原題:“警察故事” / 英題:“The Police Story” / 監督、原案、武術指導&主演:ジャッキー・チェン / 脚本:エドワード・タン / 製作:ウィリー・チェン、エドワード・タン / 製作総指揮:レイモンド・チョウ、レナード・ホー / 撮影監督:張耀祖 / 音楽:マイケル・ライ / 出演:ジャッキー・チェン、ブリジット・リン、マギー・チャン、チュウ・ヤン、ラム・コーホン、トン・ピョウ、ケン・トン、マース / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan
1985年香港作品 / 上映時間:1時間30分 / 日本語字幕:進藤光太
1985年12月14日日本公開
2010年12月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon|Blu-ray Disc Box Set:amazon]
大成龍祭2011上映作品
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/09/04) ※トークイベント付上映
[粗筋]
香港国際警察の特捜課に所属するチェン刑事(ジャッキー・チェン)は、一般企業に偽装した麻薬組織のボス・チュウ(チュウ・ヤン)を摘発するための計画に駆り出され、とある山中の村に同僚たちと共に網を張っていた。
だが、うちのひとりが敵に発見されてしまい、チュウたちは銃撃戦の末に逃走を図る。だがチェンはそれを執念で追い、チュウたちが乗り込んだ2階建てバスを制止して、見事に逮捕に成功した。
自身の計画とは大幅に異なる成り行きに、署長(ラム・コーホン)は激昂したが、しかし世間的に英雄扱いとなったチェン刑事を広告塔代わりに利用することを思い立ち、彼を記者会見の場に座らせた。
その一方で、証拠が充分とは言えない捕物の末の逮捕であったことを考慮し、署長たちは裁判に備えて、チュウの秘書・サリーナ(ブリジット・リン)を証人にすることを考える。そのために、いったん釈放した彼女を、チェン刑事に警護させることにした。
サリーナには自分がチュウから狙われる立場になる、という発想がなく、チェン刑事の警護を頑強に拒み、彼を無視するようにして自分の家に帰ってしまう。そこでチェン刑事は一計を講じ、同僚のキム刑事(マース)の協力で、サリーナを少し脅かすことにするが……
[感想]
本篇は本国・香港で映画賞に輝いている。その一点だけでもジャッキー・チェンの代表作に掲げるのは間違いではないのだが、単純にジャッキー自身のフィルモグラフィーのなかで眺めても、ひとつの頂点に達した作品だ。
ロー・ウェイ監督下の息苦しい環境での制作から抜け出したあとも、ジャッキー・チェンはしばらくコメディ・タッチのカンフー映画を作り続けていたが、そもそもブルース・リーの二番煎じでは通用しない、という信念を持っていた彼が、同じ路線に固執し続けるはずもなかった。製作会社を移籍し、ハリウッドへの挑戦を境にして、彼の出演作はカンフー映画から、その中で育んだ身体能力を活かしたアクション映画にシフトしている。民話的な趣のある時代設定から、イギリスの統治が始まった頃を舞台とした『プロジェクトA』へと発展した。
本篇にとって特に重要なのは、『プロジェクトA』でも共演したサモ・ハン・キンポー監督&主演による“福星”シリーズに参加したことだろう。ここで警察官という、彼が築きあげた人物像にとっては最も好都合な役柄を手に入れた一方、それをコメディの中で活かす方法も学んだように思える。本篇の前にジャッキーはふたたびハリウッド進出を目指した『プロテクター』に出演するものの、『ダーティハリー』の二番煎じとも言える人物設定や話運び、そして彼には少々似つかわしくない扇情的な表現といった作りに、かなり不満を抱いたはずだ。サモ・ハン作品で身につけたものを活かし、『プロテクター』における不本意な想いを解消するべく、着手したのが本篇だった――と考えるのはいささか穿ちすぎだろうか。
だが、こうして順を追って観て悟った、ジャッキーの本領たる面白さが、本篇にはこれでもかと言うほどに詰めこまれていることは間違いない。冒頭、意外なほどに激しい銃撃戦から破天荒なカーチェイス、そして山を越えながら2階建てバスを追う、という過激な追跡劇は、『五福星』でのローラースケートを用いたカーチェイスを発展させた激しさだし、クライマックスのデパートを破壊しまくる壮絶なアクションの数々は、中途半端な締め括りとなっていた『プロテクター』の鬱憤を晴らさんばかりの勢いがある。
その一方、実はコメディとシリアスの匙加減も、これ以前の作品と比べ遥かに精妙になっている。如何にも官僚的でしばしばジャッキー演じる刑事と対立する署長、という存在を通して、公僕である警察官の不自由さ、悩みをきちんと剔出しつつ、そんななかで嫌々警護することとなるサリーナを軸に繰り広げられるやり取りの面白さは、単純にコメディ映画として鑑賞しても一級品だ。
しかもクライマックス手前において、にわかに法廷劇になってしまうあたりもユニークだ。それも、ごく真っ当に論争を繰り広げていたかと思えば、直前のひと幕を伏線とした爆発的なオチがしかけられている。『ヤング・マスター/師弟出馬』あたりの、身体能力を活かしたコメディとは路線が異なるが、しかしそうした作品群で培ったユーモア・センスを見事に昇華させたひと幕であり、笑えるのは無論だが、ここまで順繰りに、製作背景まで含めて追ってきた者にとっては、いっそ目頭が熱くなるほど感動的なくだりである。研鑽の末に、ジャッキーはアクションなしでもこれだけの“笑い”を生み出せる境地に達したのだ。
そして、そうしてコメディとして最高の完成度に至る一方で、ドラマとしての“熱さ”も比類がない。いったいどれほどの傷を負ったのか、想像するだけで痛くなるような激烈なアクションの果てに描かれるあのラストシーンが口許の緩むくらいに爽快なのは、コメディ部分も含めてチェン刑事の味わってきた鬱憤を、きちんと観客が共有できるように描いていたからこそだ。クライマックス手前まではむしろ敵役だった署長の存在もここで巧いスパイスとなっていて、人物描写、配置も疎かにしていなかったことが解る。あちこちに香港映画らしい大味さは残っているが、非常に芯の通った作りをしているからこそ、カタルシスが成立しているのだ。
ロー・ウェイ監督の製作会社に在籍していた当時の苦心惨憺から、レンタル移籍という境遇の中で完成させた『ドランクモンキー/酔拳』が1970年代の到達点なら、本篇は1980年代のジャッキー・スタイルの完成型であり、その頂点のひとつと言えるだろう。それと同時に、21世紀に突入して製作されたリニューアル版『香港国際警察 NEW POLICE STORY』や、個人の正義と国の大義とを問うた『ラスト・ソルジャー』のような作品群に至る、後年の映画人としてのジャッキー・チェンが挑む主題の種子が植え付けられた、ターニングポイントでもあったと感じられる。単品としても素晴らしいが、やはりジャッキー・チェンの作品群を見渡す上で、極めて重要な1本なのである。
関連作品:
『プロジェクトA』
『五福星』
『七福星』
『プロテクター』
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