『アイスマン 超空の戦士』

シネマート六本木、施設外壁に掲示されたポスター。 アイスマン 超空の戦士 ブルーレイ&DVD セット (初回限定生産/2枚組) [Blu-ray]

劇場公開時邦題:『アイスマン』 / 原題:“冰封侠 重生之門” / 監督:ロー・ウィンチョン / アクション監督:ドニー・イェン / 脚本:マーク・ウー、ラム・フォン / 製作:ホアン・チェンシン、ペギー・リー、ドニー・イェン / 撮影:ケニー・ツェー、フォン・ユンマン / スタント・コーディネーター:イム・ワー、ヤン・ホア、ジョン・サルヴィッティ / カースタント監督:ブルース・ロウ / カースタント・コーディネーター:ブラッドリー・ジェームズ・アラン / 音楽:クリストフ・アンテルベルゲル、レイモンド・ウォン / 出演:ドニー・イェン、ホアン・シェンイー、ワン・バオチャン、サイモン・ヤム、ユー・カン、ロー・ホイパン、ラム・シュー / 配給:TWIN / 映像ソフト発売元:Warner Bros. Home Entertainment

2014年中国、香港合作 / 上映時間:1時間44分 / 日本語字幕:本田由枝

2015年3月7日日本公開

2015年5月20日映像ソフト日本盤発売 [ブルーレイ&DVDセット:amazon]

シネマート六本木にて初見(2015/03/30)



[粗筋]

 香港の高速道路から1台のトラックが転落、荷台に積まれていた容器が壊れ、中に保管されていた人間が蘇生した。

 蘇った男の名はホー・イン(ドニー・イェン)――400年前、明の朝廷に忠誠を誓いながらも、倭寇と結託したかどで罪に問われるが、決死の逃走を図った際に雪崩に巻き込まれ、そのまま氷づけとなって現代に蘇ったのだ。

 様変わりした世界に、ホー自身はさほど戸惑わなかったが、たまたま彼に遭遇した人々はことごとく振り回された。ひょんなことから彼と知り合ったメイ(ホアン・シェンイー)は当初、ホーを胡散臭い男と捉えていたが、ホーが大量の金子を携えていることを知ると、積極的に自らの家に匿う。

 ホーが自らの身に起きた出来事の背景を探りはじめたのと同じ頃、彼を巡って暗躍をはじめる者たちがいた。かつてホーと義兄弟の契りを交わしたが、ホーの“裏切り”で討手となったニッ・フー(ユー・カン)とサッ・ゴウ(ワン・バオチャン)もまた、ホーと同じ時期に冷凍保存状態から蘇り、自然にギャングたちの輪に溶け込んで、ホーの行方を捜し始めていた。そして、香港警察の副署長チョン(サイモン・ヤム)もまた、事故を起こしたトラックの線から、ホーを追跡している。

 かくして、明朝時代の因縁の戦いが、現代の香港でふたたび繰り広げられようとしていた……

[感想]

 この数年、ドニー・イェンの活躍は目覚ましいものがある。一時期ハリウッドにも進出していたが、あえて香港に腰を据えることで、コンスタントに新作を発表し続けている――日本の映画興行の情勢があまり芳しいとは言いがたい時期であるだけに、着実に輸入されているわけではないのだが、他の香港・中国スターたちのファンと比べれば、ドニーのファンは恵まれているほうだろう。

 本篇も、正直なところ、熱心なドニー・イェンのファンがいることを前提としなければ、短期間とはいえ劇場公開されることもなかったと思われる。はっきり言って、かなり微妙な仕上がりなのである。

 アクションを主体としたファンタジー、と言えるのだが、たぶん観ていてそれよりも色濃く感じるのは、妙にズレたコメディの味わいだろう。蘇るなり、まるで噴水のような勢いで放尿するホー。400年前には存在しなかったアスファルトの道路とその上を走る自動車、更には折しも催されるハロウィンの仮装集団にも驚くこともなく飄々と振る舞う様は、まあ精神的に鍛えられているから、と捉えられなくもないが、シュールなコメディの趣だ。

 それならそれでもいいのだが、問題はそうしたホーたちの振る舞いと、彼らの行動原理がいまひとつ噛み合っておらず、全体の印象が不明瞭になってしまっていることである。ホー自身も、託された秘宝を追っている理由がよく解らないが、現代の状況を充分把握していないまま、ホーを討とうとするニッやサッの行動もいまひとつ芯が通っていない。だから、直接対峙しても、それがどこへ向かおうとしているのから解らないから、ピンと来ないのだ。警察に属するチョンの行動は、あえて謎めかして描かれているが、それとて観終わっても動機ははっきりと解らない。いちおうチョンが何者か、は提示されるが、じゃあなんであんなやり方を選んでいたのか、は不明なままなのだ。

