『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(字幕・IMAX with Laser)』

TOHOシネマズ新宿が入っている新宿東宝ビル外壁にあしらわれた『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』キーヴィジュアルと、それを覗き込んでるゴジラヘッド。
TOHOシネマズ新宿が入っている新宿東宝ビル外壁にあしらわれた『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』キーヴィジュアルと、それを覗き込んでるゴジラヘッド。

原題:“No Time to Die” / 監督:キャリー・ジョージ・フクナガ / キャラクター原案:イアン・フレミング / 脚本:ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、キャリー・ジョージ・フクナガ、フィービー・ウォラー=ブリッジ / 原案:ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、キャリー・ジョージ・フクナガ / 製作:バーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソン / 製作総指揮:クリス・ブリガム / 共同製作:ダニエル・クレイグ、アンドリュー・ノークス、デヴィッド・ポープ / 撮影監督:リヌス・サンドグレン / プロダクション・デザイナー:マーク・ティルデスリー / 第2班監督:アレクサンダー・ウィット / 編集:トム・クロス、エリオット・グラハム / 衣装:スティラット・アン・ラーラーブ / キャスティング:デビー・マクウィリアムズ / 音楽:ハンス・ジマー / 主題歌:ビリー・アイリッシュ / 出演:ダニエル・クレイグ、ラミ・マレック、レア・セドゥ、ラシャーナ・リンチ、レイフ・ファインズ、クリストフ・ヴァルツ、ベン・ウィショー、ナオミ・ハリス、ジェフリー・ライト、ビリー・マグヌッセン、アナ・デ・アルマス、デヴィッド・デンシック、ロリー・キニア、ダリ・ベンシャラー / イーオン・プロダクション提供 / 配給:東宝東和
2021年イギリス、アメリカ合作 / 上映時間:2時間43分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / 字幕監修:酒井俊之
2021年10月1日日本公開
《007》シリーズ公式サイト : https://www.007.com/
TOHOシネマズ新宿にて初見(2021/10/2)


[粗筋]
 スペクターを巡る事件を最後に、ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)がMI6を引退して5年が過ぎた。
 ジャマイカで穏やかな暮らしをしていたボンドのもとに、CIAのエージェントであり、かつて任務を共にした戦友であるフィリックス・ライター(ジェフリー・ライト)が訪ねてきた。彼によれば、MI6が極秘で開発を進めていた化学兵器の研究室にスペクターの舞台が侵入、研究員のヴァルド・オブルチェフ(デヴィッド・デンシック)と研究成果を奪って、研究所を破壊していったという。オブルチェフはスペクターの秘密会議が催されるキューバに連れ去られた、と見られた。ライターは現地の諜報員とともに、研究成果の奪還への協力を求める。
 かつての上司・M(レイフ・ファインズ)に連絡を取ると、どうやらそこで開発されていた化学兵器がMの肝煎りだったらしい、と悟ったボンドは、ライターからの要請を引き受ける。
 現地に赴くと、ボンドはキューバの諜報員パロマ(アナ・デ・アルマス)とともにスペクターの催すパーティへと潜入する。だが、そのパーティは、かつてボンドが捕らえ、いまはロンドンの厳重な刑務所で外部との接触を一切断たれているはずのエルンスト・スタヴロ・ブロンフェルド(クリストフ・ヴァルツ)がボンドのために用意した罠だった。御プルチェフの手によって仕上げを済ませた細菌兵器が、ボンドへの復讐を果たす――はずだった。
 しかし、代わりに犠牲となったのは、スペクターの構成員たちだった。パロマとともにその場を脱出し、ライターと合流したボンドを、更に衝撃が待ち受ける。
 スペクターとも敵対する何者かが、暗躍している――そのことを知ったボンドは、ふたたび戦いの場へと赴くのだった――


