『2001年宇宙の旅』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、エスカレーター下の案内ポスター。 2001年宇宙の旅 [Blu-ray]

原題:“2001 : A Space Odyssey” / 原作:アーサー・C・クラーク / 監督&製作:スタンリー・キューブリック / 脚本:スタンリー・キューブリックアーサー・C・クラーク / 撮影監督:ジェフリー・アンスワース、ジョン・オルコット / プロダクション・デザイナー:アーネスト・アーチャー、ハリー・ラング、アンソニー・マスターズ / 衣裳:ハーディ・エイミーズ / 特撮:ダグラス・トランブル、ウォーリー・ヴィーヴァーズ、コン・ペダーソン、トム・ハワード / 特殊メイク:スチュアート・フリーボーン / 編集:レイ・ラヴジョイ / 音楽:ジョルジ・リゲティリヒャルト・シュトラウス / 出演:ケア・デュリアゲイリー・ロックウッドウィリアム・シルヴェスター、ダニエル・リクター、レナード・ロシターマーガレット・タイザック、ロバート・ビーティ、ショーン・サリヴァン、アラン・ギフォード、アン・ギリス、エド・ビショップ、ケヴィン・スコット / 声の出演:ダグラス・レイン / 配給:MGM / 映像ソフト発売元:Warner Home Video

1968年アメリカ、イギリス合作 / 上映時間:2時間19分 / 日本語字幕:木原たけし

1968年4月11日日本公開

2010年4月21日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

第1回新・午前十時の映画祭(2013/04/06〜2014/03/21開催)上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2014/01/22)



[粗筋]

 人類が月にコミュニティを建造し、宇宙旅行が現実のものとなった時代。

 ヘイウッド・フロイド博士(ウィリアム・シルヴェスター)は極秘の使命を帯びて、オリオン号に搭乗した。月への中継点である宇宙ステーション5には、旧知のスミスロフ(レナード・ロシター)らがいて、月のコロニーについて広まる怪しい噂について、フロイドに不安を漏らす。

 立場上、フロイドはいっさい口をつぐんでいたが、月では驚くべきものが発見されていた。さながら人工物のように、整った形状の石柱である。現地評議会の面々と共にフロイド博士が調査に訪れると、それは異様な反応を示した――

 その18ヶ月後、宇宙船ディスカバリー号木星への長い旅路に就いた。現地での調査に携わる3名は冬眠状態で待機し、デイヴ・ボーマン船長(ケア・デュリア)とフランク・プール宇宙飛行士(ゲイリー・ロックウッド)のふたりが、人工知能HAL9000”(ダグラス・レイン)とともに航行に携わっている。一見、経過は順調に思われたが、HALは突如として通信用ユニットに不具合が生じ、放置すれば72時間以内に故障する、と言い出した。さっそくふたりは船外活動用カプセルで修理に赴くが、回収したユニットに異常はなかった。デイヴたちは、HALにこそ問題が生じている、と考え、HALの回線を切ることを目論むが……

[感想]

 如何せん、46年も昔の作品である。描写にいちいち古臭さや、現在の宇宙開発についての知識との乖離が随所に見られるのは致し方のないところだ。

 だが、そうした制約のなかで、緻密に考証を施し、発想を膨らませ、極限まで本物らしさを突き詰めたことは、充分に窺える。宇宙ステーションに赴く船内は当然無重力状態なので、手から離れたペンは宙に踊り、アテンダントは床面をしっかりと掴むブーツを履いて活動している。無重力状態を解消するために、船体の内部は周回運動をしており、設備は円形に配置され、狭い構内は頭上にデスクや機材が見えたりする。なまじ本物の宇宙ステーションが存在していて、その映像に触れる機会の多い現代の人間だと却って想像しづらい、しかしいまでも原理としてはあり得る描写が随所に見受けられる。

 翻って、これは正しくない、と思われる描写であっても、これほど奇妙な光景をよく1960年代に撮影した、と驚かされる。アテンダントが作業中の飛行士に食事を運ぶシーンでは、アテンダントが円形になった壁をわざわざ歩いて身体の角度を垂直にし、それから九十度の角度に配置された部屋に移動する、という表現があった。本当に無重力状態なら、こんなまだるっこしい移動はせずに、飛べば一瞬で済む。しかし、この奇妙なヴィジュアルを実現するために払った努力や工夫を思うと、頭の下がる想いがする。そのイマジネーションの飛躍自体は、時代を超越していると言っていいだろう。

 何よりも本篇は、SFとして極めて高い次元を追求している点で図抜けている。“モノリス”と呼ばれる石板の存在が、まず類人猿に知恵をもたらし、そして文明を築いた人類のもとにふたたび現れる。そうして繰り広げられる、およそ想像を絶する映像の数々。ろくすっぽ説明がないので、受け身で観ていると、ただただ訳が解らなくなるだけだが、解釈の幅は広く、そして深い。いちど観ただけで結論を出すのは軽率だ。

 ――とは言い条、あまりに丁寧な考証に基づく描写、奥行きに富んだ表現を、さほど説明もなく淡々と羅列する本篇は、お世辞にも目が冴えるような興奮を与えてはくれない。知的興奮は確かにあるが、それを超える眠気を誘う。もともとそういう評判を耳にしていたので、私も鑑賞する前にコンディションを整えて臨んだのだが、それでも終盤30分は非常に辛く、眠気で一瞬意識が飛んだほどだった。

 それほどに忍耐と思考能力を要求される作品であるだけに、取っつきやすい、とは言い難い。だが、知識に対する誠意と、その本質を突き詰めようとする創意が、時代を超越することを証明した、歴史的名作である。初見では眠くなることは覚悟していただかなければならないだろうが、本物のSF映画に触れたい、語りたい、というなら間違いなく必見の1本だろう。

関連作品:

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