横溝正史自選集4 犬神家の一族

横溝正史自選集4 犬神家の一族 横溝正史自選集4 犬神家の一族

横溝正史

判型:四六判ハード

版元:出版芸術社

発行:平成18年12月10日

isbn:4882933098

本体価格:2000円

商品ページ: [bk1amazon]

 空前の横溝正史ブームの原点となった市川崑監督・石坂浩二主演による映画版金田一耕助シリーズ、その記念碑的な第1作を同じ監督・主演にてリメイクした『犬神家の一族』が公開されるのに合わせて刊行の開始された、生前著者が自ら選んだ金田一耕助シリーズの傑作7点を、資料含めて統一装幀にて復刻したシリーズの第1回配本。

 未だ復員兵が断続的に戻り、緩やかに新たな時代へと流動しつつあった昭和二十X年。一代で信州屈指の財閥を築きあげた大立者・犬神佐兵衛が死んだ。彼の遺書は犬神家の一族に激しい波乱を齎し、やがて連続殺人へと発展していく。ひょんなことからこの事件に携わることになった金田一耕助は、偶然と必然の齎す凄惨な悲劇を目撃する……

 日本に固有の風土を用いたミステリ映画を定着させた、その原点たる映画の原作だが、探偵小説やミステリの愛好家の評価は必ずしも突出していない作品である。投票を行えば恐らく上位は『獄門島』『本陣殺人事件』などがずっと稼ぐだろうし、実際完成度においてそうした作品のほうが勝ることは誰しも認めるはずだ。

 しかしそれでも本編には、抗いがたい魅力が存在する。ブームの先駆けとなった事実自体が暗示するように、本編には日本独自の風土により彩られた謎解き小説ならではの“様式美”を無数に提唱した作品なのである。理不尽極まりない遺書、美しい後継者にゴム製の仮面を被った復員兵。残虐で陰惨だが視覚的に記憶に残る殺害方法の数々。多くの古典探偵小説にありがちであった、淡々として見せ場の乏しい事情聴取や現場検証によって紙幅を埋めるのではなく、巧みに伏線やヒントを鏤めながら、目まぐるしいストーリー展開によって魅せる手管を確立させている。話運びは、江戸川乱歩明智小五郎や少年探偵団を道化役とする、いわゆる通俗物の流儀に学んだ形跡があるが、それをきちんと消化し、本格派の枠組みに収まるよう工夫を凝らしている点でも印象が芳しい。

 最晩年に至ってもなお創作意欲に衰えなかった著者だが、それでも後年に癖がなくなっていき、往年の作品と比べて物足りなさを禁じ得ないという評価を齎している。そうした評価の大前提にあるのが、本編のようなアクの強さであるのだろう。

 仕掛けの大雑把さや、その大雑把さに何故金田一がなかなか気づかなかったのか、解決までに費やした時間と見合うほどの複雑さはあったのか、と首を傾げたい部分も多々あるが、“本格探偵小説”の色気が凝縮されたような、原点の力強さの漲る傑作である。

 リメイク版公開に合わせて復刻された本書には資料として初刊時や1976年に公開された映画版に寄せた文章が収録されており、往年の映画版、或いは2006年公開のリメイク版しか未だに知らない、という方にも、是非とも触れていただきたい。

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