『バッド・ルーテナント(2009)』

バッド・ルーテナント [DVD]

原題:“The Bad Lieutenant : Port of Call New Orleans” / 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク / 脚本:ウィリアム・フィンケルスタイン / 製作:スティーヴン・ベラフォンテ、アラン・ポルスキー、ギャビー・ポルスキー、ジョン・トンプソン、エドワード・R・プレスマン / 製作総指揮:アヴィ・ラーナー、ダニー・ディムボート、トレヴァー・ショート、ボアズ・デヴィッドソン、エリオット・ルイス・ローゼンブラット、アレサンドロ・ギャモン / 撮影監督:ペーター・ツァイトリンガー / プロダクション・デザイナー:トビー・コーベット / 編集:ジョー・ビニ / 衣装:ジル・ニューウェル / キャスティング:ジェニー・ジュー、ジョアンナ・レイ / 音楽:マーク・アイシャム / 出演:ニコラス・ケイジエヴァ・メンデスヴァル・キルマー、アルヴィン・“イグジビット”・ジョイナー、フェアルーザ・バーク、ショーン・ハトシー、ジェニファー・クーリッジ、ブラッド・ドゥリーフ、マイケル・シャノン、デンゼル・ウィテカー、シェー・ウィガムトム・バウアー / エドワード・R・プレスマン・フィルム/サターン・フィルムズ製作 / 配給:Presidio / 映像ソフト発売元:Warner Bros. Home Entertainment

2009年アメリカ作品 / 上映時間:2時間2分 / 日本語字幕:? / R15+

2010年2月27日日本公開

2015年12月16日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2014/12/23)



[粗筋]

 ハリケーンカトリーナに襲われたニュー・オーリンズ。刑事のテレンス・マクドノー(ニコラス・ケイジ)は相棒のスティーヴィー(ヴァル・キルマー)と共に脱走した囚人を追っていた。囚人は浸水した刑務所の中で逃げ遅れていたが、テレンスは彼をあえて救出し、その英雄的行為が認められて警部補に昇進する。

 だが時を経て、テレンスの栄光はすっかり泥にまみれていた。囚人を救出する際に腰を痛めてしまい、強い鎮痛剤を処方してもらっていたが、今やそれだけでは足りず、違法ドラッグにも依存している。しかも、ドラッグ中毒に冒されるにつれ、ギャンブルにも熱を上げるようになり、最近は負けが込んで負債が重なっていた。

 折しもニュー・オーリンズ警察では、勢力を拡大しつつあるビッグ・フェイト(アルヴィン・“イグジビット”・ジョイナー)という男を追い続けていた。ビッグ・フェイトは邪魔者を始末する際、目撃者もことごとく殺害する残虐な手口を用いており、野放しには出来ないが、同時に慎重な捜査を要する。しかし、一家のほとんどが殺害される事件が発生するに及んで、警察も本腰を入れて臨むこととなった。

 事件の指揮に当たったテレンスは、間もなく事件発生時に現場に居合わせた少年ダリル(デンゼル・ウィテカー)を確保した。だが、これまでの例を考えれば、その存在がビッグ・フェイトに狙われる危険は非常に高い。上司の命令でダリルを保護する役割はテレンスに任された。

 しかしこのとき、テレンスの頭はギャンブルの借金の件でいっぱいだった。しかも、高級娼婦であるガールフレンドのフランキー(エヴァ・メンデス)がタチの悪い客に引っかかってしまい、彼女も一緒に保護せねばならなくなる。結果、わずかに目を離した隙に、ダリルが行方をくらましてしまう――

[感想]

 この作品は当初、アベルフェラーラ監督『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』のリメイクだ、と言われていた。公開時の宣伝でも同様に喧伝されており、私が最初に鑑賞した当時に用意したメモでもそのように記していたのだが、のちにヴェルナー・ヘルツォーク監督が正式に否定したらしい。実際、ストーリーの粗筋を辿っていくと、同じ物語とは到底判断出来ないので、上のスタッフ一覧からもアベルフェラーラ監督らの名前は省いている。

 とはいえ、リメイクと誤解されるのもある程度は頷けるほど、本篇とアベルフェラーラ監督の『バッド・ルーテナント』はモチーフが似通っている。ドラッグ中毒でありギャンブル中毒であり、退廃した街で奉職する腐った警官が主人公である、というあたりだ。

 しかし本篇において、主人公テレンスのこうした側面と同様に重要なモチーフは、ハリケーンカトリーナに蹂躙され壊滅に近い状態となったニューオーリンズという街そのものだろう。

 プロローグからしてもその点は如実だ。カトリーナの襲来で浸水した刑務所から物語は始まり、その際の行動がきっかけでテレンスは本格的に道を踏み外していく。やがて物語は半年後に進むが、描かれる街の姿は、未だ復興が進んでおらず、そのことが犯罪の温床ともなっている。アメリカ社会に蔓延するドラッグに自らも手を染め、密売人らと癒着する警官、という構図自体は決して特異ではないが、ニューオーリンズという背景の存在が本篇を特徴付けている。

 カトリーナ襲来以前の出来事についてはほとんど触れていない本篇だが、物語の中でテレンスが道を踏み外していく要因となっているのは、明らかに洪水の夜に受けた傷だ。序盤では「処方薬しか使ってない」と言いながら、抑えられない痛みから逃れたい一心で職務中にもドラッグを摂っている。時を追うごとにドラッグへの欲求は歯止めが利かなくなり、その行為はますます悪質化していく。テレンスは同時にギャンブルにも血道を上げ、更に劇中でどんどん無思慮な行動を重ねていくこととなるが、すべてはカトリーナの夜が発端なのだ。だからと言って、この物語で描かれるテレンスの振るまいが正しい、などとは言えないが、背景が窺えるだけに、そこには痛々しさと虚しさが終始つきまとう。

 この作品の端緒は移民一家の虐殺だが、恐らく本篇で描かれるその決着に、ほとんどの人は納得できないだろう。しかし、この展開があるからこそ、エピローグに不条理さと滑稽さ、それと同時に言い知れぬ虚しさが滲み出す。

 人間が泥沼に足を奪われ沈んでいく様を、容赦ない筆致で描いた本篇だが、そのラストは妙に柔らかい。そこまでのプロセスがあまりに剣呑であるがゆえにいっそ拍子抜けするほどだが、その余韻は奇妙に忘れがたい。観て誰もが納得する作品だとは思わないが、妙に噛みしめたくなる1本である。

 最後にもういちど繰り返すが、本篇は確かに『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』と異なる物語ではある。ただ、まるで対照的な展開を迎えているかに見える結末でさえもどこか共鳴しているように映る。結果的に、近しいモチーフをもとに、まったく異なるプロットで、同じような主題を導こうとしているかのようだ。リメイクでないことを承知しながら、比較して鑑賞するのもまた一興だろう。

関連作品:

バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト

10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』/『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶

ドライブ・アングリー3D』/『ゴーストライダー』/『ゴーストライダー2』/『Virginia/ヴァージニア』/『L project』/『ロボッツ』/『マン・オブ・スティール』/『ラビング 愛という名前のふたり』/『野蛮なやつら/SAVAGES』/『クレイジー・ハート』/『アウトロー(2012)

トレーニング・デイ』/『フェイク シティ ある男のルール』/『フィルス』/『渇き。

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