『幸福の黄色いハンカチ』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン3の前に掲示された案内ポスター。 あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 幸福の黄色いハンカチ [Blu-ray]

原作:ピート・ハミル / 監督:山田洋次 / 脚本:山田洋次朝間義隆 / 製作:名島徹 / 製作主任:峰順一 / 撮影:鳥羽哲夫 / 美術:出川三男 / 照明:青木好文 / 編集:石井巌 / 録音:中村寛、松本隆司 / 音楽:佐藤勝 / 出演:高倉健倍賞千恵子武田鉄矢桃井かおりたこ八郎、小野泰次郎、太宰久雄岡本茉莉、笠井一彦、赤塚真人、統一劇場、渥美清 / 配給&映像ソフト発売元:松竹

1977年日本作品 / 上映時間:1時間48分

1977年10月1日日本公開

2014年10月3日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

第2回新・午前十時の映画祭(2014/04/05〜2015/03/20開催)上映作品

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/08/12)



[粗筋]

 花田欽也(武田鉄矢)は失恋のショックで衝動的に退職、その金で新車を購入すると、フェリーではるばる北海道へと赴いた。現地で女の子を誘って、アヴァンチュールと洒落こむつもりだった。

 しかし、網走の駅前で大勢に声をかけるがなかなか捕まらない。欽也は、ひとりで駅を出て来た小川朱実(桃井かおり)に目をつけ、必死に口説いて、彼女を車に乗せることに成功する。朱実は当初、縮こまってなかなか心を開こうとしなかったが、次第に気を許し、笑顔を見せるようになっていった。朱実と順調に親しくなっていることに気をよくしたか、欽也は浜辺で出逢った男(高倉健)を、途中まで乗せていくことにした。

 この男の名は島勇作という。実は、欽也たちと出逢う直前に、網走刑務所を出所したばかりだった。欽也たちに目的地を問われた勇作だが、彼はまだどこに向かうか悩んでいた。

 失恋したばかりのふたりの男女と、刑を終えてなお過去の過ちを引きずる男。偶然巡り逢った3人は、北海道を縦断する――

[感想]

 ラストのワンシーンがあまりに鮮烈すぎて、そこしか覚えていないというひとはもちろん、ダイジェストやパロディで採り上げられるあの一場面だけで本篇を知った気になっているひとは少なくないのではなかろうか――かくいう私自身、古い映画にあまり興味がなかったせいもあるが、全体像は理解していなかった。

 しかし、いつまでも口の端に上るような作品には、それだけの価値がある、ということなのだろう。もちろん最高潮があのワンシーンにあるのは、タイトルからも明瞭だが、本篇はそこに向かって、感嘆するほど緻密に描写や伏線を積み重ねている。

 解りやすいのは、随所に挿入される勇作の回想だ。説明はなく、時系列もバラバラと思しいが、彼が終始心に宿している相手があの光枝(倍賞千恵子)という女性であることは察しがつく。また、ハイライト、というかたちであの名場面を採り上げられると解らないが、黄色いハンカチが何故あそこで選ばれたのか、という理由についてもきちんと触れているのだ。

 しかもこの回想に登場するシーンは決して無作為に選ばれたものではない。それはクライマックス手前で解る。ようやく赴いた目的地で、現実を直視することを躊躇いながらも視線を巡らせる勇作の前に、回想の背景に用いられていた場所がひとつひとつ通り過ぎていく。そうして、最高の一瞬に向けて情感を深めているのだ。

 それ以上に、肝心の目的地まで同行するふたりのキャラクターも重要な意味を備えている。欽也は東京で働いていたが出身は九州であり、のちに打ち解けた勇作が語る出自に近い。人物像の重厚さはまるで異なるが、その言動の細部に男ふたりで重なるところがあるのも、一見勇ましく頼り甲斐のある勇作という男のだらしなさ、弱さを観る側に伝わりやすくする役を果たしている。結果的に勇作を欽也の車に招くきっかけとなった朱実は、欽也とのやり取りで観客や勇作を和ませ、ヤキモキさせながら、終始男達を引っ張り続けている。演じた桃井かおりはその後も独特の台詞回しとムードで個性に秀でた女優として活躍しているが、注目されるきっかけとなった本篇での演技は秀逸だ。決して全体を食いはせず、味のある男ふたりと絶妙なバランスで調和し、物語を牽引していく。

 多くの要素がクライマックスに凝縮されているのは間違いないだろうが、本篇はそこに至るまでを、日本流のロード・ムービーとして描いていることにも注目しておきたい。北海道の広大な土地だからこそ可能な長い旅は、景勝地などあまり登場しないが、他の土地では出せない情感に満ちている。3名の主人公たちの交流がメインであるために、決して大々的には触れられないが、トラブルに遭遇した農家や、警察署でのひと幕、宿でのやり取りは快く、味わいがある。

 改めて、ワンシーンのみで映画を語るべきではない、と感じる。あのハンカチのくだりが最高潮であり、カメラワークまで含めて名場面として語り継がれるのは疑うべくもないが、どうせ言及するならいちど全篇を観るべきだ。あの鮮烈なワンシーンを活かすために施された心配りが、本篇を輝かせていることに気づくはずである。

関連作品:

砂の器』/『たそがれ清兵衛』/『隠し剣 鬼の爪』/『武士の一分

ブラック・レイン』/『ハウルの動く城』/『座頭市 THE LAST』/『私は貝になりたい

レインマン』/『パーフェクト ワールド』/『ヘブンズ・ドア』/『デュー・デート 〜出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断〜』/『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅

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