原題:“From Here to Eternity” / 原作:ジェームズ・ジョーンズ / 監督:フレッド・ジンネマン / 脚本:ダニエル・タラダッシュ / 製作:バディ・アドラー / 撮影監督:バーネット・ガフィ / 美術:キャリー・オデル / 編集:ウィリアム・A・ライオン / 衣裳:ジーン・ルイス / 音楽監督:モリス・W・ストロフ / 作曲:ジョージ・ダニング / 出演:バート・ランカスター、モンゴメリー・クリフト、デボラ・カー、フランク・シナトラ、ドナ・リード、アーネスト・ボーグナイン、フィリップ・オーバー、ジャック・ウォーデン、ミッキー・ショーネシー、クロード・エイキンズ、アルヴィン・サージェント、バーバラ・モリソン / 配給:コロムビア映画 / 映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment
1953年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:?
1953年10月18日日本公開
2013年10月23日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
第2回新・午前十時の映画祭(2014/04/05〜2015/03/20開催)上映作品
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/07/07)
[粗筋]
1941年の夏、ハワイにあるスコフィールド基地。
リー・プルーイット上等兵(モンゴメリー・クリフト)は転属するなり、隊長のホームズ大尉(フィリップ・オーバー)にボクシング部に加わるよう命じられる。プルーイットのかつての試合を目にしており、その実力を高く評価した大尉は、自身の肝煎りのボクシング部に所属させ、軍のトーナメント優勝に一役買わせようとしたのだ。
だがプルーイットはこれを固辞する。彼はかつて、スパーリングの最中にボクシング仲間に重大な怪我を負わせており、以来二度とリングには上がらない、と決意していた。
はじめから態度を明瞭にしたプルーイットに対し、ホームズ大尉とボクシング部の面々はあからさまな嫌がらせに打って出る。プルーイットひとり、教官に目をつけられ、毎日のように理不尽な訓練が強いられるようになった。
傍目にも過酷な状況に、ホームズ大尉からの信頼の厚い補佐官ウォーデン軍曹(バート・ランカスター)はプルーイットに「観念して試合に出るべきだ」と諭すが、プルーイットは頷かなかった。この期に及んでなお、「軍隊は好きだ」と言い放つ彼に、ウォーデンのほうが脱帽する。
上官たちからの執拗な嫌がらせにめげることのないプルーイットを、昔馴染みの親友アンジェロ・マッジオ(フランク・シナトラ)は休日に行きつけのクラブへと誘い出した。そこでプルーイットは、店でロリーンと名乗る女アルマと出逢い、心惹かれるようになる。
同じ頃、ウォーデンはホームズ大尉の妻カレン(デボラ・カー)と倫ならぬ関係に陥っていた。カレンと大尉の関係はかなり前から冷え切っており、ウォーデンも進んで押しきった関係だったが、それでも疚しさは拭いきれない。
日々、訓練と日常の業務に追われながら、それぞれの人間関係に悩む兵士たち。だがそこに少しずつ、戦火の気配が近づきつつあった……
[感想]
私は、題名と映像ソフトのジャケットしか知らなかった時点では、本篇をロマンス映画だと思いこんでいた。
観終わってみると、ロマンス映画、と言える部分も大きいが、しかしそれ以上に、平時と戦時との狭間にいる軍人たちの姿を描いた、特異な切り口の戦争映画、という側面のほうが強い作品だった。
時期的には太平洋戦争突入前夜、兵士たちが読む新聞にも、日本との緊迫した空気が窺えるのだが、しかし当の兵士たちは、そうしたことを意識している節はない。ボクシングの大会が開催されることを信じて疑わず、加入を拒んだ期待の新人に容赦のないシゴキを仕掛ける。その新人はクラブで出逢った女に入れあげ、善良な軍曹は上司の妻との危険な関係に陥っている。間もなく最前線となる場所で繰り広げられるにしては呑気な光景である。そして、こうした要素が結果的に本篇をさながらロマンス映画のように見せかけてもいし、その捉え方はあながち間違いでもない。
しかし本篇が記憶に残るのは、そうした軍人たちの日常が戦争と地続きになっていることを、シンプルかつ鮮やかに表現しているからだ。兆候は薄っすらとある、しかし主要登場人物の誰ひとり、それを意識しないままに近づいてくる戦火の気配。それは終盤で突如として彼らの世界を襲い、瞬く間に蹂躙していく。序盤までで、基地の全体の様子や、周囲の生活を描写しているが故に、そこが空爆されていく描写の緊迫感が著しく、戦争が日常を破壊していく衝撃が実感できる。なまじそれが、戦争とは何の拘わりもないひとびとではなく、有事に出動することが決定づけられている軍人たちの集う基地である、ということが象徴的だ。これをアメリカの尊大さ、と捉える向きもあるかも知れないが、政治と現場の人間との温度差を、最前線とは異なるかたちで描写している、ともいえ、そう捉えると興味深いものがある。
また本篇に登場するひとびとの姿は、実際に戦場に赴くひとびと、それにごく近い場所にいるひとびと、それぞれの戦争、軍隊というものに対する意識の違いが窺えることも注目すべきところだろう。同じ軍に所属する者でも、そこを単なる立身出世のための舞台と捉え、その方法の如何を問わない者がいたり、行き場のない自分にとって唯一の拠り処だから、という理由で縋る者がいたりする。実務能力に優れながら、しかしひとを指揮する立場に就きたくない、という考えを持つ者もいる。そんな彼らの周囲にいる女性の、兵士に対する見方も様々だ。
本篇は世界大戦開戦前夜の、というよりも、その状況を題材として、兵士の本質を戦場とは異なる切り口から描いた作品である。もはや戦争あるのみ、という空気に彩られつつあった日本との温度差に驚くが、それはあくまで素材に過ぎないのだ――そして、ほとんどの人間にとって、戦争に迫りつつある世界の空気も、馴染み深いわけではない、ということが第一にあるように思う。たとえそれが兵士であっても。
関連作品:
『山猫 イタリア語・完全復元版』/『フィールド・オブ・ドリームス』/『ザッツ・エンタテインメント』/『キャノンボール2』/『ワイルドバンチ』/『RED/レッド』/『素晴らしき哉、人生!』/『十二人の怒れる男』/『誘惑のアフロディーテ』/『アメイジング・スパイダーマン』/『パピヨン』
『M★A★S★H マッシュ』/『戦争のはじめかた』/『ハート・ロッカー』/『シャンハイ』/『終戦のエンペラー』
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