『夜が終わる場所』
クレイグ・ホールデン/近藤純夫[訳] Craig Holden“Four Corners of Night”/translated by Sumio Kondo 判型:文庫判 レーベル:扶桑社ミステリー 版元:扶桑社 発行:2000年3月30日 isbn:4594028721 本体価格:781円 |
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『リバー・ソロー』、『ラスト・サンクチュアリ』に続くクレイグ・ホールデンの第三長篇。
アメリカ中西部の、何の変哲もなかった筈の日曜の朝。マックスとバンク、夜勤明けの二人の警官が非常招集により呼び出されたのは、タマラ・シプリーという十二歳の少女が失踪した現場だった。悲嘆に暮れる母親と共にバンクは号泣し、その嘆きを分かち合う。一見過剰すぎるその態度だが、マックスをはじめバンクに近しい人々は皆その理由に心当たりがあった。バンクもまた、七年前に娘が失踪していたのである。 バンクは異常なまでに事件に執着した。ストリートギャングたちを無差別に検挙し、些か強引に見える手段を駆使してその痕跡を追い求める。その姿を、かつて消えた我が娘を追い求めて狂おしく奔走した当時のバンクを重ねるように見守っていたマックスだったが、事件の推移に見え隠れする違和感の根元を手繰るうちに、2つの失踪事件は交錯し、思いがけない真相を彼の前に示す―― 表紙のデザインに惹かれて購入、という内容無視の経緯だったが、ある雑誌にて「当たり」という評価を目にしたので挑んでみた。 訳文の所為なのか原文からの癖なのかは不明だが、文章の波に乗るのが難しい。事件が「失踪」という、深刻な割には劇的な展開の望めない性質のものであり、それが現在・過去と平行して進んでいるものだから余計に展開を地味なものにしている。濃密な心理描写は読みどころだが、それに匹敵するくらいの情景描写が、屡々テンポを崩してしまっているのだ。今回時間的な都合からかなり細切れに読んだのだが、その都度リズムを組み直さなければならず、中盤まで事件の性質こそ惹かれるものを感じていたのになかなか捗らなかった。物語を純粋に楽しむためには、予め時間を確保して一気に読んだ方がいいと思われる。 文章の問題を除けば、シンプルながら深みのある人間描写、過去の事件に関する情報をじわじわと説き明かし、それをごく自然に現代の事件と絡めていく手法の巧みさ、そして深沈たる余韻を含んだラスト(但し若干冗長の嫌いはある)など、地味な印象は拭いがたいながらもかなり高水準の一篇と言えよう。ここで語られる動機に素直に驚愕するか、「ありうること」としてすんなりと許容してしまうかでまた評価は変わるが、そこからは読者の資質の問題である。イメージを喚起して止まない装幀と共に、かなりお勧めの一品。 |
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