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今年7月リリース、『心霊~パンデミック~ フェイズ12』です。アイドルグループがミュージックビデオ撮影のために赴いた廃墟で異様な出来事に遭遇する“けいほう”、動画配信サイトで活動していた女性が最後に発信した映像に残った怪奇現象“なまぬし”、急逝した美大生と彼女の家族に起きる不幸の原因を探ろうとする前後編“のろいのしょうぞうが”など6篇を収録。
……もはやこのシリーズはフェイクだ、ということを隠す気はないと見える。なんでそのつもりで書きますが、フェイクだとしてもシチュエーションの設定、装い方が拙すぎる。
アイドルのMV撮影と称した“けいほう”、シチュエーション自体は興味深いんですが、明らかにメイキングに使用された映像が何故この番組に持ち込まれたのか、という説明が一切ないことが不自然。MV自体がどうなったのか、とか、どうしてここで扱うことになったのか、そしてその上での取材を施して、やっとドキュメンタリーとして自然な体裁が出来るのに、その努力が足りてない。
もっと問題が多いのが長篇ネタです。謎の肖像画とその呪いと思しき悲劇を解決するために調査を進めていく、という趣向自体は悪くない。ただ、そこで関わるスタッフのやり取りが全体に違和感が強い。あまりにも早い段階で掘り下げることを諦めている感があるし、しかもけっこう影響が大きそうな調査のはずなのに、メインスタッフが何故か後輩にぜんぶ押しつけて別の調査に移るのがあまりにも変。事実だとしたらあまりにも無責任だし、では離れて取材していた案件が何か、ということにその後いっさい触れていないので、そもそもこの場面を入れた意味がこの巻では解らない。ドキュメンタリーとしてもそうですが、フィクションだと捉えた上でも、この描写の意味がない。
クライマックス、スタッフ自身が撮影した怪奇現象に至っては、ただただやりすぎ。偽物だと承知の上なら、POVで幽霊の出る廃墟に潜入している感覚が味わえるので、これはこれで楽しい(きっとVRにしたらもっと楽しい)のですが、リアリティはまったくない。だいたい、この出来事と肖像画や、動画の被写体に起きた悲劇の関係性とかが、一連の映像から何にも掴めない、というのがドキュメンタリーとしてもフィクションとしても不自然だ、と思わないのだろうかこの人たち。
投げ出すような締め括りそのものは、このシリーズの伝統みたいなものなので、本当はそれはそれで構わないはずなんですが、本篇の場合は完全に打つ手なし、とは見えず、やっぱりスタッフがただ投げ出しただけにしか映らない。
偽物だと割り切れば、なかなか面白いシチュエーションもあるんですが、それに“作品としてのリアリティ”が付与できてない。ここのスタッフは岩澤宏樹とか寺内康太郎のところで修行したほうがいいと思う。
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