原題:“狄仁傑之神都龍王” / 英題:“Young Detective Dee : Rise of Sea Dragon” / 監督:ツイ・ハーク / 脚本:ツイ・ハーク、チャン・チアルー / 製作:ツイ・ハーク、チェン・クォフー、シー・ナンシェン / 撮影監督:チョイ・ソンファイ / 美術監督:ケン・マック / 衣装:ブルース・ユー / 音楽:川井憲次 / 出演:マーク・チャオ、ウィリアム・フォン、ケニー・リン、アンジェラ・ベイビー、カリーナ・ラウ、チェン・クン、キム・ボム / 宣伝:太秦 / 配給:TWIN
2013年中国、香港合作 / 上映時間:2時間13分 / 日本語字幕:本多由枝
2014年8月2日日本公開
公式サイト : http://www.u-picc.com/SEADRAGON/
シネマート六本木にて初見(2014/08/02) ※Skypeを利用したQ&Aイベントつき上映
[粗筋]
西暦665年、唐代の中国。扶余の国との戦争に乗り出していた唐の軍隊は、夜間の航行中、未知の何かの襲撃により、壊滅的な打撃を受ける。その際の様子から、ひとびとは“龍王”の仕業だと噂し、生贄を捧げるべきだ、という論調が洛陽の都に蔓延していく。
ちょうどその頃、推挙を受けて洛陽に赴任した若き判事ディー・レンチェ(マーク・チャオ)は、生贄の候補に挙げられた官妓イン(アンジェラ・ベイビー)の行進を窺う一団が怪しげな会話を交わしているのに気づく。読唇術で内容を把握し、挨拶に赴いた大理寺(※唐朝における警察・司法機関)で地図を確かめると、一団がインを狙っていることを悟り、説明するのももどかしく馳せ参じる。
どうにかすんでのところでインを保護したディーだったが、状況は混沌としていた。暴漢たちに紛れ、異形の何かもまたインを拉致しようとしていた形跡がある。そのうえ、駆けつける途中でディーの異様な振る舞いを訝しんで追ってきた司法長官ユーチ(ウィリアム・フォン)はディーも容疑者と判断し、賊もろとも牢獄に送りこむ。
だがディーは、新人の医官シャトー(ケニー・リン)を持ち前の洞察力と弁舌とで丸めこみ、巧みに牢獄を脱して、ふたたびインに接触を試みる。折しもインの居所には、またしても彼女を狙う者たちが集まり、大理寺の官吏が多く犠牲となる。しかしそんな中で、インはあの異形の者を庇う振る舞いを見せた。インの機転で逃走を図る異形の者に、ディーは大理寺に身を寄せるように呼びかけたが、相手は立ち止まることはなかった。
インを狙う3番目の一団の正体は何なのか。一連の出来事の背後には、どんな真実が隠されているのか? 未だ洛陽での地位を認められていないディーだったが、真相究明のために知略を巡らせた――
[感想]
“中国版シャーロック・ホームズ”とも言われる判事ディー・レンチェを題材に、人智を超えた奇妙な事件を外連味たっぷりに描き、日本でも好評を博した『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』に続くシリーズ第2作である。
ただし、あの物語のあとの出来事ではなく、若きディー判事が洛陽に派遣され、初めて遭遇した大事件を描いた、という体裁を取っており、性格としては前日譚になっている。故に、前作で貫禄たっぷりにディー判事を演じたアンディ・ラウではなく、『モンガに散る』などに出演したマーク・チャオが扮している。画面の随所に、『王朝の陰謀』に繋がる要素が散見されるのにニヤリとさせられるが、直接繋がっている部分というのはない。
しかしこのせいで、ディー判事の印象が全般に薄くなってしまった感がある。様々な出来事に先駆けて行動する名探偵らしさ、人間関係に配慮した粋な言動などははっきりしているが、今回はいちどに絡む出来事が多すぎるうえ、はっきり言って人ひとりで対処できるレベルを超えている事態もあるので、どうも霞んで見える。名探偵がコントロールされるほどに複雑で魅力的な謎を提示し、解決も優れていればそれはミステリとして優秀だが、しかし本篇のように盛り込みすぎて雑然としてしまった場合は、名探偵がどれほど名探偵然としていも存在感を損なってしまう。そういう意味では悪い例になってしまっている。
