原作:空知英秋(集英社・刊) / 監督&脚本:福田雄一 / 製作:高橋雅美、木下暢起、太田哲夫、宮河恭夫、吉崎圭一、岩上敦宏、峠義孝、青井浩、荒波修、渡辺万由美、本田晋一郎 / エグゼクティヴ・プロデューサー:小岩井宏悦 / プロデューサー:松橋真三、稗田晋 / 撮影:工藤哲也、鈴木靖之 / 照明:芦原邦雄 / 美術監督:池谷仙克 / 編集:栗谷川純 / 衣装デザイン:澤田石和寛 / アクション監督:チャン・ジェウク / 音楽:荑川英史 / 出演:小栗旬、菅田将暉、橋本環奈、岡田将生、六代目中村勘九郎、柳楽優弥、吉沢亮、長澤まさみ、ムロツヨシ、一ノ瀬ワタル、佐藤二朗、菜々緒、新井浩文、早見あかり、安田顕、古畑星夏、酒井健太(アルコ&ピース)、堂本剛 / 声の出演:山田孝之、高橋美佳子、山寺宏一 / 制作プロダクション:プラスディー / 配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.
2017年日本作品 / 上映時間:2時間11分
2017年7月14日日本公開
2017年11月22日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon|DVD プレミアム・エディション:amazon|Blu-ray Disc:amazon|Blu-ray プレミアム・エディション:amazon|Blu-ray スチールブック仕様:amazon|AK ULTRA HD + Blu-ray セット:amazon]
公式サイト : http://Gintama-film.com/
[粗筋]
“天人”が現れたことで、江戸は一変した。彼らの支配に抵抗する志士たちの“攘夷運動”は多くの犠牲者を出し、更なる蜂起を怖れた天人は廃刀令を発し、これにより侍の文化は凋落を辿る。
攘夷運動に携わり、その鬼神の如き強さから“白夜叉”と呼ばれ怖れられた坂田銀時(小栗旬)はいま、“万事屋銀ちゃん”と名付けた何でも屋を営み、アシスタントの志村新八(菅田将暉)、色々あって居候している“夜兎族”の天人・神楽(橋本環奈)とともにその日暮らしの毎日を送っている。
そんななか、万事屋に珍しく仕事の依頼が届いた。依頼者は刀鍛冶の村田鉄矢(安田顕)とその妹・鉄子(早見あかり)。なんでも、先代が打った妖刀・紅桜が何者かに盗まれたのだという。この妖刀は、打った先代を筆頭に、持ち主が何人も命を落としており、素人が手を出していいものではない。どうにか取り戻して欲しい、というのだ。
折しも江戸の街には、侍を狙った辻斬りが横行していた。銀時とともに攘夷戦争を生き延び、いまも細々と抵抗を続けている桂小太郎(岡田将生)までが凶刃にかかり、行方をくらましていた。桂のペット・エリザベスに頼まれ、ともに捜索に出た新八は、その矢先に辻斬りに遭遇。辻斬りが携えていた刀こそ、鉄矢が盗まれた、と語る妖刀・紅桜だった。人間離れした力に圧倒され、さしもの銀時も深傷を負わされてしまう。
一方、飼育する狗神・定春に匂いを追わせて桂の行方を捜していた神楽は、怪しい船に辿り着く。そこを見咎められ、交戦状態から船の中に潜入した神楽は、そこで異様なものを目撃した――
[感想]
実は原作をまったく読んだことがない――長寿作品かつ、様々なかたちで引用されたり、フォロワーが存在している作品ゆえ、大まかな設定や内容は知っていたし、映画版を観る前にアニメ版にちょこっとだけ接したので、とりあえずその空気だけは把握した状態で鑑賞した。
その程度なので、“作品の雰囲気を実写で再現している”と断言しても信用はしていただけないだろう。ただ、現代の日本人に向けたコメディ映画としては、ひとつの理想に等しい仕上がりだ、という点だけは、自信を持って断言したい。