[感想]
 冷戦の終結とともに、スパイの必要性は薄まり、スパイ映画もなくなっていくかに思われた。しかしさにあらず、時代の変化に合わせ、スタイルや主題を変化させながら、まだ作り続けられている。
 そのなかでも特に歴史が古く、スパイの代名詞に等しく捉えられている《007》もまた、6代目となるダニエル・クレイグが着任して以降、明らかに変化を遂げた。世界の破滅や富の独占、などのシンプルな悪事を目論むヴィランとの駆け引きといった解りやすい冒険活劇の構図から、事件の背景にもボンドを中心とするドラマにおいても、時代を反映した趣向が凝らされ、深みが生まれた。そして、良くも悪くも様式的だったボンドのキャラクター性にも、功名心や執着心をあえて描きだし、人間味を与えていった。
 こうした変化には、旧来のままの、痛快だが大味さのある娯楽大作というだけでは、観客を惹きつけにくくなった、という事情が考えられる。特に2000年代に入ってからはマット・デイモン主演による、陰謀の大きさよりもスパイである自身の謎や懊悩と向き合うシリアスなドラマ性が注目された《ジェイソン・ボーン》が高く評価された。これに匹敵するヒット作は生まれていないが、《007》の製作陣としては意識せざるを得なかったのだろう。実際、ダニエル・クレイグ就任後の作品には《ジェイソン・ボーン》シリーズのスタッフも招かれている。更に『クラッシュ』のポール・ハギス、『チョコレート』のマーク・フォースターや『アメリカン・ビューティ』のサム・メンデスというオスカーを獲得したスタッフまでが加わり、ドラマ作りや演出の面でもレベルアップを図ってきたと見える。それが『007/スカイフォール』における歴代最高興収の更新とアカデミー賞ノミネート、という成果に結びついた。
 だが同時に『007/スカイフォール』は、かつてのボンド映画に登場し、愛されてきたモチーフ、ガジェットへの回帰を匂わせる作品でもあった。ボンドの過去に言及してその人物像を掘り下げる一方、ダニエル・クレイグ版では初めて《Q》を登場させた。技術担当であるQが手懸ける、現実離れした科学技術を駆使した近未来的なガジェットは、最盛期のボンド映画、ひいてはスパイ映画のイメージと強く結びつくものだ。やもすると、シリアスな主題、ドラマ性と衝突しかねない代物だが、サム・メンデス監督は絶妙なバランス感覚で融合、シリーズでは久々となる監督続投作『007/スペクター』において、やはりかつてのシリーズで暗躍していた秘密組織《スペクター》を登場させた。
 そして新たに、アメリカ出身のキャリー・ジョージ・フクナガ監督を招いての本篇は、ダニエル・クレイグ版ボンド最後の作品、と言われている。2021年現在、プロデューサーは未だダニエル=ボンドの継続を諦めていないようだが、少なくとも本篇はそうして現代的にアップデートしたクレイグ=ボンドの集大成と呼ぶに相応しい内容であり、出来映えである。
 毎回、冒頭で激しいアクションを繰り広げるのもシリーズの恒例だが、本篇の場合、予告篇で用いられたアクションの大半がこのプロローグに収まっているほどで、著しく力が入っている。絶望的な状況をアクロバティックに脱し、MI6謹製のガジェットを多数搭載したボンド・カーで蹴散らす様で観客を魅せる一方、前作から引き継いだドラマに衝撃的な展開を迎える。組織を去ってもなお追いすがってくる脅威、やがて旧縁の陰謀に、ボンドは現場への復帰を決意する。
 ダニエル=ボンドの作品群で描かれた大きな任務はすべて背後で繋がっていた、ということが前作『スペクター』で描かれたが、本篇はその要素を引き継ぎながら、更にドラマとして深い領域を探究した。
 本篇に登場する最後の敵リュートシファー・サフィン(ラミ・マレック)は、ボンドがそうなっていたかも知れないもうひとつの姿、として定義されている。暴力と策謀の世界に生き続けた者が辿り着いた、ボンドという人生とサフィンという人生。先行する2作品はボンドの過去そのものに繋がっているが、サフィンは交錯こそしていないが、同じような世界を生きてきた合わせ鏡のような存在だ。つまりはボンド自身との対決とも言える。これ以上に、シリーズのクライマックスに相応しい敵はない。
 映像的にも飛躍的に質を高めたサム・メンデス監督が離れているために、若干の不安は抱いていたのだが、キャリー・ジョージ・フクナガ監督はその美点もきっちりと踏襲している。プロローグの壮絶なアクションもそうだが、ジャマイカでの意表を突いた事件のくだり、そして終盤、サフィンの秘密基地でのアクション描写。いずれも動きを考慮しながらも鮮やかな構図を作り出し、映像的な見応えが充分だ。とりわけ終盤、螺旋階段を上りながら頭上の敵と繰り広げる銃撃戦は、緻密な構成に基づきながらも極めて動的で、クレイグ=ボンドの諸作のなかでも屈指のシークエンスだ、とさえ思う。
 本篇が選択した結末は、ボンド映画としては(すべてを観たわけではないので断言はしないが、恐らくは)極めて異例だろう。しかし、そこにカタルシスがあるのは、クレイグ=ボンドがこれまでの諸作で対峙した過去、それを踏まえたドラマに決着をつける筋書きになっていればこそだ。自分自身の物語にはっきりと決着をつけた本篇の終幕は狂おしくも、清々しい余韻を残す。
 或いは、昔からのボンド・ファンはこの結末に納得がいかないかも知れない。しかし、従来の方程式を敷衍しているだけでは続けられない状況で、変化を齎し、新たな可能性を切り開いたクレイグ=ボンドの功績は否定できないはずだ。そして、それゆえにいずれ必ず選ばねばならなかった終幕を、人任せにせず自ら選択した本篇の締め括りは、そんなクレイグ=ボンドにとって最善だろう。これまでのボンドが、制作上の意見の相違や興収の不振といった理由で退いていったことを思えば、極めて幸せな例でもある。
 それでも――だからこそ、なのだろうけれど――前述の通りプロデューサーはまだダニエル・クレイグ続投の可能性を捨ててはいないようだし、個人的にもそれはそれでアリだと思う。しかし、すべてのドラマに美しいピリオドを打った本篇が最後になることこそ最良だろう。
 ダニエル・クレイグが続投するなら、私は必ず映画館に脚を運ぶ。それでもひとまずはこう言ってあげたい。「ありがとう、私にとってあなたは最高のジェームズ・ボンドだった」と。


関連作品:
007/カジノ・ロワイヤル』/『007/慰めの報酬』/『007/スカイフォール』/『007/スペクター
007/危機一発(ロシアより愛をこめて)』/『007/ゴールドフィンガー』/『007/消されたライセンス』/『007/ダイ・アナザー・デイ』/『ネバーセイ・ネバーアゲイン』/『エヴリシング・オア・ナッシング:知られざる007誕生の物語
ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』/『ボヘミアン・ラプソディ』/『グランド・ブダペスト・ホテル』/『キャプテン・マーベル』/『アリータ:バトル・エンジェル』/『メリー・ポピンズ リターンズ』/『ニンジャ・アサシン』/『ザ・ランドロマット-パナマ文書流出-』/『マネー・ショート 華麗なる大逆転』/『ドラゴン・タトゥーの女』/『イミテーション・ゲーム エニグマと天才科学者の秘密
クラッシュ』/『チョコレート

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