天岩屋戸の研究 私立伝奇学園高等学校民俗学研究会

天岩屋戸の研究 私立伝奇学園高等学校民俗学研究会 『天岩屋戸の研究 私立伝奇学園高等学校民俗学研究会』

田中啓文

判型:新書判

レーベル:講談社ノベルス
版元:講談社

発行:2005年2月5日

isbn:4061824236

本体価格:880円

商品ページ:[bk1amazon]

 私立田中喜八学園高等学校は広大かつ謎が盛り沢山な「常世の森」を擁するマンモス学校である。その中でも特に毛色の変わった部である民俗学研究会に何故か所属している諸星比夏留は古武道“独楽”の継承者でもあり、華奢な外見からは想像もつかない食欲と体重の持ち主でもある。入部以来遭遇してきた様々な事件を、研究会の面々や部外者ながら民俗学知識に長けた保志野春信とともに解決(?)してきた比夏留であったが、研究会と学園とを巡る状況は不気味さを増していくばかりであった……謎の殺人鬼が跳梁し比夏留もピンチに陥る「オノゴロ洞の研究」、フィールドワークで訪れた山奥の古寺で事件に遭遇する「雷獣洞の研究」、シリーズのクライマックスである表題作の序説(二)と本論の全四話を収録した完結編。

 著者お得意の駄洒落フレーバーに青春小説をミックスした異色の伝奇シリーズも遂に完結。話運びは相変わらずのテンションを保ったまま――だが、個人的にはちょっと惜しい出来と思った。

 まず、従来のパターンに乗ったギャグが目減りしたこと。クライマックス間際でこれまでのようにある意味暢気な関わり方が出来なくなってしまったせいもあるのだが、例えば比夏留が事態の決着に用いた大技に保志野がてきとーな名前を付けたり、話の終盤近くで保志野が人格を豹変させて事件の背景を説明するくだりがなくなってしまったのが残念。身辺に悲劇が相次いだために、研究会の脳天気な面々もさすがにシリアスになる場面が増えてしまい、言動から滲み出るおかしみが減ってしまったのも残念。

 いちばん気になるのは本書が著者の別シリーズ『UMAハンター馬子』とほぼ同時期に完結編を発売してしまったことである。別々であれば“手癖”程度に捉えたかも知れないが、本シリーズと『馬子』のクライマックスは類似点が多すぎる。日本神話を題材にし、随所でUMAを登場させ、また主役格のキャラクターがそれぞれ古典芸能と古武道の継承者であるという設定も似通っているし、クライマックスで登場するガジェットも方向性はそっくりだ――尤も、日本神話に覗く象徴を汲み上げていくとどうしても似た解釈が出て来てしまうもので、著者が同じである以上は似通ってしまうのも致し方のないところだが、それにしてもせめてどちらかの完結編発行を遅らせるなどの工夫は出来なかったものか。後追いで読む読者には苦笑で済ませられる程度の問題ではあるが、(私にしては珍しく)ほぼリアルタイムで読んでしまっただけに余計に引っかかってしまい、なおさら勿体なく感じた。

 だが、これまで提示された設定を存分に活かしたクライマックスはなかなかの圧巻。研究会の主要メンバーの個性をきちんと活用し、更にいまいち脚光を浴びないヒロインに大きな見せ場を用意しているのも嬉しい。惜しむらくは、「序説」二本があるにしても肝心のクライマックスの尺が短めであっさりしていること。折角ここまで煮詰めた設定ならば、もう少しぐらいド派手にやってくれても良かったように思う。せめて、本の約半分を占めるぐらいの尺にしても、罰は当たらなかったのではなかろうか。

 本編にしても『馬子』にしても、もうちょっと脇筋を引き延ばして息長く楽しませて欲しかったとも思うが、主要キャラクターの設定や関係した事件がクライマックスに直接結びついていただけに、やはりここがギリギリだったのだろう。少々嫌味は言いたくなるものの、最後まで楽しいシリーズでありました。

 ……ただ、ある意味最大の謎を残してしまったのはどんなもんだろう。適当でも駄洒落でもいいから誰か説明するべきだったような……。

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