『魔女の隠れ家』
ディクスン・カー/高見浩[訳] John Dickson Carr“Hag’s Nook”/translated by Hiroshi Takami 判型:文庫判 レーベル:創元推理文庫 版元:東京創元社 発行:1979年4月20日(2003年1月24日付13版) isbn:448811816X 本体価格:560円 |
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イングランドはリンカーンシャー州にあるチャターハム監獄の長官を代々務めるスタバース家は、だが世嗣が怪死を繰り返すことでも知られていた。地元在住のギデオン・フェル博士のもとに身を寄せたアメリカの青年タッド・ランポールらが見守るなか、相続の儀式のために夜更け、監獄へと赴いたマーティン・スタバースがまた奇怪な死を遂げる。初代長官の日記が不気味な影を落とすこの事件に、フェル博士が見出した答とは……?
カー作品を代表する探偵役であるフェル博士初登場の作品である、がそうした気負いは感じさせず、しかし既に堂々たる安定感を示している。のちの作品にも通じる怪奇趣味に、事件に絡む一族の若い女性を軸にしたロマンスという彩りもきちんと施されている。寧ろ、あまりの安定感が不自然に思えるほどだ。 着目すべきは、フェル博士初登場作品という位置づけながら、本格探偵小説の定番とも言うべき道具立てや構成を、この時点で既に逆手に取ったようなアイディアが盛り込まれている点であろう。スタバース一族の因縁についての解答からして、自らの怪奇趣味を巧妙に利用しているし、お約束通りのお膳立てのあとに待ち受けるラスト数行は、本格探偵小説の源流にいながら既にその事実を皮肉っているかのようである。 明白なトリックはあるが、のちの代表作ほどのインパクトはないし、定番を応用しているからこそあまり話の組み立てに特異さがなくあっさりとした印象を残しているのもマイナス。だが、この時点で早くも完成された作風の安心感と、相反するどこか痛ましい結末の齎す余韻などが後年の作品とは違った手触りを感じさせる長篇である。読み心地も雰囲気も基本は押さえているので、カー作品初心者にお勧めしやすい。 |
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