最後までハラハラドキドキは止まらない。また、こちらの予想を上回る事態に発展するからこそ、インディやライヴァルたちが考古学に惹きつけられる心情も理解できる。
そうした驚きや衝撃を、本篇は程良いユーモアで包み、魅力的に彩ってみせる。エピローグでさえも、観ている者を驚かせる趣向をちょっと盛り込んでいて、最後まで抜かりがない。
ストーリー的なことを言えば、同じスピルバーグがのちに手懸けた『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』のほうが遥かに洗練されている。アクションシーンだって、同じくらいにインパクトのある趣向を更にたくさんちりばめた作品が登場している。しかし、その魅力の引き出し方を完成させた、という意味で、やはり本篇は未だに冒険映画の金字塔と呼んでよさそうだ。
関連作品:
『スター・ウォーズ episode I/ファントム・メナス 3D』
『ライトスタッフ』
『魔法使いの弟子』
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