『摩天楼を夢みて』

摩天楼を夢みて [DVD]

原題:“Glengarry Glen Ross” / 原作&脚色:デヴィッド・マメット / 監督:ジェームズ・フォーリー / 製作:ジョゼフ・カラチオーラJr. / 製作総指揮:ジェリー・トコフスキー、スタンリー・F・ザプニック / 撮影監督:フアン・ルイス・アンシア / 美術:ジェーン・ムスキー / 編集:ハワード・スミス / 衣装:ジェーン・グリーンウッド / 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード / 演奏:ウェイン・ショーター / 出演:アル・パチーノジャック・レモンアレック・ボールドウィンエド・ハリスアラン・アーキンケヴィン・スペイシージョナサン・プライス、ジュード・チコレッラ / 配給:東宝東和

1992年アメリカ作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:戸田奈津子

1993年9月4日日本公開

2011年11月21日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|廉価版DVD:amazon]

DVD Videoにて初見(2012/07/24)



[粗筋]

 シカゴの高架線添いに事務所を構える、マレー&ミッチ不動産の支社であるプレミア不動産に、その晩、嵐が訪れた。本社からやって来たブレイク(アレック・ボールドウィン)がセールスマンたちの成績不振を罵り、コンテストで3等以下になったものを解雇する、と宣言したのだ。

 ブレイクが去ったあと、居合わせていた3人のセールスマンはそれぞれに激昂する。特に、今月は1件の契約をまとめることも出来ていないヴェテランのシェリー・レヴィーン(ジャック・レモン)の動揺は著しかった。重病で入院している娘の見舞いに行くつもりだったが、解雇されるわけには行かない、と雨の夜にもかかわらずなりふり構わぬセールスを行い、支社長のジョン・ウィリアムソン(ケヴィン・スペイシー)に良質のネタを回すよう懇願する。

 他方、揃って営業に赴いたデイヴ・モス(エド・ハリス)とジョージ・アーロナウ(アラン・アーキン)も、ウィリアムソンが提供したネタがほとんどクズであったために、ろくすっぽ成果を上げられずにいた。アーロナウはモスがのべつ幕なしにまくしたてる愚痴にひたすら相槌を打つばかりだったが、いつしかモスは、とんでもない提案をする。

 プレミア不動産で現在売り上げトップをひた走るリッキー・ローマ(アル・パチーノ)は、そんなことなどつゆ知らず、その晩もバーでジェームズ・リンク(ジョナサン・プライス)という人物にプッシュをかけていた。何とか契約書にサインさせることに成功し、翌る朝、意気揚々と事務所に赴いたが、そこには何故か警察の姿があった。昨晩のうちに何者かが事務所に侵入し、現金や電話、契約書の一部などを盗んでいった、というのである――

[感想]

 まさに“演技合戦”の趣がある雄篇である。アル・パチーノエド・ハリスアラン・アーキン、そしてこの当時はまだ注目されていなかったケヴィン・スペイシーまで含め、オスカー受賞俳優が揃っているだけあって、その芝居を観ているだけでも呑まれる心地がする。

 しかし、何と言っても素晴らしいのはジャック・レモンだ。ビリー・ワイルダー監督のコメディ作品の看板俳優となり、『おかしな二人』のシリーズでも親しまれたが、次第にシリアスな作品にも露出するようになった。本篇においては、職にしがみつき、姑息な嘘を用いた駆け引きで契約を成立させようとするセールスマンの悲哀を見事に表現している。中盤、ひとり受話器を片手に顧客への売り込みを重ねる姿もさることながら、終幕近くで自らに対する賞賛を聞く際の佇まいが絶品だ。

 演技合戦、というからには、他の俳優たちももちろん引けを取っているわけではない。堂々たる存在感で、エリート・セールスマンを見事に体現するアル・パチーノ、同僚相手に狡猾な言動をするエド・ハリスに、その言葉に素直に翻弄されてしまうアラン・アーキン。『セブン』や『ユージュアル・サスペクツ』で注目される以前ながら、頭でっかちな上司をふてぶてしく演じるケヴィン・スペイシーもまったく遅れを取っていない。

 そううした優れた俳優たちがしのぎを削って構築するドラマは、根っこはシンプルながら、極めて濃密なサスペンスを醸しだしている。冒頭に発破をかけられたあと、それぞれ好き勝手に振る舞っているように見えて、腹の探り合い、駆け引きが繰り返され、予想も出来ない方向へ転がっていきそうな感覚が静かな緊張をもたらす。

 ただ、一般のサスペンスのように、謎が解けたときの爽快感、安心感のようなカタルシスはない。終わって残るのは虚無的なわだかまりであり、すっきりと何もかもが解消するわけではないから、そういうものを期待するとモヤモヤが残り、不満に繋がる可能性はある。だが、終始濃密なやり取りと、それまでの描写があるからこそのじっとりと重たい余韻は、胸に残ってなかなか離れないはずだ。

 エリートである、ということは何を意味するのか。そのために何を犠牲にし、何を得るのか――誠実を貫こうとする者もあれば、モラルを逸脱することさえ厭わない者もいる。そういう、厳しい競争社会の現実を非常に狭い範囲で濃密に描き出した傑作である。

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