『怪談新耳袋Gメン ラスト・ツアー』

キネカ大森が入っている西友大森店、駐輪場脇の壁面に掲示された『怪談新耳袋Gメン ラスト・ツアー』含むホラー作品を上映する『ホラー秘宝まつり2021』ポスター、。
キネカ大森が入っている西友大森店、駐輪場脇の壁面に掲示された『怪談新耳袋Gメン ラスト・ツアー』含むホラー作品を上映する『ホラー秘宝まつり2021』ポスター。

監督&編集:佐藤周 / プロデューサー:山口幸彦 / ラインプロデューサー:後藤剛 / 撮影:今宮健太、新関収一 / オープニング&エンディング・テーマ:熊木翔 / 出演:後藤剛、山口幸彦、佐藤周、はち(日本人形)、村上賢司、角由紀子(TOCANA編集長)、なな(日本人形)、横澤丈二、木原浩勝 / 電話出演:中山市朗 / 制作:シャイカー / 配給:ブラウニー
2021年日本作品 / 上映時間:約1時間40分
2021年8月21日日本公開
夏のホラー秘宝祭り公式サイト : http://horror-hiho.com/
キネカ大森にて初見(2021/8/21)


[粗筋]
 復活から5年を経た新耳袋Gメンだが、今回をもって幕を引くこととなった。
 だが、この記念すべき最後の撮影に、Gメンは大変な問題を抱えていた。雛形となる映画秘宝誌の特集記事から携わり、『『怪談新耳袋殴り込み!』から一貫して《キャップ》として実質的リーダーを務めていた田野辺尚人の参加が不可能となったのである。
 そこでスタッフは、応援を呼ぶことにした。
 最初のアタックで召集したのは、村上賢司――怪奇映像を追うドキュメンタリーとしての『怪談新耳袋殴り込み!』の原型となった作品に携わり、初期の劇場版でも監督を担当した、いわばシリーズ生みの親のひとりである。彼を呼び寄せて挑むのは、撮影隊を怪奇現象が襲ったという、廃墟スタジオ。
 第2のアタックで招いたのは、オカルトに特化したサイトTOCANAの編集長・角由紀子。このシリーズでは、メンバーがいいところを見せようとしてミッションに集中出来ない、という理由から、日本人形のはちを例外として、女人禁制を貫いていた。しかし、これが最後ということで、心霊スポットの取材にも動じない彼女に白羽の矢が立ったのだ。目的地は、《はち》を命名する儀式を実施したT湖。あえて同じ地で、生きた女性を交え、ふたたび同じ儀式を行う、という目論見だった。
 そして第3のミッションでは、遂に木原浩勝が、最後にして初のキャップに就任する。このシリーズの着想をもたらした実話怪談本『新耳袋』シリーズの著者として、Gメンたちに発破をかけ続けた木原が自ら用意した目的地は、木原が《世界怪談遺産》に認定した、“確実に怪奇現象が起きる”脅威のスポットだった――


『怪談新耳袋Gメン ラスト・ツアー』初日舞台挨拶にて撮影。左から、山口幸彦プロデューサー、後藤剛ラインプロデューサー、佐藤周監督、村上賢司監督、角由紀子TOCANA編集長、『新耳袋』原作者・木原浩勝、ヨコザワ・プロダクション代表・横澤丈二。
『怪談新耳袋Gメン ラスト・ツアー』初日舞台挨拶にて撮影。左から、山口幸彦プロデューサー、後藤剛ラインプロデューサー、佐藤周監督、村上賢司監督、角由紀子TOCANA編集長、『新耳袋』原作者・木原浩勝、ヨコザワ・プロダクション代表・横澤丈二。


