『新・猿の惑星』

新・猿の惑星 [Blu-ray]

原題:“Escape from the Planet of the Apes” / 原作:ピエール・ブール / 監督:ドン・テイラー / 脚本:ポール・デーン / 製作:アーサー・P・ジェイコブス / 製作補:フランク・キャプラJr. / 撮影監督:ジョセフ・バイロック / 美術監督:ウィリアム・クレバー、ジャック・マーティン・スミス / 編集:マリオン・ロスマン / 特殊メイクデザイン:ジョン・チェンバース / 音楽:ジェリー・ゴールドスミス / 出演:ロディ・マクドウォール、キム・ハンター、サル・ミネオ、ブラッドフォード・ディルマン、ナタリー・トランディ、エリック・ブレーデン、アルバート・サルミ、ジェイソン・エヴァース、ジョン・ランドルフ、ハリー・ローター、M・エメット・ウォルシュ / 配給&映像ソフト発売元:20世紀フォックス

1971年アメリカ作品 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:飯嶋永昭

1971年7月31日日本公開

2011年9月21日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon|DVDマルチBOX:amazon|コンプリート・ブルーレイBOX:amazon]

Blu-ray Discにて初見(2011/10/01)



[粗筋]

 1973年、アメリカ・カリフォルニア沿岸に、2年前に行方をくらました宇宙船が漂着した。接岸された宇宙船から降り立ったのは、宇宙服に身を包んだ3匹の猿――船と共に消えたテイラー船長たちだと思いこんでいた軍は騒然となり、とるものもとりあえず猿たちを軍に回収し、その後動物園に移送する。

 動物心理学者のルイス・ディクソン博士(ブラッドフォード・ディルマン)とスティービー・ブラントン博士(ナタリー・トランディ)のふたりに、猿たちの検査が委ねられた。テイラー船長たちが不在であるにも拘わらず、一定の操作を行った痕跡があることから、彼らに高い知能が備わっている可能性が認められたからであったが――それは想像を絶していた。猿たちは、会話することが出来たのである。

 3匹の猿は、コーネリアス(ロディ・マクドウォール)とジーラ(キム・ハンター)、そしてマイロ(サル・ミネオ)と言った。彼らは、人類が言語能力を失い、猿たちが文明を打ち立てて、万物の霊長として君臨していた世界に住んでいた。しかし、一部の種族が侵略戦争を企てた結果、彼らの住む星は滅亡してしまう。博識であったマイロが、彼らの星に漂着していたテイラー船長の宇宙船を研究、ある程度まで操縦することが可能になっていたお陰で、同乗したコーネリアスとその妻ジーラの3人だけが辛うじて生き延びたのだ。

 閉じ頃られた檻の隣にいたゴリラのためにマイロは殺害され、残されたコーネリアスジーラは、大統領の指示のもと、査問委員会にかけられる。既にふたりの信頼を得ていたディクソン博士の助言と、生来のユーモア・センスもあって、ふたりは無事に査問を乗り切り、社会からも歓迎されたかに見えたのだが……

[感想]

 このシリーズの第1作は、そもそもシリーズ化すること自体に無理がある、というほど単独で完成されていた。人気の高さを見込んで企画が立てられたと思われるが、作品をよく理解するほどにその困難は察しがついただろう。第2作はテーマ性まで踏襲することを敢えて放棄し、世界観を敷衍することで何とか成立させており、仕事としては見事だったし面白いのも確かだが、どうしても見劣りする感は否めなかった。

 だが、そうして第2作が難しい関門をある程度まで乗り越えてくれたことが、本篇にいい形でバトンを預けることに、思いがけず成功したようだ。本篇は、難しいと思われた第1作の主題、文明批判の観点を見事に取り戻している。

 普通なら絶対に続きが作り得ない終幕を迎えた前作だったが、むしろあそこでまっさらにしてしまったことが、作り手をいい具合に開き直らせたのかも知れない。意表を衝く形で、第1作の趣向をそっくりひっくり返して再現する、という離れ業をやってのけたのだ。

 矛盾点はある。前作では存在さえちらつかせていなかったはずのマイロ博士というキャラクターが登場し、状況を考えると扱うこと自体難しかったであろう宇宙船で脱出した、という成り行きになっている。もしはじめからこういう展開を想定していたのならきちんと伏線を張らねばならない部分で、シリーズものだからこそ余計に気にかかる。前作ではコーネリアスジーラもかなり脇役の位置づけであり、終盤はあまり出番がなかったために、本篇に繋がるサイドストーリーが展開していた、と想像することも出来るが、幾分無理を感じる。加えて、前作までの流れを考えると、コーネリアスが彼らの文明の発生背景について詳しすぎることにもやや不自然さが否めない。

 しかし、そのあたりに目をつむれば、本篇の視点、描写には唸らされるものがある。第1作の猿たちがテイラーに対して見せたのとほとんど同じ反応を見せる人々。しかしテイラーと異なり、学者らしいユーモアを発揮することで、文明に受け入れられる姿を描くのはなかなかのアイディアだ。特に、ボクシング観戦に赴いたコーネリアスの呟きは効いている。

 人間側のキャラクターで特に効いているのが、ハスレイン博士(エリック・ブレーデン)だ。ルイスとスティービーは前作までのコーネリアスジーラの役割を果たしているに過ぎないが、ジーラたちの上司の役割をひねったようなハスレイン博士の立ち居振る舞いは、背景が異なるからこその差違と、だが本質的に違いのない変化に対する恐れを如実に体現している。同時に、クライマックスに旧2作とも異なる動きを齎すことにも貢献しており、誰よりも本篇の鍵を握っている人物だろう。

 現代の目で眺めると、まだまだ掘り下げが甘い、考証の足りない部分も見受けられるが、間違いなく第1作の持つ主題の深甚さは踏襲している。そのうえで、第1作ほど強烈ではないにせよ、ちょっとしたサプライズを用意しているのもポイントだ――そのための行動を考えるといささか納得のできない部分があるのも否定できないが、驚きのため、そして更なる続篇のために工夫を施したであろうことは、シリーズを中継する役割を与えられた作品としては評価出来る。

 第2作と異なり、恐らく今度は続篇の予定が既に決められていたのだろう。そういう状況下で、前作よりも無理なく、第1作の主題を再現し、次に託すことを成功させた、優秀な仕事ぶりである。前作で不満を覚えた第1作の支持者も、本篇に対しては、満点は駄目でも、合格点を与えられるに違いない。特にオープニング――あそこがカリフォルニアであることの意味を考えると、ニヤリとさせられるはずだ。

関連作品:

猿の惑星

続・猿の惑星

追憶

ダーティハリー3

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