『マッハ! ニュー・ジェネレーション』

マッハ! ニュー・ジェネレーション [DVD]

※以下のスタッフ名の読みは、監督や出演者など主要なものを除いて英語表記から、深川が推測で記しているものが大半です。あんまり信用しないでください。

英題:“BKO : Bangkok Knockout” / 監督:パンナー・リットグライ、モラコット・ケウタニー / 原案&アクション監修:パンナー・リットグライ / 脚本:ドゥージット・ホントーン、ジョナソン・スミノエ / 製作:プラッチャヤー・ピンゲーオ、アカラポール・テック、パンナー・リットグライ / 製作総指揮:ソムサック・テチャラッタナプラサート / 撮影:ピパット・パイヤッカ、ノンタコーン・タウィーソーク / 美術:サマラット・ブンサティティヤ、カシー・フェーングロッド / 編集:サラヴス・ナカジャド、カシー・フェーングロッド / 衣装:ジャルワン・ポンピパッタンカーン / 音楽:テルサック・ヤンパン / 出演:チャッチャポル・クルシリウシーチャイ、スパクソーン・チャイモンクル、ソーラポン・チャートリー、ケルティサック・ウドムナック、ピムチャノック・、ルーウィセントパイプーン、プーンヤパット・スーンクンチャノン、タナヴィット・ウォンスーワン、デカ・パールタム、カズ=パトリック・タン、スピーディ・アーノルド、スーサップ・シーサイ / 映像ソフト発売元:KLOCKWORX

2011年タイ作品 / 上映時間:1時間46分 / 日本語字幕:?

日本劇場未公開

2011年9月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2014/08/13)



[粗筋]

 父亡き後、彼の弟子とともに結成したスタント・チーム“ファイト・クラブ”でのハリウッド進出を夢見ていたポッド(チャッチャポル・クルシリウシーチャイ)は遂にその切符を手に入れた。既に活躍している武術指導の専門家ダシャノン(カズ=パトリック・タン)がスニード(スピーディ・アーノルド)という男の出資のもと撮影が行われる新作に、タイのスタント・チームが起用されることとなり、そのオーディションに“ファイト・クラブ”が合格したのだ。

 メンバーのひとりで社長の息子であるジェームズ(デカ・パールタム)の奢りでどんちゃん騒ぎを繰り広げていた“ファイト・クラブ”は、だが気がついてみると、屋内で雑魚寝をした状態で朝を迎えた。酒を呑んでもいなかったフェレン(ピムチャノック・、ルーウィセントパイプーン)さえ昏倒しており、しかも一同が利用していた足はすべて建物のそばから消えている。動揺しているところへ、武装した車が襲撃し、更にパーティから参加していたジョイ(スパクソーン・チャイモンクル)が拉致されてしまう。ポッドたちは大慌てでジョイを救うべく、屋内へ駆け込んだ。

 ポッドたちは知るよしもなかったが、実はそれは、スニードが黒幕となって仕掛けられた罠だった。スニードは各地で非合法なギャンブルを行っており、彼はダシャノンを餌に“ファイト・クラブ”を釣り、彼らが別に雇ったチームと戦わせ、その様子を金持ちたちの道楽に利用していたのである――

[感想]

“マッハ”と冠してあるが、あの過激なアクションで注目されたトニー・ジャーは参加していない。一連のシリーズのアクションを一貫して手懸けたパンナー・リットグライが監督などで深く関わっていることから、日本で独自に“マッハ”と冠し、シリーズのように見せかけているだけのようだ。

 まあそのくらいは別にどうでもいい。出演している俳優の名前が他国で浸透していない、新規タイトルとして売り出すには弱い、といったものは、スタッフが関係していた別作品、別シリーズの1本のように見せかけてリリースする、というのは珍しい話ではない。そういう意味では、“マッハ!”というタイトルに観客が期待するものを、トニー・ジャーの存在を除いて、ちゃんと供給している本篇は、わりと良識的なほうではなかろうか。

