『リミッツ・オブ・コントロール』

リミッツ・オブ・コントロール スペシャル・エディション [DVD]

原題:“The Limits of Control” / 監督&脚本:ジム・ジャームッシュ / 製作:ステイシー・スミス、グレッチェン・マッゴーワン / 製作総指揮:ジョン・キリク / 撮影監督:クリストファー・ドイル / プロダクション・デザイナー:エウヘニオ・カバイェーロ / 編集:ジェイ・ラビノウィッツ / 衣装:ビナ・デグレ / 音楽:ボリス / 出演:イザック・ド・バンコレ、アレックス・デスカス、ジャン=フランソワ・ステヴナン、ルイス・トサル、パス・デ・ラ・ウエルタ、ティルダ・スウィントン工藤夕貴ジョン・ハートガエル・ガルシア・ベルナル、ヒアム・アッバスビル・マーレイ、オスカル・ハエナダ / ポイントブランク製作 / 配給:PIX / 映像ソフト発売元:Happinet

2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間55分 / 日本語字幕:? / PG12

2009年9月19日日本公開

2010年11月4日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2014/05/15)



[粗筋]

 空港で、ひとりの男(イザック・ド・バンコレ)が2人組の男から、殺人の依頼を受けていた。標的は、“自分を誰よりも偉大だと信じている男”。手渡されたのは鍵と何かを記したメモ、そして意味深な助言だけ。

 男は飛行機に乗り、スペイン・マドリードに赴いた。現れては去っていく使者たちから託される情報を元に、男は一歩、また一歩と、標的に距離を詰めていく……

[感想]

 観ている途中で、私はてっきり、本篇の男の標的は“観客”なのではないか、と勘繰っていた。さんざん観客を翻弄した挙句、カメラに銃口を向ける、といった展開があるのではないか、と。

 こう書いているからにはもちろん、そんな中途半端に穿った決着ではない。だが、作り手の意図は案外、似たようなところにあるのではないか、と感じた。

 本篇には、万人が納得のいくような背景、プロットを構築できるほどの手懸かりが提示されていない。男はいったい誰を殺害するよう依頼されたのか、何故あんな曖昧な指示でほとんど迷うことなく行動に出られるのか、どうしてあんなに迂遠な手続を踏まなければならなかったのか、一切が謎のままだ。解釈しようと思えば幾らでも出来るに違いないが、恐らく数人で意見を擦り合わせても、統一見解には辿り着かないだろう。

 それを奥行きと捉えるか、ただ思わせぶりなだけ、と切り捨てるか、は個々の自由だ。しかし、そういう“批評”を下した瞬間、私たちは否応なく“自分を誰よりも偉いと信じている”何者かになってしまう。控えめに言っても、そうなる危険を抱えることになる。

 だから、結末で銃口がこちらに向いていなくても、私には同じように思える。本篇の標的は、賢しらに批評を下して他人のイマジネーションにケチをつける評論家気取りの人間であり、その魔手から生還するためには、提示された描写、凝った映像をただ恐縮して受け止める他ない。

 とは言い条、そういう解釈で鑑賞しても、物足りなさを禁じ得ないのが正直なところだ。要素のちりばめ方が肝心で、そのリンクを明確にしてしまえば意図が崩壊してしまうのは確かなのだけど、にしても、もうちょっと敢えて明白な背景や物語が埋め込まれていたほうが、この解釈のうえでの仕上がりもより研ぎ澄まされていたのではなかろうか。

 言うは易し、であり、そんなのは恐らく離れ業に等しい。作り手もそれには自覚的であったはずだ。だから、小手先で陳腐な目的や一貫性を物語に組み込む愚を犯さず、ほとんどを観客の思考に委ねた。それ故に晦渋にも、晦渋を気取っているようにも、作り手の側で思考を放棄しているようにも映る。

 ただ、背景などに意図的に触れていないにせよ、それでもストーリー性を匂わせる、思わせぶりな語り口が非常に練られていることは評価すべきだろう。常に2杯、カップ2つのエスプレッソを一緒に注文する男。人種も言語も異なるが、同じことを繰り返す伝令。どこからともなく侵入して、主人公の心を掻き乱そうと試みているらしき全裸の女。各地を転々とする男の振る舞いに、視界にしばしば入り込む一貫したモチーフが、巧みに謎を演出し、観客を惹きつけてしまう。結果として、「あれはいったい何だったんだ?!」と思うひとも多いだろうが、過程でほとんど関心を逸らすことがないのは、エンタテインメントとしての質の高さを示している。結末でのみ判断するべきではない。

 間違いなく、思索的に組み立てられた作品である。ただ、そういうところに拘ることなく、提示された要素を好きなように弄び、自分なりの解釈を楽しむのが正しい見方だろう――が、いったんここで記したような捉え方をしてしまうと、なかなか想像の翼を羽ばたかせづらいので、こんな文章は読まない方が賢明だったかも知れない。……あれ?

関連作品:

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コメント

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