 どうして謎が多く取り残されたままになっているのか――それ自体はけっこう単純明快な理由がある、と推察できる。

 実はこの作品、終わっていない。続篇があるのだ。

 ただし、これを書いている2015年11月現在、本国でも続篇は公開されていない。しかしどうやら、撮影は終了し、2016年には公開される運びとなっているようだ。

 制作しているうちに構想が膨らみすぎたのかは解らないが、本当のクライマックスは後篇にお預け、という状態のまま提示されたから、釈然としない終わり方になってしまった。また前述したように、よほどのスターであっても内容次第では日本に入ってこないことなどザラにある昨今、本国でも公開されていない続篇を輸入する目処が立っていないが故なのだろう、本篇は邦題に“パート1”とか“前篇”といった語句が加えられてもいないので、予備知識を仕入れずに鑑賞すると、終わるつもりで観たら最後に放り出されてしまう、という困った代物になってしまっている。そりゃあ微妙な印象にもなろうものだ。製作工程の都合により、前篇と後篇の公開にこれだけ間が空くのなら、せめて前篇だけ観ても一区切りつくような作りにしていればまだしも、そういう配慮さえないのだからなおさらだ。

 しかも、ブルーレイに収録された未公開シーンを観ると、どうやらこれでもだいぶ内容的に整頓したほうであるらしい。未公開シーンの中には、クライマックスの途中で挿入される予定だった場面が含まれているのだが、もしこれを採用していたら、折角の数少ない見せ場をブチ壊しにしていたはずだ。ブルーバックが残っているので、映像加工を行う手前で思いとどまったと考えられるが、脚本段階でこういう話があった、と考えると、やはりそもそもの脚本の練り込みが不充分だったのかも知れない。

 あれこれ腐しはしたが、しかしアクション自体はさすがに見応えがある。用心棒たちを前にした立ち回りや、警察に包囲された際の人を食った脱出法、そしてホーとニッ&サッ兄弟との直接対決など、ファンタジー的世界観だからこそ許される人間離れしたアクション・シーンが随所に盛り込まれている。如何せん、何をどうすれば決着するのか、が明示されていないためにあんまりカタルシスを生み出せなかったのが惜しまれるものの、きちんと計算して組み立てられた鮮やかな動きは、現代の香港アクションを牽引するドニー・イェンとそのスタッフならではのクオリティだ。

 監督は、国際的にも評価の高いジョニー・トーとのコラボレーションで経験を重ねてきたロー・ウィンチョン、カースタント周りを担当するブルース・ロウやブラッドリー・ジェームズ・アランはいずれもジャッキー・チェンの映画にも携わったことのある名手だ。キャストにしても、やはりジョニー・トー作品の常連であるサイモン・ヤムやラム・シューが脇を固め、ドニーと拳を交える立ち位置には、ドニーのスタント・チームで気心の知れたユー・カンと、幅のある演技力で注目されながらもアクションに対しての造詣もあったワン・バオチャンが就き、アクションも芝居もぬかりなく押さえる布陣となっている……はずなのだが、それにしては物足りない内容になったのは、やはりストーリーに対する配慮が乏しかったせいかも知れない。

 実は本篇、3Dで製作されており、そのつもりで観ると、立体に見えて効果を発揮するであろう場面も多数ちりばめられている。ハリウッドの大作でも、3D版が入ってこないことがある本邦の映画事情では致し方のないところだが……正直、よほど意図的にヒットさせる自信のある配給会社でもない限り、本篇をあえて手間のかかる3Dで上映したいとは思わないのではなかろうか。

 個人的には、香港映画の味があって、それなりに楽しめる作品だとは思う。けれど、香港映画にもドニー・イェンにも興味のないひとに、あえてお薦めする気にはちょっとなれない。続篇にて、放り出されている伏線や不明瞭な部分が多く解消されていれば話は違うのだが……果たして続篇は日本に届くのだろうか……?

関連作品:

デッドエンド 暗戦リターンズ』/『タクティカル・ユニット 機動部隊−絆−』/『やがて哀しき復讐者

画皮 あやかしの恋』/『スペシャルID 特殊身分』/『白蛇伝説〜ホワイト・スネーク〜』/『コンシェンス/裏切りの炎』/『捜査官X』/『強奪のトライアングル』/『ドラッグ・ウォー 毒戦』/『ドラゴン・コップス -微笑捜査線-

ドラゴン・キングダム』/『ライジング・ドラゴン

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