 むしろ惜しむらくは、もともとストーリー的に雑だったトニー・ジャー出演諸作と比較しても、だいぶ話の構成が粗いことである。

 若きスタント・チームを罠にかける、といった基本的なアイディアが凡庸なのは構わないが、罠の仕掛け方や、そのうえで行われる試合の組み立て方がいちいち不自然なのが気になって仕方ない。いちおうはサプライズとなっているので詳述はしないが、こういう計画だったなら、序盤の描写には大幅に無駄があるし、仕掛け人にしてはほとんど無意味なキャラクターが多いのである。あれではサプライズとして機能しない。

 また、スタント・チームたちが各所で繰り広げる戦いにはそれぞれ、多少なりとも因縁があるようだが、そのほとんどが序盤で直接描かれることも、間接的に触れられることもなく、戦いの直前でいきなり言及されているのも拙劣だ。たとえばポッドとジョイ、ボム(タナヴィット・ウォンスーワン)は三角関係にあり、それを軸にちょっとしたドラマが演じられるが、終盤でカタルシスや感動に繋げるためにはもっと細やかに3人のやり取りを織りこんでおくべきだった。日本ではもちろんのこと、どうやら地元タイでもそれほど顔の知られていなかった(本当にスタント・チームに所属し、裏方で活躍していた若手が中心だった)キャスティングのため、主人公を明確に立てるのではなく、複数のバトルを畳みかける、という手法を採ったが故に、それぞれのドラマに力を割けなかったのが原因と思われるが、だったらむしろ余分な要素は刈り取るか、仄めかす程度にしておくべきだっただろう。全般に、ストーリー面での匙加減を間違えているのだ。

 だが、その分だけアクションの激しさ、危険極まるスタントは存分に盛り込まれている。前座に過ぎないオーディションの場面でさえ息を呑むほどだが、本番である“ゲーム”のくだりに入ると、まさに手に汗握るアクションが立て続けに繰り出される。ムエタイカポエイラ太極拳、更には忍者風の技と獲物を用いる者まで現れ、異種格闘技戦が連続する。骨組みが剥き出しとなった屋根での追いかけっこや、吹き抜けを飛び越える格闘、装甲車にバイク、更にはトレーラーまで登場したスタントの数々は、夏の暑さを忘れるくらいのヒヤヒヤ感が味わえるはずだ。

 実のところ、構成の拙さ、という欠点はアクション描写にも露呈している。随所で繋がりが解りにくかったり、立ち位置が狂っている場面も散見された。さっきまで1階下にいたはずなのに、次の瞬間には階上で宿命の戦いを繰り広げている、というところもあったし、クライマックスの乱闘では、服装やアクションでの特徴付けが不充分なために悪い意味での混乱を招いている。物語がごちゃごちゃになっている印象のあったジャッキー・チェンの初期作品でさえも、アクション場面で無闇に混乱を招くことは少なかったことを思うと、どうもタイのアクション映画スタッフはそのあたりを軽視しすぎているのではなかろうか――あくまで私が鑑賞した範囲での印象だが。

 私は本篇を、肉体が躍動する迫力や、命の危険さえ感じるスタントを堪能したい、という目的で借りてきたので、基本的に強い不満は抱いていないし、そういう目的でなら納得のいく出来映えだった。しかし、アクション映画であっても最低限筋の通ったプロットは必要だ、と考えているひとや、アクション描写にこそ通すべき芯がいる、という想いのあるひとだと、首を傾げるのではなかろうか。仮にそういう強いこだわりがなかったとしても、不充分な仕掛けや機能しきれないサプライズなど、腑に落ちない印象を抱きそうである――なまじ、スタントの激しさは太鼓判を捺してもいいレベルであるだけに、どうにも勿体ない。

関連作品:

マッハ!!!!!!!!』/『マッハ!弐』/『マッハ!参』/『七人のマッハ!!!!!!!

トム・ヤム・クン!』/『チョコレート・ファイター』/『チョコレート・ガール バッド・アス!!

ダーティハリー5』/『13/ザメッティ』/『カイジ 人生逆転ゲーム

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