[感想]
 ……とうとうやりやがったこいつら。
 そもそもの始まりは、映画専門誌『映画秘宝』の小さな企画記事だった。木原浩勝・中山市朗の実話怪談本『新耳袋』に登場するスポットを探し出し、本物の幽霊に遭遇したい、という、大学生みたいな企画は、著者と知遇を得たこととカメラの導入で、ドラマ版『怪談新耳袋』の映像ソフトに特典映像として収録されるに至る。そのなかで一度ならず奇怪な現象に遭遇したことが、“人の形をした怪異を映像に収めたい”という、より具体的な目標を生み、特典映像から『怪談新耳袋殴り込み!』として独立した。当初はビデオオリジナルだったが、のちに劇場版が製作されると、超低予算の小規模公開、しかも出ているのはおじさんばっかり、という悪条件が揃いながらも満足のいく成績を上げ続け、3年にわたって新作が劇場公開された。
 だが、諸事情から一部のスタッフが参加出来なくなり、2013年を最後に新作の発表は滞ってしまった。残されたメンバーがやや年齢層高め、とりわけ『映画秘宝』での記事だった当時から携わり、キャップとして牽引してきた田野辺尚人氏の体調がいよいよ思わしくなくなったことで、もはや継続は困難か、と多くのファンが諦めかけた2017年、タイトルを『怪談新耳袋Gメン』と改めての復活が発表された。初期のシリーズを支えたライター・ギンティ小林氏や市川力夫氏といった、花形の出演者を欠いた状態に不安は残していたものの、造形作家の西村喜廣氏などゲストを招いての挑戦を、ふたたび毎年にわたって繰り返してきた。
 これほど熱心に、そして貪欲に撮影を続けても、結局のところ、肝心の“人の形をした怪異”は捉えられずにいた。禁忌を犯し、不敬な行いに及んでも、撮影できたのはせいぜい不可思議な音声や辻褄の合わない出来事、良くても影止まり。復活4年目にしてスタッフは一区切りを決断するが、しかしこのままで終わるわけにはいかない。最後だからこそ、決定的な怪奇現象を捉えねばならなかった。
 スタッフにとって千載一遇の好機だった、と言えるのは、本篇から遡ること約2年前、シリーズの原案として扱われ、しばしばスタッフに無理難題を突きつけ発破をかけてきた木原浩勝氏が、驚異的な確率で怪異に遭遇できる最強の場所を見出していたことである。木原氏がラジオ関西にて長年レギュラー番組を持っていることが縁で、同局で番組を持つ横澤丈二氏と知り合った。やたらと体験談に事欠かない横澤氏に強い関心を抱いた木原氏が掘り下げていった結果、横澤氏の営むプロダクションが、劇団の稽古場として借りているスペースにて、大勢の人間が怪異に遭遇しているばかりか、不可解な映像を繰り返し撮影してきたことが判明する。そして木原氏が、毎月末に行っているニコ生での放送に問題の稽古場を借りたところ、見事に生放送のなかで怪異を撮影することに成功する。以来、木原氏は幾度か撮影に臨んだが、100%、何かしら不可解なものが記録される、という凄まじい成績を打ち出していた。
 ――事情を知っていれば、木原氏の参加が告知された段階で、この場所へのアタックを期待する。そして期待通り、一同は乗り込み――とうとう念願の、決定的な映像を押さえてしまった。
 本篇に登場する映像の凄さは恐らく、本物や本物らしきもの、あからさまなフェイクを問わず、様々な“怪異映像”とその背景に触れてきたものでないと伝わらないかも知れない。なので、どうしてもその説明から始めねばならないだろう。
『怪談新耳袋殴り込み!』から始まる本シリーズの作品に多く接してきたひとならお解りだろうが、あからさまに異様な場所でも、実際に怪異が撮影された場所であっても、報告されたとおりの怪異を記録することはおろか、再現することもほぼ不可能に近い。怪異の源となっている“なにか”が大変な気まぐれなのか、或いは撮影条件がよほど厳しい制約があるのかは定かではないが、たとえ証言や記録が鉄板であっても、結果はだいたい同じだった。確かに異様な気配はあるし、音声や奇妙な記録が得られることは幾度もあるが、情報から期待されるほどの成果に繋がったことはない。
 それに対して、本篇で記録された映像は、恐ろしいほどに期待通り、と言っていい。まさに欲しかった映像そのものを押さえることに成功している。
