『サバービコン 仮面を被った街』

自宅にて撮った、映画パンフレットの表紙。

原題:“Suburbicon” / 監督:ジョージ・クルーニー / 脚本:ジョエル&イーサン・コーエンジョージ・クルーニーグラント・ヘスロヴ / 製作:ジョージ・クルーニーグラント・ヘスロヴ、テディ・シュウォーツマン / 製作総指揮:ジョエル・シルヴァー、ハル・サドフ、イーサン・アーウィンバーバラ・A・ホール、ダニエル・スタインマン / 撮影監督:ロバート・エルスウィット / プロダクション・デザイナー:ジェームズ・ビゼル / 編集:スティーヴン・ミリオン / 衣装:ジェニー・イーガン / キャスティング:エレン・チェノウェス / 音楽:アレクサンドル・デスプラ / 出演:マット・デイモンジュリアン・ムーアオスカー・アイザック、ノア・ジュープ、グレン・フレシュラー、アレックス・ハッセル、ゲイリー・バサラバ、ジャック・コンレイ、カリマー・ウェストブルック、トニー・エスピサ、リース・バーク / 配給:東北新社 × STAR CHANNEL MOVIES

2017年アメリカ作品 / 上映時間:1時間45分 / 日本語字幕:野崎文子

2018年5月4日日本公開

公式サイト : http://suburbicon.jp/

TOHOシネマズ日比谷にて初見(2018/05/31)



[粗筋]

 1950年代アメリカのとある新興都市サバービコン。公共施設やインフラが充実し、住人の誰にも明るい未来が待っている、と謳う街。

 だが、新たにやって来たマイヤーズ一家が黒人であったことから、波乱は始まる。自治会は紛糾、追放を主張する住民に対し、自治会は隣家とのあいだに塀を建てることで妥協を求めた。当初、表面的にはにこやかにマイヤーズ家に接していた住民達だが、次第に悪意を露わにしていくのだった。

 一方、そのマイヤーズ一家の新居に隣接するガードナー(マット・デイモン)の家でも事件が起きていた。深夜に強盗が押し入り、ガードナーたち家族を縛り上げると、クロロホルムで眠らせ盗みを働いていったのである。ガードナーと息子のニッキー(ノア・ジュープ)、義理の姉であるマーガレット(ジュリアン・ムーア)は眠り込んだだけで済んだが、過剰にクロロホルムを吸わされたガードナーの妻ローズ(ジュリアン・ムーア二役)は帰らぬ人となってしまった。

 ガードナーの家に押し入ったのは白人だったが、サバービコンの人々は「マイヤーズ一家が越してきてから治安が悪くなった」と噂を立て、いよいよ態度を硬化させていく。生前のローズに促され、マイヤーズ家の子供と親しくなっていたニッキーは、その後も密かに交流を続けていたが、ガードナーは快い顔をしない。

 そんな矢先、現地警察のハイタワー(ジャック・コンレイ)が容疑者を捕らえ、ガードナーたちに面通しを請うてきた。ガードナーもマーガレットも、集められた容疑者のなかに犯人はいない、と断言する。

 しかしただひとり、ニッキーだけは、あることに気づいていた――

[感想]

 ロマンスグレーの俳優として存在感を保ち続けるジョージ・クルーニーだが、監督としてはかなりクセ者のきらいがある。基本的に選ぶ題材は実話だが、それを常にひねったアプローチで映像化している。作を追うほどに、その趣向はマニアックになっており、今回もまた実話を題材としているが、そこにコーエン兄弟が以前用意していたプロットを融合する、という更にひねった手法を選んでいる。

 今回は序盤からかなり毒のある描写が繰り出される。まるでユートピアのように謳うサバービコンの宣伝文句が並べられたあと、実際に引っ越してきたなかに黒人のマイヤーズ一家がいたことで自治会が紛糾する。そこから、表面的には紳士的な態度を装いながら、マイヤーズ一家に対する嫌がらせが始まる。

 平行して描かれる、ガードナーたちの家の出来事は序盤、何が起きているか把握しづらい。マイヤーズ一家の隣に暮らしているので、ところどころ交錯はするが、直接絡んでいくことはない。だが、同時進行的にトラブルに遭遇しながら、不穏な気配を色濃くしていく隣家に一切関心を示さないというのがいっそう不気味だ。そうして、なかなか負の感情や真意を露わにしないことで、本篇は異様なムードを濃密に漂わせて進んでいく。

 実際の出来事を元にしたエピソードとフィクションを並行して描いていく、という趣向は特異だが、フィクション部分の組み立ては、脚本を担当したコーエン兄弟の個性が色濃く滲み出ている。序盤は謎めいているが、基本はブラックで、驚きと痛烈なユーモアに満ち満ちたものだ。

 ことこの作品は、善良な人物がほとんどいないことに、次第と暗澹とした気分になってくる。ほとんどの人物が己の身勝手な打算で動いているのだ。だからこそ、欲望が交差したところで起きる出来事が意外性を生み、笑いにも繋がっていくのだが、これほど慄然とさせる話運びになっているのは、私の観たコーエン兄弟の作品群でも珍しい。

 そしてそこで、マイヤーズ一家のエピソードと並行して綴ったことが、意味を持ってくる。謂われのない迫害に屈せずに留まり続けた彼らの存在が、作品に残った僅かな“善意”に救いをもたらしている。ぺんぺん草も残ってなさそうな結末に対して、そっと提示されるラストシーンが、想像しているよりも快い余韻を響かせるのだ。

 必然性をもって統一感を保ったヴィジュアル、半分以上割れた眼鏡をかけた姿で怪演を見せたマット・デイモンをはじめとする役者たちの振り切れた演技、どこかまとまりを欠いているようでテーマの明瞭なプロット。如何せん、それぞれのアクが強いので、ひとによって好き嫌いは激しくなる――毒の方がより強いこともあって、不快感を持つ人のほうが多いのではないか、と危惧するが、携わるスタッフの個性と信念とが色濃く反映された、意欲作であると思う。少なくとも私はけっこう好きだ。

関連作品:

グッドナイト&グッドラック』/『かけひきは、恋のはじまり』/『スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜』/『ファーゴ』/『ディボース・ショウ』/『バーン・アフター・リーディング

インフォーマント!』/『オデッセイ』/『フライト・ゲーム』/『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』/『リカウント』/『ワイルド・スピードMAX

プロミスト・ランド』/『ズートピア

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