MYSCON洋画劇場・補遺

 時間が経つごとに話し忘れたことが気になってきたり、レポートなどの反応を受けて書きたいことが出て来たので、かるーくフォローしてみます。

 熱弁を振るった甲斐あって『SAW』に興味を持ってくださった方が見えるのは大変嬉しい。のですが、同時にけっこう見られた意見が、「痛いのは苦手だからどうしようか」というもの。

 ……こればっかりはただただ申し訳ありませんとしか。自分でも顧みて吃驚したくらいなのですが、わたし、そういう“視覚的に痛い話”が好きなようです。レジュメに掲げた作品も、『SAW』は無論のこと『セブン』『メメント』『スリープレス』『マシニスト』といずれもかなりイタイ描写が含まれてます。『セブン』は言わずもがな、『メメント』は冒頭の銃殺シーンに至るまでの過程をビリビリと描き出していますし、『マシニスト』は機械に腕を千切られる場面に加えてクリスチャン・ベイルが車に撥ね飛ばされる一幕もある。

 実際のところ、私もあんまし痛いシーンに慣れているわけではなく、観る都度に身構えているのです。それでもこれらの作品をミステリ映画として推すのは、そうした映像的な衝撃に勝る結末の強烈さや構成の美しさがあるから、だと思われます。痛々しい場面で受けた衝撃を一瞬忘れさせてしまうほどに謎解きが鮮烈だから、なおさらに名作だと言いたくなるわけで。尤も、世の中にはそういうショッキングな描写抜きでミステリ映画として成立している作品も多々あるのですから、やっぱり私の嗜好のせいも大きいのでしょう。

 このへん、もとを正すと、私の映画道楽の原点に綾辻行人氏の『囁き』シリーズが存在しているからかも知れません。初めてダリオ・アルジェントを観たのは映画道楽もだいぶ高じてからでしたが、そのときに観た『スリープレス』が欠点まで含めて思いっ切りツボに入ってしまったことからも明らかでしょう。予め免疫を与えられていたからこそ受け入れるのも簡単だったわけで、つまり綾辻行人がぜんぶ悪い(?)。

 映画オリジナルとして掲げた中では唯一、視覚的に痛い場面がなかった『ゴスフォード・パーク』は、二十世紀初頭、貴族と平民の境が曖昧になりつつあった時代、開かれたパーティーのさなかに起きた殺人事件に纏わるドラマ。伏線も丹念ですが全篇実に淡々とした描写で、上に挙げた作品とは対照的にショッキングな場面がなく、あまり面白みがないと感じられるかも、というくらい。最後の謎解きもかなりあっさりとしていますが、そこに至る過程の描き方は実に緻密で、二度三度と鑑賞して初めて意味合いの解る作品です。結局あの場では採りあげられませんでしたが、こちらも一見の価値があります。何せアカデミー賞では個人的に作品賞よりも信頼している脚本賞を獲得した作品ですから。――そこまで言うわりには何故かDVDを持ってませんが、買うつもりはあったんです、ただタイミングを逃しっぱなしで……こないだ1000円以下で売っているのを見かけたときに確保しとくんだったー。

 と、血みどろの作品が基本的に好みらしい私ですが、同時にオマケとして付け加えておいた原作付き映画のほうはあまり血の流れない作品が多い――と言っても目玉に掲げた『ロング・エンゲージメント』は戦争描写の激しさも見所になっていますが、ほかの作品で衝撃的なのは『プレッジ』でベニチオ・デル・トロが自殺するシーン程度でしょう。これは、小説を原作にしたミステリ映画が謎解きやショッキング要素を描き出すことよりドラマ性に流れがちであることと無縁ではないように思います。レジュメに掲げた作品はいずれも原作の精神を温存しながら映像的に膨らませることに成功したものばかりですが、等しくドラマ性を強調していることにおいても一致しています。本格的な謎解きは映画で実践するには難しく、なまじ原作付きだと刈り込みの段階で謎解きは規模を縮められがちなのです。

 そんなわけで、原作付きとして掲げた作品はいずれも映画として成熟したものぱかりですが、純粋に謎解きとその衝撃を味わいたいのであれば、原作付きではなく映画オリジナル脚本のものを選んだ方がいいように思います。あの場では特に『SAW』について重点的に採りあげましたが、ほかのお薦め作品として掲げたもの、更にオマケとして添えた候補作品のなかにもかなり良質の作品が含まれていますので(それを候補に留めてしまったのは……やっぱり映画についてはショッキングな方が好きなせいかも)、これから探す際の参考にしていただけると幸い。

 なお、レジュメを執筆したのちに鑑賞したなかにもお薦めしたい作品があったのですが――困るのは、“仕掛けがある”と言ってしまっただけでその仕掛け自体はなんとなく察せられてしまう内容であること。これは映画を観たときにその構成に戸惑いつつ、同時に本筋であるドラマ部分で感動して貰うのが最善なので、触れずにおくのが懸命でしょうか。映像演出としてもかなり斬新なことをやっている作品なので、是非とも観て欲しいんですけどー……ああもどかしや。

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