原題:“Insidious : Chapter 3” / 監督、キャラクター原案&脚本:リー・ワネル / 製作:ジェイソン・ブラム、オーレン・ベリ、ジェームズ・ワン / 製作総指揮:スティーヴン・シュナイダー、ブライアン・カヴァナー=ジョーンズ、チャールズ・レイトン、ピーター・シュレッセル、リア・ブーマン、ザヴィエル・マーチャンド / 撮影監督:ブライアン・ピアソン / プロダクション・デザイナー:ジェニファー・スペンス / 編集:ティム・アルヴァーソン / 音楽:ジョセフ・ビシャラ / 出演:ダーモット・マローニー、ステファニー・スコット、アンガス・サンプソン、リー・ワネル、リン・シェイ、テイト・バーニー、スティーヴ・コールター、ヘイリー・キヨコ、トム・フィッツパトリック、フィル・エイブラムス、ジェームズ・ワン、ギャレット・ライアン、ジョセフ・ビシャラ / 配給&映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment
2015年アメリカ作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:? / PG12
2016年1月16日日本公開
2016年2月24日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
公式サイト : http://bd-dvd.sonypictures.jp/insidious3/
[粗筋]
間もなく高校卒業を控えたクイン・ブレナー(ステファニー・スコット)は、勇を鼓して、エリーズ・レイナー(リン・シェイ)の門を叩いた。
クインはしばらく前から、死んだ母が自分に対してなにかメッセージを投げかけているような気がして、寝付けない日々を繰り返している。せめて母と意思の疎通が出来れば、と考え、霊能者であるエリーズの名前を知って、はるばる訪ねてきたのだ。
個人的な事情から、既に霊能者としては店を畳んでいたエリーズだったが、クインの懸命の訴えに、仕事としてではなく、簡単な降霊を試みる。
しかし、エリーズは母への呼びかけを途中でやめてしまう。その代わりに、これ以上、死者に対して呼びかけないよう忠告する。死者への呼びかけは、呼びかけたい相手だけではなく、すべての死者に聞こえてしまうから。
問題は解決せず、依然としてクインは何かの呼びかけを感じていたが、来る卒業に備え、せめて自身の夢に近づく努力を怠るわけにはいかなかった。劇団のオーディションを済ませた帰り、友人と道を渡ろうとしたクインは、道路のど真ん中で彼女に向かって手を振る人影を見つける。確かさっきも見かけたはず、と考えていたとき――猛スピードの乗用車が、彼女を撥ねた。
幸いに一命を取り留めたものの、両脚を複雑骨折し、クインは当分のあいだベッドでの生活を余儀なくされる。しかしそのあいだにも、あの気配は彼女に迫りつつある――事ここに至って、クインもそれが母親ではないことを察し始めていた……。
[感想]
ホラー映画ながらレーティングで全年齢指定を受け、広範な観客を受け入れたことにより本国で大ヒットを果たした『インシディアス』シリーズの最新作である。
既にストーリー的には一段落しているため、別の家族の物語になっているのも、そのために“前日譚”を選択したことも意外ではないが、しかし特筆すべきは本篇がシリーズを第1作から手懸けてきた脚本担当の監督デビュー作になった、という点である。
シリーズものの監督が入れ替わる――しかも1作・2作と同じスタッフが携わることで成功した作品の場合はあまり歓迎したくない向きもあろうが、本篇は事情が違う。新たな監督リー・ワネルは前2作の監督ジェームズ・ワンが鮮烈なデビューを遂げたスリラーの傑作『SAW』が同作のパイロット版となる短篇を撮ったとき既に共同でアイディアを出しており、以降も多くの作品でパートナーの役割を果たしている。俳優でもあるワネルは『SAW』では主演、『インシディアス』シリーズでも科学的調査を行う“ゴーストハンター”のような立ち位置で連続して出演しており、ジェームズ・ワン監督と深く関わっている。恐らくはホラー映画についての理解もかなり相通じていると思われ、このシリーズを引き継ぐなら、間違いなく最適な人材だったのだ。
そういうわけで、雰囲気に関しては、旧作をしっかりと受け継いでいるのは間違いない。当然のことだが世界観は踏襲、このあとに控える本篇のために伏線も設けられており抜かりはない。
ただやはり、前2作と比較するとインパクトには乏しい。監督として洗練されていない、というのも勿論あるだろうが、しかしこれは、前日譚という形で引き延ばしてしまったが故の宿命だろう。
前日譚なので、旧作での出来事を解決する道筋をここでつけるわけにはいかない。かといって全くリンクしない事件や怪異にしてしまうと、タイトルを引き継がなくとも良かったのでは? という疑問を与えてしまう。同じ世界観の中で、旧作の仕掛けや見せ場に抵触しない物語を、と条件をつけると、話が小さくなってしまうのも致し方のないところだ。
また、やはり演出には携わっていなかったが故なのか、旧2作と比べて、驚かす類の恐怖演出が大半を占めているのが惜しまれる。それはそれで怖いのも事実だが、悪い意味で後を引かない。全体のオカルト的趣向が抑えめであることとも相俟って、観たときは衝撃を受けるが、あまり記憶に残らないのである。上階の気配の源を確かめに行った親子が窓を覗き込むシーンの呼吸の巧さには唸らされたが、あとはもうひとつ、という気がする。
とは言い条、それでもきちんと恐怖のポイントを多数設け、ひとつひとつをきちんと活かして見せる手管はさすがに慣れたものだ。脚本から自身の手で作り上げているからこそ、モチーフの扱いにはほとんど無駄がない。旧作の存在は縛りではあるが、その要素を絡めてドラマとして昇華している点は評価出来る。
ホラー映画というのは実のところ、恐怖ばかり描いていると観ている側の負担が大きい。観ているうちに消耗し、最後には観客が恐怖の描写に反応出来なくなってしまう。なので、適度に弛緩を入れるのがひとつの作法なのだが、そこもきちんと押さえている。監督自身が片割れを演じるゴーストハンター・コンビがこの役割を果たすのは旧作も同様だが、本篇でもいい味を出している。能力者エリーズにもそういう意味での見せ場がある辺りがまたニクい。
経験上、ホラー映画の続篇は、アクション映画よりも成功させるのが難しい。監督が替わって駄目になることが大方だが、同じ監督が携わっても、2作目ではだいたい評価を落とす。それは、1作目で観客が味わった恐怖の質は、同じ趣向を続けたところで超えることが出来ないからだろう。それ故に、監督が違えばむろん、同じ監督でも失速のイメージを与えやすい。そう考えると、この質を保っている時点で、ホラー映画の続篇としては充分に成功と評していいように思う。もちろん、こんな経験則を凌駕してくれるのがいちばんなのだが、その縛りの中で最善を尽くしているのをしたり顔で否定はしたくない。
現時点ではこのシリーズの続篇の予定はなく、リー・ワネルが再びメガフォンを取る、といった情報は、私のざっと調べた範囲では見当たらない。ただ、もしふたたび監督の席に着くのなら、更に洗練された手際を見せてくれるのではなかろうか。それに期待して、ひとまず押さえてみるのも一興かも知れない。
関連作品:
『インシディアス』/『インシディアス 第2章』
『SAW』/『SAW2』/『SAW3』/『デッド・サイレンス』
『8月の家族たち』/『-less[レス]』/『狼の死刑宣告』
『たたり』/『悪魔の棲む家』/『パラノーマル・アクティビティ』/『フッテージ』/『死霊館』
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