原題:“En duva satt pa en gren och funderade pa tillvaron” / 監督&脚本:ロイ・アンダーソン / 製作:ペルニラ・サンドストレーム / 撮影監督:イストヴァン・ボルバース、ゲルゲリー・パーロス / 編集:アレクサンドラ・ストラウス / 出演:ニルス・ヴェストブローン、ホーゲル・アンダション / 配給:Bitters End
2014年スウェーデン、ノルウェー、フランス、ドイツ合作 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:岡田壯平
第27回東京国際映画祭ワールド・フォーカス上映作品(邦題『実存を省みる枝の上の鳩』として上映)
2015年8月日本公開予定
公式サイト : http://bitters.co.jp/jinrui/
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2014/10/27)
[粗筋]
男たちふたりが、鞄に詰めたユーモア・グッズを売り歩いている。懸命の売り文句に反して、男たちの表情は冴えず、一向に売れる気配がない。やがてふたりの間には奇妙な緊張が生まれ始める……。
場末のバーにふらり、と現れたのは、18世紀のスウェーデン国王カールと、彼が率いる騎馬隊であった。時代錯誤な振る舞いをする彼らに、バーのひとびとは振り回される。のちに再訪したカール王は、戦に敗れ、打ちひしがれた姿になっていた……。
いずことも知れぬ土地に佇む、謎めいた建造物。多くの人々がその中に導かれていく。やがて、間近な大広間で優雅に過ごしていた人々が、その建物を見やると、奇妙な地鳴りが始まった……。
[感想]
正直、何とも評価に困る作品である。基本的に伏線や主題、といった“物語”を重視して映画を楽しみたい、というひとには、かなりの高確率でピンと来ないのではなかろうか。
ただ、だからと言って観るべきでない、とも言いにくい。物語性を重んじるひとであっても惹きつけてしまいそうな、得体の知れない魅力が本篇には確かにある。
説明が皆無なので、いったい何が起きているのか終始掴みかねるのだが、不思議とおかしみだけは感じられる。あまり動かないカメラの前で淡々と繰り広げられるやり取りが、妙にしみじみと可笑しいのである。
本篇のなかでは、複数の出来事が並行して語られていく。いちおう終盤まで登場する、ユーモア・グッズの販売員のふたりが“軸”と言えそうだが、しかし個々の出来事がしっかりリンクしていくわけではない。奇妙な死を遂げる男、これから死のうとしているのに宝石にこだわろうとする老人、実験に供されている猿の振る舞い、などなど、完全に孤立してしまっているエピソードが幾つもある――繋がっているのかも知れないが、本篇の描き方だと、誰が何処にいるのか、よっぽどしっかり観ていないと把握はしきれないだろう。そのつもりになって繰り返し鑑賞してリンクが確認できなかったとしても、私は「あ、さいですかー」と言うしかない。
ただ、そうしたひとつひとつ独立したような出来事の数々が、不思議な一貫性を持っているように感じさせる。全体を通すと、大笑いはしないが口許が緩んでしまうようなおかしみと、言いようのない悲しさのような感情を覚える。どれもどこか現実離れしたエピソードばかりなのに、何故か身につまされるような感覚に陥る部分がどこかしらにありそうな、そんな雰囲気がある。
同時に本篇には、観客の度肝を抜くような、異様な世界も織り込まれている。場末のバーに突如として出没する18世紀の王、というのもなかなか強烈だが、私が衝撃を受けたのは更にそのあとに登場する、まさに“悪夢”としか言い様のないモチーフだ。まったく意味の解らない状況の意味を悟った瞬間の衝撃は、それまでの緩いユーモアにだらけていた意識に鞭を入れられるような心地さえした。
しかも、物語はそこで決着するのではなく、更に人を食ったようなひと幕で締めくくられる。あの悪夢と見紛う出来事はなんだったのか、と困惑するようなラストだが、しかしそれ故に、途中まで味わっていた感覚が鮮明に焼き付けられる――奇妙なのに、見覚えのあるような、懐かしくも切ない感覚が。
本篇のほとんどの情景は、まるで絵画のように整った構図で展開される。振り返っても、ほとんど動いた覚えのないカメラワークが、それぞれの出来事を余計強く印象づけている。そのトーンは古めかしく、派手とも言えないのだが、それがこうも記憶に刻まれている――鑑賞から半年を経たいまでも、メモを頼らずともこのくらいのことが書けるほどに――そのこと自体が、本篇の凄味と言えよう。ヴェネチア映画祭においては、同年のオスカーに輝いた『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を押さえて金獅子賞を獲得している。そもそも審査員の求める方向性が違う映画祭なので、受賞作が入れ替わるのはなんの不自然もないのだけど、あのパワフルな傑作を前にしても決してひけを取らないインパクトは確かにある――これが“好き”と言えるのは、よっぽどの映画好きか変わり者だろう、とは思うけれど。
かなりクセのある作品なので、日本で一般上映されるのかどうか、と訝っていたが、鑑賞したその場でアンケートが配布され、「一般公開の際にこの邦題で大丈夫?」などといった質問が並べられていた。まさか、と思ったが、本当に2015年8月に公開が決まってしまった。
東京国際映画祭での『実存を省みる枝の上の鳩』よりはシンプルな邦題に変わったが、つかみ所のなさが原題以上に増しているような気がする――とはいえ、原題自体も抽象的なのだから、ある意味ではキャッチーな放題のほうがいいのかも知れない……このタイトルに惹かれて鑑賞して、楽しめるかどうかは正直、保証の限りではないが。
関連作品:
『エヴァとステファンとすてきな家族』/『孤島の王』/『ぼくのエリ 200歳の少女』/『未来を生きる君たちへ』
『ラスト、コーション』/『レスラー』/『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
『ゴダール・ソシアリスム』/『板尾創路の脱獄王』/『Dr.パルナサスの鏡』
コメント
[…] 実のところ現在、積極的に観たい映画が少ないのです。気にはなるけれどいまいち足を運ぶところまで気乗りがしない、という作品ばかりなので、元日よりあと、作業にかこつけて映画鑑賞を控えてました。 […]
[…] 『さよなら、人類』 […]