原題:“Fast & Furious 7” / 監督:ジェームズ・ワン / 脚本:クリス・モーガン / 製作:ニール・H・モリッツ、ヴィン・ディーゼル、マイケル・フォトレル / 製作総指揮:サマンサ・ヴィンセント、アマンダ・ルイス、クリス・モーガン / キャラクター設定:ゲイリー・スコット・トンプソン / 撮影監督:マーク・スパイサー、スティーブン・F・ウィンドン / プロダクション・デザイナー:ビル・ブルゼスキー / 編集:リー・フォルサム・ボイド、ディラン・ハイスミス、カーク・モーリ、クリスティアン・ワグナー / 衣装:サーニャ・ミルコヴィック・ヘイズ / キャスティング:アン・マッカーシー、ケリー・ロイ / 音楽:ブライアン・タイラー / 出演:ヴィン・ディーゼル、ポール・ウォーカー、ドウェイン・ジョンソン、ミシェル・ロドリゲス、ジョーダナ・ブリュースター、タイリース・ギブソン、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、エルサ・バタキ、ルーカス・ブラック、ジャイモン・フンスー、トニー・ジャー、ロンダ・ラウジー、ナタリー・エマニュエル、カート・ラッセル、ジェイソン・ステイサム / ポール・ウォーカー代演:キャレブ・ウォーカー、コディ・ウォーカー / オリジナル・フィルム/ワン・レース・フィルムズ製作 / 配給:東宝東和
2015年アメリカ作品 / 上映時間:2時間14分 / 日本語字幕:岡田壯平
2015年4月17日日本公開
公式サイト : http://wildspeed-official.jp/
TOHOシネマズ新宿にて初見(2015/04/17)
[粗筋]
任務達成の報酬として、これまでの犯罪歴が抹消されたドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)、ブライアン・オコナー(ポール・ウォーカー)は晴れて、ホームであるロサンゼルスで人目を気にすることなく暮らすことが出来るようになった。ドミニクが奪還した恋人レティ(ミシェル・ロドリゲス)との絆を取り戻すことに静かな努力を重ねる一方、ブライアンはミア(ジョーダナ・ブリュースター)との家庭を守るために、改造車から安全なワンボックスカーに乗り換え、平凡な人生を送るべく努めている。
だが、彼らの安寧を許さない者がいた。デッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)――先の任務において、ドミニク達が倒したオーウェン(ルーク・エヴァンス)の兄にして、元英国特殊部隊員。桁外れた実力と過激すぎる行動故に、英軍から狙われながら返り討ちにした、という逸話の持ち主である。
デッカードが最初に現れたのは、FBI本部であった。ホブス捜査官(ドウェイン・ジョンソン)のPCからオーウォンの事件に関わったドミニク達の情報を得ると、ホブスを病院送りにして消えた。
ほどなくデッカードは、ドミニク達の前に姿を現した。デッカードは、チームを離れ東京に滞在していたハン(サン・カン)を殺害すると、東京から爆発物を送り、ブライアンの家を爆破する。
次にデッカードが現れたのは、ハンの葬儀の場であった。いち早く察知したドミニクが追うが、デッカードの大胆極まる戦い方に追い詰められる。だが、すんでのところで忽然と現れた特殊部隊がドミニクを救った。
特殊部隊を指揮した匿名の男――ミスター・ノーバディ(カート・ラッセル)は、ある思惑があってドミニクを手助けしたのである。もう2度と誰かを見送ることがないように、ドミニクはブライアン達“家族”とふたたび破天荒な任務に挑む――
[感想]
本篇については、語るべきことがあまりに多い。
まずは、シリーズとして久し振りに監督が交代したことが挙げられる。第3作から携わり、ヴィン・ディーゼルの再起用を果たした4作目以降でシリーズ独自の世界観を完成させることに貢献したジャスティン・リン監督に代わってメガフォンを任されたのは、『SAW』により一躍注目を集め、『インシディアス』の大ヒットによりホラー映画の新たな旗手となったジェームズ・ワンである。ヴィジュアル・センスと緊迫感の演出において既に定評があったとはいえ、アクション大作は初めての挑戦となる。『SAW』から追っている私には、合うのでは、という予感があったものの、それでも不安は禁じ得なかった。
