『フレンチ・コネクション』

フレンチ・コネクション [Blu-ray]

原題:“The French Connection” / 原作:ロビン・ムーア / 監督:ウィリアム・フリードキン / 脚本:アーネスト・タイディマン / 製作:フィリップ・ダントニ / 撮影監督:オーウェン・ロイズマン / 美術監督:ベン・カサツコワ / 衣裳:ジョセフ・フレットウェルIII世 / 編集:ジェリー・グリーンバーグ / 音楽:ドン・エリス / 出演:ジーン・ハックマンフェルナンド・レイロイ・シャイダー、トニー・ロー・ビアンコ、マルセル・ボザッフィ、フレデリック・ド・パスカル / 配給&映像ソフト発売元:20世紀フォックス

1971年アメリカ作品 / 上映時間:1時間44分 / 日本語字幕:佐藤一公

1972年2月26日日本公開

2011年3月2日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/06/20)



[粗筋]

 ブルックリン警察のジミー・ドイル(ジーン・ハックマン)、通称“ポパイ”は非番で入ったバーで、見知った悪党が一堂に会している現場を目撃する。相棒のルッソ(ロイ・シャイダー)と共に、そのなかのひと組の夫婦を尾行すると、贅沢な身なりと高級車を乗り回していたはずが、途中で車を乗り換え、辿り着いたのは小さな食堂。分不相応な豪遊ぶりと振る舞いに、ドイルはふたりが大掛かりな麻薬取引に絡んでいる可能性を察知した。

 その夫婦、サル・ボカ(トニー・ロー・ビアンコ)とアンジー(アーリーン・ファーバー)に接触しようとしていたのは、フランスの大物、アラン・シャルニエ(フェルナンド・レイ)である。彼は親族であり、世界的なスターでもあるアンリ・デヴロー(フレデリック・ド・パスカル)を利用して、上質な薬物を大量にアメリカに運んで売り捌こうとしていた。

 デヴローと相次いでブルックリンに入ったシャルニエの存在を、素性こそ知らないまでもすぐさまに嗅ぎつけたドイルは、彼らのあとを追う。だが、用心深いシャルニエは、取引の摘発に執念を抱くドイルの追跡を早速と感知し、彼を振り回すのだった――

[感想]

 近年はポール・グリーングラス監督のようなフォロワーや、手持ちカメラを多用する映像手法の定着によってさほど珍しいものではなくなったが、この時代にここまでドキュメンタリー風の、まさにその場に居合わせているかのような映像を構築した作品はあまりなかったのではないか。

 本篇は説明的な台詞がないどころか、背後の事情もあまり語ろうとしない。直感で追い始めた人物から、フランスを拠点とする麻薬密輸計画を探り当て、その追求に邁進していくものの、関係者がどういう位置づけになっているのか、どんな方法で密輸をするつもりなのか、など細部については具体的な説明はない。ひたすらに映像で描かれる行動から推測させる、という手法を取っている。必要な部分はきちんと見せているが、他の枝葉の部分については奇妙でも何ら説明をしようとしない。いちばん解りやすい例は、主人公であるドイル刑事の“ポパイ”という仇名の由来について一切釈明がないことだ。こういうところにこだわっていると、きっと本篇は居心地が悪い。

 しかし、説明がないからこそ、いったい何が進行しているのか把握するために、物語にのめり込んでしまう。序盤は淡々と進み、捜査陣も決してドラマティックに真相に迫っていくわけではない。紆余曲折の果てにどうにか手懸かりを見つけ、少しずつ手繰り寄せていく。その地道さが却って観るものを惹きつける、というこのタッチは、静かだが刺激的だ。

 かと思うと、本篇は終盤近くに強烈な見せ場を用意している。高架鉄道と、その下を走る乗用車との追跡劇である。鉄道の中で追われる男が乗客や鉄道員たちと緊迫したひと幕を繰り広げる一方で、それを刑事は信号を無視し大破させながらも車で追いすがる。遅く走ってフィルムを早回しにする、という手法でスピード感のある映像を作りあげた、という場面らしいが、その迫力には呼吸が止まる思いさえする。

 だが、この追跡劇以上に、本篇の魅力が横溢しているのは、ドイル刑事がアランを尾行するくだりだろう。途中でアランは尾行の存在に気づき、ドイルもそれを察知しているが、互いに引かない。街の構造を利用し、目くらましをしたかと思えばすぐに再び接近し、その駆け引きは地下鉄まで延々と続く。ドキュメンタリー的な撮影手法と、説明を排しているからこそのテンポと緊迫感もさることながら、このひと幕で追う側追われる側の知性をも閃かせる。このくだりの存在が、最後の廃工場でのひと幕にいっそう彩りと力強さを添えているのだ。高架鉄道対乗用車の圧倒的インパクトに比べると温和しいが、終わりの見えないサスペンスこそ、本篇の真骨頂と言えるのではないか。

 そして、最終的にどうなったのかを、映像で明示していないのが巧妙だ。いちおう全ての人物のその後を静止画とテロップで語っているが、ドキュメンタリーを擬した描き方であるがゆえに、鵜呑みに出来ない。語られている以上のことが起こっていることを仄めかすような締め括りの不穏さが、昏い余韻を響かせる。

 本篇のようなドキュメンタリースタイル、感情を排して客観的に事件を追う類のクライム・サスペンスは多く作られているが、そんな中にあって本篇は未だ力強さを失っていない。重量級の名篇である。

関連作品:

ハンテッド

許されざる者

ザ・プロフェッショナル

荒野のストレンジャー

スカイライン−征服−

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