『放送禁止 劇場版 洗脳〜邪悪なる鉄のイメージ〜』

池袋シネマ・ロサ、劇場2に通じる階段手前に飾られたポスター。

監督、企画&脚本:長江俊和 / プロデューサー:角井英之、春名剛生、高原万平 / 撮影:平尾徹 / 美術プロデューサー:本田邦宏 / 配給:Pony Canyon

2014年日本作品 / 上映時間:1時間36分

2014年10月11日日本公開

2015年2月18日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://housoukinshi.ponycanyon.co.jp/

池袋シネマ・ロサにて初見(2014/11/04)



[粗筋]

 2013年9月から、その映像の記録は始まっている。

 撮影者はビデオ・ジャーナリストの鷲巣みなみ。被写体となっているのは、心理カウンセラーの小田島霧花と、彼女の患者・江上志麻子。みなみが記録していたのは、彼女の親友である志麻子の“脱洗脳”の過程であった。

 志麻子はもともと、五十嵐孟と息子・乃理の3人、幸せな家庭を築いていた、ごく普通の主婦だった。しかし、大手証券会社に勤める夫が多忙にかまけて家庭をおろそかにするようになり、志麻子の心に生じた隙に、ひとりの女がつけ込んだ。

 その女、久慈マリアは世間的には著名な料理研究家だが、その裏で、相談に訪れた女性達の弱みにつけ込み、洗脳して財産をむしり取っている、という噂だった。志麻子は特に食い物にされ、夫との離婚をそそのかされた挙句、家の権利までマリアに譲り渡してしまっている。2012年9月、その家で発生した火災を境にマリアは姿を消したが、志麻子の心はマリアに囚われたまま、未だ現実と向き合う準備が出来ていない。

 みなみは親友を救うために霧花の協力を仰いだのである。その一部始終は当初、テレビのドキュメンタリー番組にて放送されるはずだったが、ある事情から放送は見送られ、封印されてしまう。この映画は、インターネットに流出した映像を編集したものである……。

 さて、この映像の背後に隠された真実に、あなたは気づくことが出来るだろうか……?

[感想]

 フジテレビ系列深夜で特番として断続的に放送されてカルト的な人気を博し、2度にわたって劇場版が製作されたフェイク・ドキュメンタリースタイルのシリーズ、5年ぶりの劇場版第3作、通算で9作目となる作品である。

 久々の作品、ということもあり、前の劇場版2作品のように、テレビ放送版のエピソードと絡めるような趣向は用いず、単独で成立する内容となっている。そのため、旧作にまったく触れていなくてもほぼ問題なく楽しめるだろう。

 一方で、旧作から追っていると、少々ギミックが乏しいことに物足りなさを覚える可能性のある仕上がりだ。旧作から馴染んでいるひとは一様に、正統派ドキュメンタリー風の語り口のどこに謎解きの鍵やヒントがあるのか、と目を凝らして鑑賞するはずだが、その意味では労に報いてくれない、と感じる可能性がある。

 ただ、そこには幾分練り込み不足、という面もあるのかも知れないが、他方で作り手の視座、立ち位置が成熟したことも手伝っていると考えられる。

 シリーズ旧作では、様々なギミック、大胆な手がかりが随所に配されていた一方で、そこに視聴者を意識しすぎたあからさまさ、不自然さがつきまとっていたことも否めない。極めて凝ったクイズ番組めいた楽しみ方を要求するもので、ドラマ性、テーマ性を求めてしまうと、食い違い故に感じられる物足りなさが強かった。

 この点において、本篇は不自然さがかなり払拭されている。相変わらず、ところどころ釈然としない部分も残ってはいるのだが、大胆なギミックや趣向が、観客を騙したりヒントを仄めかすためだけに用いられているのではなく、物語上の必然性を備えている。とりわけ、最も大胆な趣向が、物語の目的をしっかりと支えている、というのは極めて大きい。それだけで不自然さを意識しづらくしているうえ、この趣向が驚きばかりか感動にも奉仕していることは高く評価できる。

 ただ、あまりにも大胆な作りであるために、いちど観ただけだとやはり不自然な印象のほうが色濃くなる可能性はある。しかし、真相を把握したうえでもういちど冒頭から観直すと、納得がいくはずだ――かなりの荒技であり、様々な面でリスクも大きいはずで、現実に適用できるか、と問われれば首を傾げるしかないが、物語のインパクトをも増幅させている、という意味では有効に働いている。

 と、全体に高く評価出来る一方で、しかし映画としてはやや心許ない仕上がりであるのも確かだ。趣向は面白いが、物語としての牽引力に乏しく、こういう仕掛けのある作品としては、また尺の短さのわりにはやや緩い作りであるのは否めない。画面の隅にヒントをちらつかせたり、終盤で伏線の連携を表現しやすい構図を選ぶ、という手法はこれもテレビシリーズに比べると洗練は窺えるが、全般にわざとらしさは残ってしまっている。何より、シリーズを貫く、“放送禁止”として扱われた理由については、テレビシリーズよりもゆるく感じられるのが難点だ。心情としては理解できなくもないが、それならそもそも素材自体がもっと不足していて然るべきではなかったか?

 果たして映画館で観るに相応しい内容、作りなのか? という疑問は感じないでもない。なまじ、テレビシリーズとして人気を確立したものだけに、これもまたテレビで放送しておいてもよかったのでは、という印象もある。だが翻って、こういうアイディアが許され、受け入れられる枠としては貴重であり、決して多いとはいえない、構造そのものに趣向を凝らしたオリジナル映画を世に問うことが出来る、という意味では、これがいまスクリーンを最初のお披露目の場所として選んでくれているのは、喜ばしいことなのかも知れない。

 願わくば、こういう観客に知的な勝負を仕掛けるような作品がもっと作られることを。そしてそのために、本シリーズには頑張っていただきたい――もしも続ける意志があるのなら、次回はもう少し発表の間隔を短くして欲しいところである。

 少々話が逸れたが、映画として、フィクションとして不足はあるものの、意欲的な作りであることは確かであり、何よりテレビ放映版から続く『放送禁止』シリーズにおける、現時点での最高傑作である、ということは明言していいと思う。このシリーズが好きだったけれどお目にかかれず寂しかった、という向きにとっては幸いな仕上がりである。

関連作品:

放送禁止』/『放送禁止2 ある呪われた大家族』/『放送禁止3 ストーカー地獄編』/『放送禁止4 恐怖の隣人トラブル』/『放送禁止5 しじんの村』/『放送禁止6 デスリミット

放送禁止 劇場版 〜密着68日 復讐執行人』/『ニッポンの大家族 Saiko! The Large Family 放送禁止 劇場版』/『パラノーマル・アクティビティ第2章 TOKYO NIGHT TOKYO NIGHT』

邪願霊』/『食人族』/『バーニー/みんなが愛した殺人者』/『劇場版 稲川怪談 かたりべ』/『超能力研究部の3人』/『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 【最終章】

ウィッカーマン』/『ザ・マスター

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