前作のエピローグにおいて登場が予告されていたジェイソン・ステイサムの存在も、期待と不安とをないまぜにした一因であった。ステイサムといえば、もはや当代一のアクション俳優と言っていい、カリスマ中のカリスマである。『エクスペンダブルズ』シリーズを除けば主演が基本になっている彼が、悪役としてドミニクら“家族”に復讐を仕掛けるのだ。より激しい戦いが期待出来る一方で、これだけのビッグ・ネームと作品の世界観が共存出来るのか、という不安も抱かされた。ステイサムはワンパターンなキャラクターを演じているように見えて、作品それぞれの求める人物像に寄せることを怠らないひとでもあるから、ある程度ハマってみせるだろうことを私は疑っていなかったのだけど。
しかし本篇にとって何よりも大きく影響したことが、メインキャストのひとりポール・ウォーカーの早すぎる死であったことは論を俟たない。本篇の撮影がある程度進んでいた2013年末、奇しくも交通事故によってポールがこの世を去ったことで、本篇は当初完成さえ危ぶまれた。実際、シリーズを通してポールと親交を深め、自ら製作に携わりシリーズを組み立てていたヴィン・ディーゼルは一時期本当に完成を断念しかけたこともあったらしい。
それでも、スタッフとキャストは映画を完成させることを選んだ。既に撮影はかなり進んでおり、没にするよりも完成させて収益を確保した方がいい、という現実的な判断もあったのかも知れないが、ポールにとっても出世作であったこのシリーズの、最後の出演作となる本篇を捧げることが何よりの弔いになる、と考えるのも自然なことだろう。
だが、作り手としては自然な判断であっても、待つ側としては不安を禁じ得ない面もあった。どの程度撮影が済んでいたのか、いったいどのくらいを代役(ポールの実弟ふたりが務めた)で補ったのか、という心配もあるが、補うために脚本を変更した結果、内容に不自然な部分が生じてしまうのが怖かった。死亡した、という事実があるが故に、本来の構想にはなかったブライアンの死という展開を組み込んだり、唐突に物語から姿を消す、という筋書きに作り替えて、「無理矢理まとめました」という印象ばかりが鼻につく作品になってしまう可能性も考えられるからだ――実際、ブルース・リー逝去後にまとめられた『死亡遊戯』はどうしても歪な代物になっていたし、ヒース・レジャーが撮影中に急死し、ファンタジーであることを逆手に取って複数の俳優が同じ役を演じるというアクロバティックな発想に切り替えた『Dr.パルナサスの鏡』も、かなり健闘はしていたが不自然さを完全に打ち消すことは出来なかった。
そして、ポール逝去の報から1年半を経て、ようやく形となった本篇は、そうした不安、心配を見事に吹き飛ばす仕上がりだった。
ポールの不在が、スタッフにとって大きな原動力となったことは疑いようもないが、しかしそれと同時に、彼を物語のなかで“殺さなかった”ことこそ何よりも重要なポイントだろう。急逝によって生じたはずの素材の不足を、弟ふたりを起用した追加撮影で補いながら、作品のなかではまったくそれを感じさせない。ヴィン・ディーゼルに主役を譲り控えめになった感はあるが、しかしそのことはヴィンのシリーズ復帰以降の一貫した傾向なのだ。前作とほぼ変わりない、活き活きとしたアクションを見せ、妻とのやり取りや我が子とのささやかな交流、そしてドミニクへの信頼と絆。シリーズを重ねていくうちに築き上げたドラマをきちんとその身体、表情で演出しながら、はっきりとした存在を刻みつけている。
いったい何処まで本人による撮影が出来ていたのか解らないのだが、アクション・シーンでしっかり活躍しているのが嬉しいところだ。特に今回、ポール演じるブライアンと対決する、組織の用心棒的な人物をトニー・ジャーが演じていることに注目していただきたい。『マッハ!』で国際的にその名を轟かせたタイのアクション・スターである彼の身体能力の高さは、アクション映画を愛するひとにとって既知の事実だろうが、そんな人物を相手に、ポールは見事に食らいついている。疾走し、いまにも転倒しそうなトラックの中で果敢に戦い、クライマックスでもふたたび拳を交える。舞台の狭さをものともせず、メリハリの利いた技を披露するトニーのほうが動きのインパクトは強いのだが、だからこそそれに立ち向かうポールの存在も引き立っている。トニーのアクションを期待すると少々物足りない印象があるのだが、ポールを活かす、という点において彼の功績は大きい。