ただこれは本篇を、ディー判事を中心とするミステリと捉えた場合に感じる嫌味であり、多彩な要素がごった煮になったエンタテインメントとして捉えれば、物語や個々のインパクトを損なっても観客を楽しませようとする心意気は高く評価出来る。誘拐事件に突如として介入する“異形の者”、そして仮面をつけた謎の一団。国政に対する不審が生む不穏な気配のなかで蠢く様々な思惑。それぞれが交錯するたびに繰り広げられる、香港映画、とりわけツイ・ハーク監督が得意とするワイヤーワークを駆使した人間離れしたアクションの数々。それぞれを描くうえでCGも多数導入することで作りだした異世界感、冒険の醍醐味にも優れている。
またこの監督、実は作品を貫くユーモアの組み立てがけっこう巧い。代表作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズでもそんな趣向があったが、本篇においても、作品の中で大きな意味を持つ出来事に、うまくユーモアを絡め、深刻さを和らげるのと同時に、文化や風習を充分に理解していない観客であっても伝わる笑いを構成している。本篇の仕掛けはちょっと下世話だが、それ故によけい国や文化の制約を受けない種類なので、潔癖すぎるひとでない限り、きっと笑えるはずである。監督もお気に入りなのか、このネタを引っ張ること引っ張ること。
観終わってみると、そもそもの謎がけっこう拍子抜けの結果に終わっていたり、序盤での敵味方の構図が変にお座なりになっていたり、と腑に落ちない点も少なからずあるが、そういうのを「まあ、いいか」と思わせてしまうだけの牽引力と、妙な爽快感が本篇にはある。監督の最盛期のような、曖昧な部分をすべてなぎ払ってしまうようなパワーにこそいまひとつ欠いているものの、その信念と実践力の高さは蘇っていることがよく解る。日本で封切られた際、行われたイベントでの監督の弁によれば、ふたたびディー判事が登場する機会もありそうで、まだまだ私たちを楽しませてくれそうだ。
しかしこの作品、何よりも勿体ないのは、日本での上映形態である。
アクションの見せ方や構図からそうではないか、と薄々感じていたが、エンドロールを見ると本篇は3DやDOLBY ATMOSといった先進技術に対応して作られているようだ。だがこうした仕様は、上映する映画館で対応していなければ利用できないし、2D作品より字幕の入力が難しかったり、上映自体にライセンスが必要であったり、と様々な壁があり、簡単にかけられるものではない現実がある。こと本篇は上映規模もお世辞にも大きいとは言えず、3D上映などにまで手が回らなかったのだろう。
ただ、ある程度3D映画を観てきた者には、すぐにそれと解るくらい立体的な効果を狙った映像を、2Dの状態で鑑賞するのはどうにも惜しまれる。3D方式の恩恵が味わえないひともいることを思うと、2D上映は行われて然るべきなのだが、可能であれば選択肢も用意して欲しかったところである。
それ自体が作品の評価に大きく関わることとは言えないので、本論とは切り離したが、どーにも惜しまれてならないので、敢えて触れておく――そして、せっかく作り手が頑張って採り入れた先進の表現が、可能な限り完全な状態で日本に届けられることを願いたい。実は『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』とか『ノア 約束の舟』とか、本国では3Dで製作されたのに日本では2Dのみ(『〜ドラキュラ』についてはイベント上映という形で限定的に3Dでも鑑賞出来たが)というケースはけっこう増えています。映画後進国、と言われても仕方のない現状は、それだけ日本では映画が商売にならない、という現実の証明でもあるのです。
関連作品:
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地黎明』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地大乱』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地争覇』/『ツイン・ドラゴン』/『セブンソード』/『強奪のトライアングル』/『ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝』
『プロジェクトA2/史上最大の標的』/『2046』/『画皮 あやかしの恋』
『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』/『未来警察 Future X-Cops』/『白蛇伝説〜ホワイト・スネーク〜』/『ノア 約束の舟』/『GODZILLA ゴジラ(2014)』
コメント