 しかも、複数回、なのである。例によって本篇のスタッフ兼出演者は、特定のミッションを設け、基本的には周囲にひとが入り込まない環境を作り、ひとりずつ現場に赴くスタイルで臨んでいるが、ある現象は複数の目撃と記録を得、もっとも衝撃的な現象でさえも複数、撮影に成功する。
 もっとも特筆すべきは、あるケースについては、複数の視点から同じ現象を捉えていることだ。
 それなりに色々と不可解な映像を漁り、多少は見る眼もついている自負のある私だが、こういう例はまったくと言っていいほど聞いた覚えがない。一方から捉えられたが別角度のカメラでは記録されていない、或いは違うものが撮れた、という例はあるが、本篇は本当にそこにそれがあった、としか考えられない状態で記録されている。
 シリーズとしての目的は、この映像を、このスタッフの揃えられる設備と人員によって、最善のかたちで押さえた、ということで達成された、と言っていい。有終の美を飾るに相応しい撮影だった。
 ……が、決してそこだけで終わらせないのも、このシリーズらしいところだ。1箇所目はゲストを招きつつオーソドックスに、しかしこの一風変わったスタッフらしい切り口で怪異へのアプローチを図り、結果として想定外の“怪作”を生み落としてしまう。続く2本目の挑戦では、これまで禁忌としていた“生きた”女性ゲストを起用して、旧作にて初の女性隊員らしきものである日本人形に《はち》と名付けるきっかけになった儀式を踏まえて撮影、映像的には収穫はないが、意外な“恐怖”を感じる展開に繋げた。
 そして、木原氏参加の3本目のアタックを挟んでの最後のミッションは、ある意味で非常にこのシリーズらしい顛末を迎える。所期の目的からすると拍子抜けの結末ではあるが、ミッションの内容とその途中の展開など、これまでの経緯を凝縮したようなおかしみさえある。クレジットにも登場しない、予想外の“出演者”の貢献したひと幕でもある。
 全体を見れば、無駄な部分が多すぎて、真面目なひとは楽しめないだろう。しかし、そういう本気の人でも圧倒する映像をきちんと押さえた功績はやはり大きい。そしてそのうえで、このシリーズのお約束を踏まえた上でのミッションや顛末を用意した本篇は、間違いなく締め括りとしては最善の仕上がりだ。
 本篇が製作されたのは、スタッフの事情から同一メンバーの招集が困難となり、宙ぶらりんのまま終了を迎えた『~殴り込み!』を、納得のいくかたちで決着させたかった、という山口幸彦プロデューサーの意向が強かったらしい。年齢的にも絵面的にも、現行のスタッフや出演者でこのまま続けるのは心もとない。しかしその一方で、こういう、恐怖に身を晒すようなミッションを経て、嘘偽りのない怪奇映像の記録に挑む、というスタイル自体には、山口プロデューサー含め製作サイドに未練はあるようだ。前作までのような“女子禁制”といったルールを取り払い、スタッフ・キャストを一新したかたちでの継続の可能性は少なからずある。
 それでも、おじさんしか出て来ないむさ苦しい映像と、学生同様の騒々しくも安上がりな撮影で多数の支持を集め、10年以上も継続してきたことは、特筆に値する成果と言える。そこに、所期の目的を達成する、という最高の花道を設けた本篇は、実に恵まれた完結篇だった。

 ……諸般の事情から、本篇のハイライトとなるスポットに辿り着いた経緯をよく知っていたために、もはや感想というより解説になってしまったが、どうかご容赦願いたい。そのくらい、本篇の収穫は画期的で、怪談好き、怪奇映像の愛好者として興奮を禁じ得ないものだった、ということなのだ。
 出来れば映画館でこの興奮を体験して欲しい。それが叶わなくとも、きっと山口プロデューサーが奮起して早々にリリースしてくれるであろう映像ソフト版でその驚きを共有していただきたい。


関連作品:
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心霊ツアーズ

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