そうしてポールの見せ場を維持しながら、だが本篇はシリーズとして更に高みを極めようとスル姿勢も崩さなかった。前作のクライマックスはその派手さ、大胆さで極地に達した感があったが、本篇はあれに匹敵する趣向が連発する。そのシチュエーションの設定に無茶はつきまとうし、物理的にこれは不可能だろ、という面がなくもないが、このヴィジュアルを実際に絵として見せられると興奮させられてしまう。
最初に、期待の対象であると共に不安の種でもある、というふうに触れたジェイソン・ステイサムも、こうした超弩級のカースタントのあいだを繋ぐ物語のアイコンとして、十二分に存在感を発揮している。衝撃的な初登場シーンから、“筋肉ダルマ”の如きドウェイン・ジョンソン演じるホブスとの死闘、ドミニクたちへの大胆極まりない宣戦布告に、ドミニクの無謀さと真っ向から“衝突”してみせる狂気。面白いのは、やもすると無茶苦茶でコミカルにすら映るこのキャラクターに、ステイサムが演じることで芯が通ってしまっているのだ。これまで、オーラは一貫しつつも微妙に背景や戦い方の異なるヒーローを多数演じてきた彼だからこそ、だろう。こいつならこんなタイミングで現れ、周りを翻弄するのも当然だ、と思えてしまう。そして、そこまで突き抜けた男だからこそ、最強の敵役としての説得力、価値が備わる。現役最高のアクション俳優に相応しい要求を作品が用意し、ステイサムも見事に応えている。
また、今回新たにメガフォンを取ったジェームズ・ワンの仕事ぶりも素晴らしい。近年はホラー映画の監督、というイメージが強いが、元々はヒリヒリとした緊張感漲る傑作『SAW』でデビューしており、スリルの表現に長けている。また、ホラー映画と言い条、ほんのちょっとの残酷描写でも厳しいレーティングを課せられる映画界において、『インシディアス』を全年齢対象に留める、という離れ業を実現しており、つまり描写の残酷性よりも、モチーフの組み立てや間の構成で恐怖や緊張感を表現する技術を既に身につけている。その技術に、アクションを的確に捉えていくカメラワークや、随所で細かなユーモアをちりばめる緩急のコントロールを加えて、やもすると全体を通して平板になりかねないほど趣向が盛り沢山の本篇を、中だるみさせることなく、最後まで牽引力を保った仕上がりにしている。
あまりに大きすぎる変化と直面した困難。それが却ってスタッフのモチベーションを高めたが故の見事な結実。それは当然のように、シリーズが少しずつ構築してきた、血のつながりを越えた信頼の絆をドラマとして炙り出す。前作で復帰したレティの物語もそうだが、ここでふたたびポール演じるブライアンの存在がクローズアップされる。すべてが痛快に決着したあとのエピローグ、恐らくはシリーズをずっと辿ってきたひとは、胸が熱くなるのを止められないだろう。決して直接的ではないが、もう2度と彼にはスクリーンで会えない、ということを仄めかしながら、変わらぬ絆と敬意とを刻みつけた。
素晴らしいのは、そうしたポール・ウォーカーへの哀悼を明確にしながら、そんな背景を知らない者にとっては、極上のアクション映画として成立する内容、出来映えになっていることだ。それが何よりも、去っていった“家族”への想いを窺わせる。
背後に横たわるエピソードまで含めて、きっと本篇は伝説となる。シリーズのファンはもちろん、アクション映画の愛好家を自認するなら、映画館で観ておくべきだ、と本気で断言したい。
関連作品:
『ワイルド・スピードMAX』/『ワイルド・スピード MEGA MAX』/『ワイルド・スピード EURO MISSION』
『SAW』/『デッド・サイレンス』/『狼の死刑宣告』/『インシディアス』/『インシディアス 第2章』/『死霊館』
『リディック:ギャラクシー・バトル』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『フルスロットル』/『マチェーテ・キルズ』/『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』/『GAMER』/『マッハ!参』/『セルラー』/『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』/『ワイルドカード』
『ブリット』/『ボーン・アルティメイタム』/『デス・プルーフ in グラインドハウス』/『トランスポーター3 アンリミテッド』/『逃走車』/『ゲッタウェイ スーパースネーク』
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