『モルモット』

モルモット [DVD]

監督:葉山陽一郎 / 脚本:小鳥遊まり、葉山陽一郎 / プロデューサー:沖正人 / 撮影:中尾正人 / 美術&衣裳:井手規愛 / 照明:白石宏明 / 編集:加藤修大 / 特殊メイク:梅沢壮一 / 録音:米本だいご。 / 音楽:喜田武雄 / 出演:三輪ひとみ、桜井ふみ、大谷亮介、たいがー・りー、沖正人、田口主将、雑賀克郎、石原和海、泉友束 / 制作:シネアスト / 配給:アルゴ・ピクチャーズ / 映像ソフト発売元:INTER FILM

2010年日本作品 / 上映時間:1時間2分

2011年1月8日日本公開

2011年6月3日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2014/08/11)



[粗筋]

 児童相談所に勤める相馬玲子(三輪ひとみ)は掛川美咲(桜井ふみ)の家に赴いた。美咲の娘・かりんは出産当時から美咲がアルコール依存症に陥っていたため、障害をもって生まれており、そのうえ現在の美咲の同居人から虐待を受けていることが疑われるので、至急保護する必要があったのだ。

 かりんを返して欲しい、と訴える美咲に、玲子は「家庭環境の改善が必須だ」と諭す。虐待もさることながら、玲子のアルコール依存が続くようなら、かりんを返すことは難しい。そこで美咲は、産婦人科の医師に、アルコール依存から抜け出すための治療を受けられないか、と相談した。

 美咲を診察した猿渡医師(田口主将)は、従来の抗酒薬は試した、という美咲に、ひとつの提案をした。それはまったく新しい薬であり、従来のような副作用はない。ただし、厚生労働省の認可を得ておらず、治験というかたちでの処方となる。無事に出産できれば、100万円の礼金が支払われる、というのだった。

 至れり尽くせりの話に、美咲は飛びついた。薬は確かに効いているようで、アルコールに対する欲求は薄れ、面接でも態度が大幅に改善されたことで、玲子たちもいずれかりんを親元に帰すことを考えはじめるが、ほどなく美咲は、治験の恐ろしさを知ることとなる……

[感想]

 本篇は監督の葉山陽一郎が『サル』『saru phase three』と撮ってきた、医療実験を題材とした“サル”シリーズの第3作である。既にDVDでリリースされているのだから、順を追って観れば良かったのだが……どういうわけかこれだけネットレンタルのリストに入っていたために、前2本を飛ばして観ることとなってしまった。自分でも訳が解らない。

 だから、シリーズ通してどんな理念を貫いているのか、正確なところはまったく解らない。故に、本篇が旧作と並べたとき、どういう位置づけにあるのか、どんな狙いがあるのか、ということについては触れられないので、本篇のみで評価するしかないのだが――率直に言えば、中途半端、というのがいちばんの印象だった。

 扱っている題材や、その描き方は悪くない。実際にしばしば事件となっている治験に、胎児に影響を及ぼすアルコール依存症児童虐待ドメスティック・バイオレンスをひと続きに語っていく序盤の構成、それらの表現や見せ方はしっかりしている。細かにツッコミを入れたい部分もあるが、それほど深刻な矛盾や問題点はなく、ある程度は調べ、どのくらいリアルにすればいいのか、どのくらい虚構に寄せればいいのか、考えている節が色濃いので、そのあたりに不満は覚えない。

 ただ、それだけしっかり考えているわりには、個々の要素がバラバラのままで、最終的にひと束となってカタルシスをもたらすわけでもなければ、個々の出来事に決着がつくわけでもない。中心人物たちに起きた出来事は正視に耐えぬものだが、それが直前の出来事と綺麗にリンクせず、充分な衝撃を生み出すに至っていないのが惜しまれる。こと、玲子の遭遇する出来事は、うまくそこに至る布石と、前後の感情表現を織りこんでおけば、画面のインパクトも増したはずなのだが。

 低予算だが、だからこそ生まれる閉塞感と緊張感、美咲や玲子の切迫した表情など、見応えはある。全体を通すと決して意味はないのだが、下品な場面をあえて織りこんでB級めいた雰囲気を醸しだしているのも作りとして面白い。しかし、いずれも徹底しきれなかったのが惜しまれる仕上がりである。

関連作品:

裏ホラー』/『捨てがたき人々』/『それでもボクはやってない

アナトミー』/『アナトミー2』/『ムカデ人間』/『ムカデ人間2』/『小さな命が呼ぶとき』/『ダラス・バイヤーズクラブ

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