『怪談新耳袋殴り込み!劇場版<沖縄編>』

『怪談新耳袋殴り込み!劇場版<沖縄編>』

監督&構成:村上賢司 / プロデューサー:丹羽多聞アンドリウ、山口幸彦、後藤剛 / 撮影&編集:青木勝紀 / 音楽:スキャット後藤 / 出演:ギンティ小林田野辺尚人村上賢司、後藤剛、青木勝紀、市川力夫、山口幸彦、木原浩勝、中山市朗、小原猛 / 制作プロダクション:シャイカー / 配給:KING RECORDS

2011年日本作品 / 上映時間:1時間32分

2011年7月30日日本公開

2011年8月10日映像ソフト発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://www.kingrecords.co.jp/nagurikomi/

シアターN渋谷にて初見(2011/07/30) ※初日舞台挨拶つき上映



[粗筋]

 都内の城址青木ヶ原樹海などで命からがら成果を拾ってきた新耳Gメンたちが続いて挑んだのは、初めての“海外”――沖縄である。

 日本で唯一、上陸した米軍との戦闘が繰り広げられたこの土地は、日本でありながら本土とは異なる風俗、信仰が根付いている。地元の現代怪談を集め『琉球怪談』を著した小原猛氏の案内によって訪れた“SSS”は、まさにその特殊性の象徴のような土地であった。

 住宅街から僅かに脇道に逸れただけだというのに、その先には信仰の拠点“御嶽(うたき)”が無数に立ち並ぶ、男子禁制の聖域が広がっている。名前の由来である、繰り返されるカーブに突入した途端、一同を包みこんだ霧に、ギンティ小林ら新耳Gメンは「とんでもないところに入り込んでしまった」という思いを新たにする。

 だが、これは始まりに過ぎない。小原氏の案内を得て、新耳Gメンは南へと下っていくように心霊スポットを辿っていく。その道程は、上陸した米軍の足跡を辿るのにも似ていた……

[感想]

 ……このシリーズが劇場版として発表されたことに対する私の評価は『<関東編>』であらかた書いてしまったので、その辺のことはあちらの感想を参照していただきたい。

 しかしこの姉妹編の意義は、案外きちんと撮影されたことのない沖縄の怪奇スポットを採り上げ、その異様な空気を映像に収めたことにこそあるように思う。

 彼らが本来目的とする“幽霊を撮る”という目的、誰もが瞠目するような怪奇映像を撮る、という意味合いからすると、正直なところ物足りない。DVD版と比べて、奇妙な映像や写真をかなり多く収穫しているのは確かだし、物理的に奇妙な現象を捉えているのは間違いないのだが、こういう怪奇ドキュメンタリーに対して観客が求める、重量級の衝撃は感じない。劇場版の企画が立ち上がってから取材に赴く、という仕組みで実際に収穫を得るのはまず不可能に近いことは承知していても、敢えて“ヤバい”と言われる場所に突撃し、不謹慎な挑発を繰り返して何かしらを招き寄せている彼らなら、という期待からすると、いまひとつだ。

 しかし、その収穫の乏しさを前提にしても、本篇の映像は怪奇ドキュメンタリー愛好家にとってかなり魅惑的だ。『新耳袋』とともに日本の怪談文芸を牽引してきた『「超」怖い話』シリーズの立役者である平山夢明氏が畏怖するほどの不気味さを誇る“SSS”や、オカルトに詳しい人であれば咄嗟にウィンチェスター邸を想起するはずの巨大な廃墟・N高原ホテルへの潜入レポートは、その異様さを克明に伝えていて、なかなかに優秀だ。

 そして、そんなところで相変わらず馬鹿をやっている新耳Gメンたちが、ある意味で頼もしい。“SSS”では、1枚だけやたら激しく揺れる葉っぱであったり、突然誰かに引っ張られたかのように躍る木の枝など、期待とは異なるが奇妙な現象を記録している一方、その気配に終始怯えっぱなしの一同の振るまいが実に滑稽だし、N高原ホテルで繰り広げる“挑発”と銘打った悪ふざけと、その担当者を決めるためのジャンケンにいい大人が本気になっている様は笑わずにはいられない。恐怖と笑いをきっちり両立している、という意味では、非常に優れた娯楽ホラー映画になっている、と言え……なくもない。

 締め括りのところでちょっと悪ふざけが行きすぎてしまった感もあるものの、訪れたスポットのいずれもが『<関東編>』含むこれまでに訪れた場所よりも異様な気配が著しく、また短期間で集中して撮影を行わねばならなかったであろう都合上、ガス抜きをする暇もなかったことを考えれば、まあ致し方のないところと言えよう。悪ふざけとは言い条、よくよく考えてみると奇妙な点を、わざとなのか天然なのかは不明ながら残しているのが、巧妙であるとも言える。

 いずれにせよ、『<関東編>』と同様、大勢で眺めて愉しく、そして1人で噛みしめるとけっこう恐ろしい、なかなかに見応えのある怪奇ドキュメンタリーである。あんまり過剰に怖い想いをしたくない方は、複数でご覧になることをお薦めする――まあ、そんなことをしても、本質的に恐がりの方は帰り道や、自分の部屋で一人きりになったときに揺り戻しを味わうことになるでしょうけれど。

関連作品:

怪談新耳袋殴り込み!劇場版<関東編>

怪談新耳袋[劇場版]

怪談新耳袋[劇場版] 幽霊マンション

怪談新耳袋[劇場版] ノブヒロさん

怪談新耳袋 怪奇

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