『ロンゲスト・ヤード』

ロンゲスト・ヤード スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

原題:“The Longest Yard” / 監督:ロバート・アルドリッチ / 脚本:トレイシー・キーナン・ウィン / 原案&製作:アルバート・S・ラディ / 撮影監督:ジョセフ・F・バイロック / プロダクション・デザイナー:ジェームズ・ドーウェル・ヴァンス / 編集:マイケル・ルチアーノ / キャスティング:ジョイス・セルズニック、スティーヴン・R・スティーヴンス / 音楽:フランク・デ・ヴォール / 出演:バート・レイノルズエディ・アルバート、マイケル・コンラッド、ジム・ハンプトン、チャールズ・タイナー、リチャード・キールエド・ローターバーナデット・ピータース、ハリー・シーザー、ジョン・スティードマン、マイク・ヘンリー、アニトラ・フォード、ロバート・テシア、ジョー・ジャクソン / 配給:パラマウント×CIC / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan

1974年アメリカ作品 / 上映時間:2時間1分 / 日本語字幕:高瀬鎮夫 / 字幕監修:菊地浩司

1975年5月17日日本公開

2010年8月6日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/09/20)



[粗筋]

 ポール・クルー(バート・レイノルズ)はかつてアメリカン・フットボールのプロ選手だった。だが八百長疑惑で逐われ、この8年間は鬱屈した日々を過ごしている。そしてとうとう、車の窃盗と飲酒運転、更に公務執行妨害の罪で逮捕され、投獄される羽目になった。

 クルーが収容されたシトラス刑務所は、ヘイゼン所長(エディ・アルバート)肝煎りの看守たちによるセミプロのフットボール・チームが結成されている。5年連続で地区2位の成績を収める優秀なチームだったが、所長は優勝旗に固執していた。かつてのスター・プレイヤーであったクルーの有罪が確定したことを知ると、所長は方々に手を回し、わざわざ彼を自分の刑務所に招いたのである。

 だがクルーは、コーチをして欲しい、という申し出を最初は固辞した。彼自身、フットボールに関心がなくなっていたのも事実だが、直前に看守長のクナウア(エド・ローター)に、コーチを引き受けないよう脅されていたのである。

 これに不快感を覚えた所長は、クルーを最も過酷な沼地の労働に配し、看守たちに命じて厳しく当たらせた。最初こそ反抗心から耐え抜いたクルーだったが、あまりの過酷さに屈服し、所長との話し合いを申し出る。

 看守チームの練習を見たクルーは、勢いをつけさせるために、初戦を仕込み試合で勝たせることを提案した。そこで所長はあることを思いつく――囚人たちにチームを組ませ、看守と闘わせるのだ。クルーは看守チームのコーチではなく、囚人の中からメンバーを募り、看守チームの“噛ませ犬”を作ることを命じられる。

 だが、刑務所にいるのは殺人含む重罪を犯した荒くれ者どもばかり。ただで済むはずがなかった……

[感想]

 刑務所を舞台にした映画は多く存在する。スポーツ、ひいてはアメリカン・フットボールを扱った映画は更にたくさん存在するに違いない。だが、その両者を融合してしまったのは、たぶん本篇が最初だったのではなかろうか――これ以前の映画についての知識が豊富とは言い難いので、断定は出来ないが。

 しかし、本篇における融合の仕方が絶妙である、ということぐらいは断言できる。もともとアメリカン・フットボールはやたらと荒っぽい印象のある球技だが、だからこそ荒くれ者どもがプレイするのに相応しい。

 映画を観ていれば解るが、プレイ・スタイルは乱暴になりがちだが、反面、プレイヤーたちの息が合っていなければ、決して勝てないスポーツでもある。もともと生活背景も信条もまるで異なる、というか根本的に協調性と無縁である囚人たちが、看守たちに対する怨みや憂さ晴らし、という目的のもとに一致団結しようと試みる様は、その滑稽さと同時に、スポーツものならではの感動を生み出すことも可能だ。考えてみれば、刑務所という舞台とスポーツという題材には、はじめからうまく連携できる要素があったらしい。

 だから、というべきなのか、本篇は決してストーリー的に大きなひねりを施しているわけではない。マネージャー役を務める“便利屋”の身に起きる出来事と、その周囲の展開こそ特異だが、あとは基本的に刑務所という舞台、スポーツという題材を用いるのならこう進めるしかない、というストーリーに沿っている。

 だが、その無駄の少なさ、テンポの良さは見事だ。それぞれにキャラは立っているが、全員が犯した犯罪の内容にはあまり触れず、刑務所、という閉ざされた共同体での出来事に絞ることで、キャラクターの味わいと、彼らが何だかんだでアメリカン・フットボールという競技に熱中していく様を色濃く描き出す。その一方で、主人公であるポール・クルーの微妙な立ち位置に揺さぶりをかけ、終盤の波乱を生み出す手管も、オーソドックスだが効果的だ。

 本篇の最大の美点は、実のところ、アメリカン・フットボールのルールをほとんど知らないままでも、最後にはその窮地や曙光が見え、登場人物たちと一緒に興奮できる、というところにあるかも知れない。主人公はどう考えてもこのあと酷い目に遭う可能性が高いし、囚人たちがこの出来事を経て気持ちを新たにしたところで、刑期が削られるわけでもない。だが、それでもこの結末は熱く爽快で、観ていて快い。

 今なら更に囚人たちの人物像をどぎつく彩り、スポーツ描写を洗練させて、スマートに、しかしいい意味で暑苦しくアレンジすることも可能だろう――実際、イギリスにて競技をサッカーに変更したうえでリメイクした『ミーン・マシーン』はそんな作品だった――が、アイディアの絶妙さと、描写のほどよい匙加減は、このくらいの時代だからこそ出来たものかも知れない。泥臭く男臭く、だがそれが決して鼻につかず、観終わって爽快感に浸れる、クールな娯楽作である。

関連作品:

ミーン・マシーン

デス・リベンジ

ナンバー23

キャノンボール

かけひきは、恋のはじまり

しあわせの隠れ場所

ショーシャンクの空に

デス・レース

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