A→E→D。

 先月からずーっと色々物事が遅れきっております。外出も減っているせいで、録音したラジオ番組を聴く機会も減り、お陰で半月前のを今ごろ聴いている始末。仕方がないので、在宅中もBGV代わりに流したりしてます。

 今日聴いていたのは、THE ALFEE坂崎幸之助のK’s Transmission、1月10日付の放送分でした。フォーク時代をベースに日本の歌謡曲を語ったり、多岐に亘る趣味を活かしたトークが中心のこの番組も、正月1発目に録音を挟んで、2度目となるこの放送では、昨年末に急逝した大滝詠一の追悼特集になってました。はっぴいえんど時代からソロ、そして作詞者・松本隆が追悼のコメントで挙げた代表作『さらばシベリア鉄道』まで8曲、締めにははっぴいえんどの『朝』を坂崎自身が弾き語りする、という充実した内容で、聴き終わるなり思わず、採り上げた曲の部分だけぜんぶカットして、トークなしで改めて聴き入ってしまいました。……またよけいな時間を費やしてるよ。

 毎年のようにゲスト出演していた際の会話を流し、その謎めいた横顔に迫っているのが、フォークを中心に交遊が広く含蓄の深い坂崎ならではで、非常に聴き応えのある特集でしたが、個人的にいちばん感銘を受けたのが、『君は天然色』の不思議なアレンジについての話だったりする。

 この曲は冒頭、音合わせのために鳴らしていると思しき、キーボードの音が幾度か聴こえたあとイントロに入り、それから歌が始まるのですが、キーボードが鳴らしているのはAなのに、すぐに入るイントロはE、それが更に歌に入ると1音下がってDになる。あまりにさらっと聴かせているので、坂崎でさえ疑問に思っていなかったようですが、確かに言われてみれば変。

 大滝の説明によると、もともとこの曲はEで作っていた。それは彼がはっぴいえんどの時代に、自分で普通に歌っていたキーを、そのまま歌えるつもりで採用したものの、いざ歌を録る段になって、このキーではサビが歌えない、と気がついた。しかし既に伴奏は収録していて、もういちどミュージシャンを集めて録り直すとお金がかかる。エンジニアでもある大滝はそこで、ハーモナイザーという機械で歌の部分だけキーを下げたんだそうです。だから、イントロと間奏だけはEに戻して、歌はDに合わせてあるんだとか。

 坂崎は、その説明でも納得がいっていない様子でした。言動に謎が多く、どうも韜晦癖らしきものがあった大滝は、そんな風に説明しているだけで、実際にはアレンジの時点でイントロはE、伴奏はDに作ってあったのかも知れない、と。

 私もこの説明は鵜呑みには出来ない。というのも、実際音に敏感なひとならこの転調には気づくはずですから、伴奏の部分だけ音程を下げるなら、全体を下げてしまったほうがいい。イントロと間奏だけ音程を戻したのは、そのほうが旋律が引き立つ、といった計算がありそうな気がします。でもそういう打算は、説明していて賢しらに聴こえてしまうので、失敗談のように装ったのかも。

 いずれにしても、大滝詠一というひとが如何に謎めいていて、魅力的なクリエイターであったのか、を非常に鮮やかに伝える、いい特集でありました。今年は初っぱなに見出しでこの曲を採り上げていて、まだひと月も経ってませんが、もういちど引用しておこう。

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