そもそも監督の福田雄一という人物が、ほとんどパロディ精神だけでのし上がってきた、と言ってもいいくらいの人材である。テレビドラマの分野で、実質的に捜査に宛てられる時間を逆手に取ってネタにしてしまった謎解きもの『33分探偵』や、RPGの世界観を実写で、しかも低予算で再現することがコメディになることを証明した『勇者ヨシヒコ』シリーズなど、視聴者にとって馴染みのある世界をひねった角度から描くスタイルで笑いを取ってきた。そして、こうした趣向は、幕末のような日本を舞台としつつも現代社会の文化・風俗のパロディを躊躇なく盛り込む『銀魂』の世界観と親和性が極めて高い。
実際に観てみれば案の定、実写だからこその仕掛けを多数盛り込みつつも、そのスタイルが世界観に馴染んでおり、違和感がない。冒頭でしっかり原作のエピソードを再現しつつも、急に『COUNT DOWN TV』のパロディに突入して、そのなかで主要キャラを演じる俳優たちの代表的なネタをほとんどぶち込んでくる。
いよいよ本筋に突入しても、このブッ飛んだコメディ調が続く一方、そこから次第に展開していくクライマックスのための布石もきちんと置いている。真選組のキャラクターはこのあとのパートでほぼきちんと表現しているし、そこで適度に笑いを挟んでいるお陰で、シリアスな展開に入っても、巧みなくすぐりが緩急を作り出してもいる。とことん観客を楽しませようとする意欲と、その絶妙な呼吸が、いったん惹きつけられたが最後、たまらなくなる。
本篇がここまで魅力的になっているのは、登場する俳優がみな、ひと癖もふた癖もあるキャラクターを嬉々として演じているからだろう。原作と比較できないので、原作通り、とは言わないが、少なくともこの映画の世界観において浮いている人物はひとりもいない。
個人的に役者のなかで特に評価したいのは、六代目中村勘九郎と橋本環奈である。勘九郎はゴリラ呼ばわりされるわ登場人物のストーカーだわ、更には躊躇なく全裸になる、という本篇でもだいぶ濃いキャラだが、撮影中には実際に全裸になるという、先代が草葉の陰で泣いてないか? と心配したくなるくらいの入れ込みようだったらしい――原作ファンからも大いに認められているようなので、先代もけっこう喜んでいるかも知れないが。また橋本環奈は、なまじその整った容貌が注目されすぎたあまりに、これまで役者としては振り切れなかった感があったが、汚い台詞どころか汚物までまき散らす突き抜けたキャラを堂々と演じて、一気にひと皮剥けたように思う。
そして何だかんだ言いつつ、本篇の柱となっているのが、小栗旬演じる坂田銀時だ。怠けたい、楽して儲けたい、という意志が一貫していていっそ清々しいくらいだし、クライマックス手前でも「楽して勝ちたい」と口走るほど開けっ広げだが、それでもきっちりと魅せるべきところは魅せる。全体として緩いが、熱いところは熱く盛り上げる様は、まさに作品の象徴と言っていい。個人的に小栗旬はその器用さと役者としての色気に反して、映画においては飛び抜けた代表作に恵まれていない、という印象を抱いていたのだが、本篇は今後、代表作のひとつになるのではなかろうか。
随所でおふざけが過ぎているように見えて、構成はしっかりしている。山場で展開するアクションは、CGを交えつつもきちんと肉体を活かしていて、充分な迫力を備えている。おちゃらけているようでいて物語の芯が通っていて、着地も綺麗だ。笑いやパロディが濃厚なので、軽んじる人もあるだろうけれど、スタッフやキャストの情熱が詰まった、優秀な娯楽映画である。こういう映画が作られ、受け入れられていることは、映画界にとってとても幸いだと思う。
関連作品:
『TAJOMARU』/『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』/『アントキノイノチ』/『清須会議』/『許されざる者(2013)』/『ラフ ROUGH』/『ボクたちの交換日記』/『幕が上がる』/『幼獣マメシバ』/『白ゆき姫殺人事件』/『寄生獣 完結編』/『シロメ』/『思い出のマーニー』/『十三人の刺客』/『シュガー・ラッシュ』
『ヤッターマン』/『天才バカヴォン 〜蘇るフランダースの犬〜』/『超高速!参勤交代』/『のみとり侍』
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